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「眠れない夜に」


「舌出して」

粘膜と粘膜の吸い付く音が響く。

静かなこの部屋は、何も隠してくれない。

吐息が加わり、興奮が加速していく。

レロ…レロ、チュパッ…チュッ…チュル、レロ…

気持ちいい。
人の口の中って少し甘い。
自分で自分の口を甘いと思ったことなんて無いのに。
こんな時に甘さに気づくなんて、えっちだな。

絡み合うみたいに、どちらも当たり前みたいに。
唇が重なり合い、食べてしまうみたい。
食べられたいな。
いや、食べたいと思って欲しい。

あなたの名前を呼ぶ唇も。
あなたを探し求めるこの舌も。

求めてもらえればすぐにでも差し出すのに。

あと一口。
いつもそこまで。
もっと、欲しがって。
もっと独占してよ。

こんなに舌を絡ませて。
僕達ひとつに溶けそうなのに。

キスをする時、いつも僕が首を伸ばす。
甘えるみたいに欲しがるんだ。
あなたは微笑んで、僕に手を伸ばす。
頬に手を置き、サラサラと撫でてくれると嬉しくて。
ずっとしてほしくなっちゃうよ。

あなたが開けてくれた僕のピアス。
あなたとお揃いの舌のピアス。
最初は痛いのに、わざと舌を絡めてくるから文句を言おうと目を開けたんだ。
そしたら、あなたは微笑んでた。
目の前の近すぎる距離で、あなたは目を開いたまま僕を見て笑ってた。
その瞳の奥に飲み込まれそうだった。
一瞬で痛みを溶かして、舌が差し込まれる口は力が抜けだらしなく開いた。

僕夢を見たんだ。
あなたの細胞のひとつになる夢を。
毎秒消えて無くなる細胞のひとつに。
もうすぐで僕は消えてなくなる。
パンッて弾けるように一瞬で消滅する数いる細胞の中のひとつ。
その時思い出すんだ。
僕は僕という人として生きてきた気がしていたけど、それは間違いだった。
僕はあなたの中の細胞のひとつで、あなたを思うばかりに、自分を人の男だなんて勘違いを起こした。
あなたは僕のこと知る由もないけど、
僕は初めからあなたに組み込まれた細胞の一部でした。
順に消えてなくなる。
もうすぐ僕の番だ。
勘違いだと気づき少し悲しかったけど、
僕は最後に気づけてよかった。
あなたのものとして、終われるから。

目が覚めると、背中を向けて眠るあなたがいた。
僕はあなたの身体から追い出され、ひとつの個体になってしまっていた。
とても寂しくて、とても悲しかった。
後ろから寝ているあなたに抱きついた。
僕に気づきあなたは振り返ると頭を撫でてくれた。

「大丈夫よ」

ありがとう。でも全然大丈夫なんかじゃない。
僕はあなたとひとつになりたい。
それが無理なら、あなたの手で僕を無くして欲しい。

もっと、もっと僕に穴を開けてよ。
ニードルの穴に僕の肉片が残ったのを見た時、仕組みを知って驚いたんだ。
僕の一部が切り落とされて穴が開いた。
僕が少し減って、そこに風が通る。
空間。そこに僕はいない。

僕を尊重なんてしないで。
それなら僕を無くしてください。

好きってこんな気持ちだっけ
恋ってこんなに泣きたくなるかな

お願い
僕を無くしてよ

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