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2020年5月の記事一覧
「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」5
いち早く戦後の渇望を満たした”本物の珈琲”
焼け野原になった大阪の街は、まさに絶望的な光景だったことだろう。ただ、その中にあって、奇跡的に貞雄氏の自宅と今池の店が残っていたことだけは、唯一“希望”と呼べるものだった。
終戦を告げる玉音放送を聞いてから2カ月後、貞雄氏は何より心配していた家族を迎えるべく、疎開先へ向かった。当然、電車の切符など取れる状況ではなかったが、そこは元南海電鉄の職員だ
「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」4
再びの逆境にも揺るがない商売人の意地
前回から少し話を遡るが、貞雄氏の修業時代から『丸福商店』開店に至る、1925年(大正14)から1932年(昭和7)頃の大阪は、東京市(当時)を面積・人口ともに上回る日本一の都市として繁栄を極めた。関一(せきはじめ)市長による総合大阪都市計画の下、市営地下鉄や御堂筋など矢継ぎ早の事業によって「大大阪」へと変貌*1。同時期には、大阪資本のカフェーが関東大震災後
「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」3
創業から息つく間もない盛り場の賑わい
1934年(昭和9年)に開店した「丸福商店」今池店。現在の本店とは所在が違うが、大阪での”発祥の店”は、実は今もほとんど姿を変えずに営業を続けている(現在は「コーヒーショップ 伊吹」に改名)。筆者は実際に店を訪ねてみたが予想外に狭い、というよりむしろ細いと言った方が正しい。間口を入ると店内は右奥に向って鋭く尖っていき、左右の壁に据付のテーブルとスツールが交
「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」2
大阪の恩人への義理と苦渋の決断
幼なじみの親友に、線香をあげた貞雄氏の胸中はいかばかりだったろうか。彼は墓参のために大阪に帰ってきていた。わざわざ手紙で訃報を知らせてくれたのが、他ならぬ大阪での修業時代を過ごした割烹の女将であってみれば、なおさら来ない理由はどこにもなかった。しかし、親友に別れを告げたあと、彼はことの真意を知る。
義理堅い貞雄氏の性格を熟知してのことだったのか、女将は「一人
「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」1
先日、お知らせしました通り、今回から『甘苦一滴』の連載記事「濃く、苦く、深く~丸福珈琲店小史」の再掲をお届けします。
その前に、丸福珈琲店について簡単に。丸福珈琲店は、全国有数の喫茶店数を誇る大阪で、創業70年を超える老舗。俗に”なにわストロング”とも称される、深煎りの濃厚なコーヒーで親しまれています。近年は各地に支店ができて全国的に知られる存在となりましたが、その独特の味がいかにして支持を