ライト・プロジェクトマネジメント人材増やしたい!けれども、プロジェクトマネジメント推進団体とは話進む気がしない
イノベーターやリーダーの補佐役として、タスク分解・定義し役割分担や進捗管理を率先したり、なんならタスクの一部を遂行する……そのようなライト(軽めの)・プロジェクトマネジメント人材が増えれば、新規施策や新規事業創造も、変革もイノベーションも起こりやすくなる。それを僕は最近、数々の現場で深く実感しそして主張している。
ライト・プロジェクトマネジメントの人材育成や能力開発を、企業や行政はビジネスパーソンに広く施した方がよい。そう確信もしている。
その一方、いわゆるプロジェクトマネジメント推進団体やコミュニティと話をしても埒が明きそうにないとうっすら感じ始めている。今日はそんな所感を綴る。
なお、本投稿はプロジェクトマネジメント推進団体を批判するものではないし、読者諸氏においては「プロジェクトマネジメント」をご自身が関わっている(あるいは切り拓いていきたい)領域やテーマに置き換えて読んでいただきたい。では、早速いってみよう。
1.なぜプロジェクトマネジメントの専門家陣と話をする気になれないか
「(ライト)プロジェクトマネジメントの能力開発を民主化しよう」
そう思うや否や、まずプロジェクトマネジメントの専門家や推進団体と話をし一緒に進めるのが良い。かつての僕だったら、間違いなくそう飛びついていたに違いない。ところが、今回そこに力を入れるのはやめておこうと思う。
(厳密に言えば、話を分かってくれそうなプロジェクトマネジメントの専門家数名に相談には乗ってもらっており、その上での僕の判断である)
その判断の背景は大きく3つ。
(1)他の活用方法を想像できない
もちろんすべての団体がそうとは言えないが、往々にしてこのような職務領域や技術・知識の有識者団体や推進団体は、専門知識を深めて広めることに意識が向きがちである。それ自体は大いに価値があるのだが、今回の僕の課題感のように、その知識を別の目的で、別の層の人たちに広めると考えたときに想像が及ばない人も多い。「ポカン」とされてしまい、そこから先の話が進まないのである。
(2)「型崩し」が苦手
また、「型崩し」を不得手とする人(あるいは嫌う人)もこの手の団体には多い。というより、世の中には「型崩し」が苦手な人がほんとうに多いと感じている。
今回の僕の主張は、プロジェクトマネジメントの考え方を(かなり)軽量化して、より手軽に活用できる人を職場に増やすものである。
正直、従来のプロジェクトマネジメントのフレームワークや知識をそのまま流用するのは重たすぎる。プロジェクトマネジメントの専門家でもない人たちが日常の業務の細かなものごとの推進に応用するためには、「型崩し」が不可欠だと僕は思っている。
(なおかつ「型崩し」バージョンの育成プログラムと教科書を既に僕たちは用意している)
ところが、プロジェクトマネジメント推進団体の人の中には、「型崩し」の発想を持てない、それどころか「型崩し」を良しとしない人たちもいる。
「邪道だ」と批判して来る(あるいは快く思わない)のだ。
彼ら/彼女たちは、プロジェクトマネジメントをありのままの姿で広める(あるいは知識を深める)ことを目的としている。専門家の誇りにかけて(もちろんそれだけではないが)、型崩しなぞ邪道かつもってのほか(面白くない)なのである。
正統派以外は認めない。その不寛容さによるギクシャクは趣味領域などでも度々目にする。以下はその関連記事。
繰り返すが、「型崩し」をせず正統派を守り抜く。その活動にも意義がある。一方で「型崩し」を許さないカルチャーは、発展および想定外のファン創出を阻害する負の面も持ち合わせる。
さらに言うと、この話はダイバーシティ&インクルージョンや、イノベーションにも通じる。
以下は、僕が最近ダイバーシティ関連の講演で必ず出すスライドの抜粋である。最近は、ダイバーシティ後進国と言われる愛知県での企業講演でもこのスライドを投影してお話しした。
今回注目して欲しいのは一番下、「7.目的・用途のダイバーシティ」である。
その組織や施設、ひいては知識や技術の用途を決めつけすぎず、他の目的や用途にいかに解放できるか? いわば「型崩し」を許容するか。
それこそが課題解決、新価値創造、新規事業創造、イノベーションなどの基盤であろう。目的・用途のダイバーシティの発想がなく、もったいないことになってしまっている組織を僕は山のように見てきている。
抹茶ソフトクリームが、抹茶とスイーツの新たな掛け合わせで新しいマーケットと感動を切り拓いたように、抹茶のべき論とスイーツのべき論に固執していては、イノベーションは興らないのだ。
抹茶の用途をスイーツ領域に解放する。スイーツが抹茶を受け入れる。その「型崩し」の発想こそが、共創とイノベーションの基盤である。
他者に、他の目的で解放する。ただそれだけで道が拓けるテーマはたくさんあるのだ。キーワードは解放である。
(3)現状に困っていない
3つ目の背景は「現状で何も困っていない」。
とはいえ、老舗の団体や組織が他者や他目的への解放に二の足を踏みたがる気持ちも分かる。
・メリットやリスクを想像できない
・プライドが高すぎて正統派以外のものを認めない
・自分たちが大切にしてきたフィールドを荒らされたくない(自分たちだけの城を守りたい)
さらには、
・いまのやり方で困っていない
のも大きい。
たとえば仮にあるプロジェクトマネジメント推進団体が、既にプロジェクトマネジメントの資格取得のビジネスで成り立っているとする。
その既存ビジネスで安定した収益があげられていればこそ、わざわざ「型崩し」をして新たなビジネスをする動機づけは起こりにくい。
(この手の話は、経営幹部が天下り人材で成り立っている団体などにも多く見受けられる。若手が新たなチャレンジしたがっても、経営幹部が理由をつけて抵抗する。なぜなら困っていないからだ。天下り経営幹部は、できれば余計な投資をせず安定路線で逃げ切りたい(かつ既得権益だけを得続けたい)と思っている)
(4)ビジネスにつながらなそう
仮に話を聞いてもらえたとしても、ビジネスにつながるかどうかも気になる。
このような推進団体には、善意でもって正統派路線のプロジェクトマネジメントを深め広めていきたい団体もある。その場合「一緒に広めていきましょう。ただし無報酬で」で終わりかねない。
百歩譲って、僕たち(当社)がプロジェクトマネジメントの普及をミッションに掲げているのであればそれも悪くない(実際、当社も零細企業ながら非営利の活動にも投資している)。
しかし、僕たちはプロジェクトマネジメントの普及をしたい訳ではない。プロジェクトマネジメントの普及は、あくまで僕たちが目指す社会(越境・共創により世の中に新しい景色を創る(組織変革、新価値創造、イノベーション、etc.)を実現するための課題解決の手段であり、地ならしであり、ハードルを取り除くための経由地にすぎないのだ。
だからこそ時間も手間もかけ過ぎることはできないし、一企業である以上ビジネスとして成り立たせていかなければならない。
にもかかわらず老舗の普及団体に話を持っていくと「あなたたちがやりたいことに協力してあげるんだから、無報酬でやってよね」の関係になってしまうこともある。こうなるともはや下請けであるし、本意ではない。
(僕たちは、下請け仕事はやらない主義である。メンバーのウェルビーイングも損なうし)
そもそもマーケットにリーチできない可能性もある。
なぜなら、僕たちはプロジェクトマネジメントを欲している人たちと出会いたい訳ではないのだ。
もっと言えば、プロジェクトマネジメントが何ぞやを知らない人たちで、プロジェクトマネジメントの発想・役割・能力を欠いていてものごとが進まず困っている人たちにリーチしたい。
そのような人たちは、プロジェクトマネジメントの専門家や推進団体に助けを求めることはないであろう。
そう……顧客はプロジェクトマネジメントを明示的に求めている訳ではないのだ。
なおのこと、プロジェクトマネジメントの専門家陣や推進団体と話をしても、マーケットにリーチできそうにないと感じてしまうのである。
2.新規事業が興らない/潰される構図に類似
と、ここまで読んで勘の良い読者諸氏は気づいたであろう。
この構図、新規事業が興らない(あるいは結局潰される)組織構造と同じである。
既存事業でそれなりの稼ぎを得られていて、わざわざ新しい事業を興さなくても困らない。経営幹部も、結局のところ今のビジネスモデルや組織構造を変えたくない。だから、なんだかんだ理由をつけて既存事業に逃げる……もとい、既存事業の論理を優先してしまうのだ。
成熟したプロジェクトマネジメント推進団体にも、僕は同じ構造を見た。
(繰り返すが、僕はプロジェクトマネジメント推進団体を批判している訳ではない。正道を守り続ける。その価値も大きい。ただ「型崩し」と応用を共創できるパートナーにはなりにくいと思っているだけだ)
実は僕は似たような体験を、10年近く前にもした。
当時はプロジェクトマネジメントではなく、(IT)サービスマネジメントの考え方をIT以外の領域に「型崩し」して広めようと試みた。ITサービスマネジメントの推進団体や有識者団体いくつかに話をしたのだが「ぽかん」とられるか、無視されることもあった。あからさまに既存の資格取得ビジネスにしか興味がない様子の団体もあった。
(そんなマインドだから、(IT)サービスマネジメントが単なる資格試験程度にしか思われず、本質的な活用も進まず、IT以外の領域にも広がらないんだと思ったものだが)
もちろん、僕の推進力不足もあるが、そんな経験をしたのもあって、今回も推進団体へのアプローチには二の足を踏んでいる(というより、そこにコミュニケーションコストを投じる経営判断を渋っている)。
なお、僕なりに(IT)サービスマネジメントのエッセンスを「型崩し」して一般化したものは書籍『業務デザインの発想法』にまとめている。
(講座は、当社が運営するオンライン越境学習プログラム『組織変革Lab』でも展開している)
3.課題ややりたいことを、上の句と下の句に分解する
このような時、僕は課題ややりたいことを書き出して「上の句」と「下の句」に分けて考えるようにしている。
今回の場合は、こうだ。
上の句で考えると、プロジェクトマネジメントの専門家と動こう!と思ってしまう。ところが、今回それはおそらくうまくいきそうにない。
そこで下の句に突破口を見いだせないか考えてみる。
考え方た能力を持つ人を世の中に増やしたい。
そう考えてみると、プロジェクトマネジメントの団体よりも、むしろ人材開発の領域の人たちと話を進める方が筋が良いのではないか。そんな仮説を僕たちは立てている。
4.むしろ人材開発の企業や専門家と話を進める
という訳で、今回のこのテーマは人材開発の団体や企業、専門家と話をしていこうと思う(当社のリソースにも限りがあり、誰とでも話を進められる訳ではないが)。
・能力開発に関する相談を(企業などから)日々受けている
・従業員の職種転換やリスキリングの相談を受けている
(とりわけ事務職の処遇(いわゆる「ホワイトカラー余り」問題)に頭を悩ます企業は多い)
このような人たちと組んだ方がマーケットにもリーチしやすく、実行も早いと考えたからである。
事務職スタッフに(ライト)プロジェクトマネジメントの能力開発を施し、リーダーやイノベーターの右腕または補佐役として活躍願う(もちろん、全員が変われる訳ではないものの)。
その職種転換とキャリアパスは大いにありだと思うし、リーダーやイノベーターも助かる。結果として事務業務のスリム化が進み(事務DX)、なおかつ組織の課題解決や新規事業も進みやすくなる。
そのトランスフォーメーションを、人材開発の企業と共創で僕たちは仕掛けていきたい。
なお当社は研修事業は行っていない(例外的に、顧問先企業に対して課題解決の一手段として実施することはあるが)。その人的リソースもなければ、研修だけの一過性の関係構築に関心がないからである。
あくまで越境・共創の組織づくりのための意識付けと世論形成(講演、対談、メディア出演などで)、伴走(顧問やアドバイザー活動)、そのためのフレームワークやコンテンツ・ライセンスの提供やプロデュースに徹している。
研修事業はやらない。餅は餅屋。僕たちはプログラムとコンテンツを提供するので、研修部分は人材開発を生業とする団体や企業に担って欲しいのだ。共創関係でもって、ビジネスとして課題解決をしていきたい。
そうして人材業界の人たちと小さくでもビジネスの成功事例を創ったほうが、回り回ってプロジェクトマネジメント業界の人たちもイメージしやすく、関心を示してくれるかもしれない。話を聞きたがって、声をかけてくれるかもしれない。その方が、お互い気持ちよく対話もできるし、こちらも下請けにならずに済む。
相手と共創関係にもちこむには、まず他者と(外で)小さく形を創る。そのアプローチも不可欠なのだ。
なお、僕が書いた(ライト)プロジェクトマネジメントのエッセンスは書籍『仕事の問題地図』でも解説した。
このレベルのプロジェクトマネジメントが出来る人を、世の組織に増やしたい。
以下の新刊もよろしく!