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特別養護老人ホームに入所している母に届けた本が、大正解だった話
2022年1月13日のこと。
わたしの母は雪かき中に、脳出血で倒れ救急搬送されました。入院中にリハビリを拒み、左半身がほとんど動きません。いまは要介護4の認定を受け、特別養護老人ホーム(以下、特養)に入所しています。
わたしは毎月、母のいる特養に会いに行っていました。しかし冬季は、インフルエンザなど感染症予防の観点から、面会制限が設けられています。
もともと内向的な性格の母。車椅子に乗って部屋を出ることもなく、毎日個室で一日を過ごしているのだそう。面会制限がかかり、わたしは母のことが気がかりでした。
(毎日、楽しいことはあるのだろうか?)
そこで10日前、一冊の本を持っていきました。『シルバー川柳12 特売日手押し車でかっ飛ばす』です。
母が顔をクシャッとさせて笑う姿を想像しながら、選んだ一冊。実は今日、二冊目の『シルバー川柳』を持っていくことが決まりました。そんなお話です。
よく小説を読んでいた母
脳出血で倒れる以前、母は推理小説などを好んで読んでいました。図書館で借りて読むことが多かったです。実際、脳出血で倒れたときも図書館から借りてきた本が家に何冊もありました。
星新一や赤川次郎の作品を読んでいた母は、いわゆる活字中毒だったのです。
ところが倒れてからは、頭が痛くなる、目が疲れるなどを理由に一切本を読まなくなりました。脳出血の後遺症かもしれませんが、ずっと小説を読んでいた母を知っているわたしは、寂しい気持ちになります。
押しつけになるかもしれない……だけどもう一度本を読んでほしい。ずっとこの想いが、わたしのなかでうずまいていました。
片手で本をめくれるブックスタンド
脳出血で倒れた直後、母は社会復帰に重要なリハビリを拒否し続けたため、左半身がほとんど動かせません。幸い利き手の右手は動きます。
母の体を考えたとき、片手で本を読むこと自体ムリなのでは?とわたしは落胆しました。
そんな折、書店で『シルバー川柳』という本を見つけます。こういうの、本当に面白いんだよな〜となにげなく手に取ったのですが……。
(文字が大きく、読みやすい!これなら母も読んでくれるかも)
『シルバー川柳』は、すでに20冊以上発売されており、シリーズ化されています。まずは、お試しで一冊購入。家に帰り、母が読みやすいように数ページごとに開いては折り目をつけ、本が閉じにくくなるよう工夫しました。
左手が使えない母も、ブックスタンドがあれば、なんとか読めるかもしれないと考えます。すぐにわたしは、インターネット検索しました。すると、片手でページをめくれるブックスタンドを見つけたのです!
注文して実際に使ってみると、底が滑り止め素材になっているのでいい感じでした。
きみまろの漫談で笑っていた母
『シルバー川柳』を購入したときのわたしは、母が
ブッと吹き出す場面を想像していました。なぜなら、綾小路きみまろがテレビに出ていたとき、母は大爆笑していたから。
きみまろ系の笑いは、母のツボだと信じていたのです。
しかし差入れする当日になって、わたしは不安な気持ちになりました。母はまだ、72歳。
「シルバーとか、まだ年寄り扱いするな」
こんな風に、母を怒らせてしまうかもと思ったのです。特養の職員さんにも、読むかどうかわからないですが……と前置きをしてから託しました。
あれから10日...母は『シルバー川柳』を読んでくれた!
『シルバー川柳』とブックスタンドを差入れしてから10日。母は、わたしの選んだ本を受け入れてくれたか気になっていました。
いてもたってもいられず、今日、特養に電話で問い合せます。介助にあたってくださっているフロアスタッフにつなげてもらい、母のいる個室に行って直接確認してくれました。
「一冊、全部読んだそうです」
無機質な回答でしたが、心のなかでわたしはガッツポーズ。
(うれしかったぁ〜!)
じゃあ、と続けてわたしは、フロアスタッフさんに質問します。
「シリーズ本だから、新しい本を持っていったら読むか聞いてもらえますか?」
電話口のフロアスタッフさんから、すぐに返事がもらえました。
「読みたいそうです」
わたしはていねいにお礼を述べ、終話します。直後、うれしすぎておいおいと泣きました。
母は昔から、家族でさえ借りを作ることを嫌い、母の日のお花も、誕生日プレゼントもいらないと本気で言っていました。今回も気をつかって、「いらない」と言うのではとわたしは想像していました。
想像に反し、「読みたい」と母が伝えてくれたことが本当にうれしくて。だから今月も『シルバー川柳』シリーズを買います。読みやすいように、折り目をつけて開きやすくしてから届けるつもりです。
「お母さん 本が読めたね 笑えたね」
川柳って、難しいですね。春に面会制限が解除されたら、母と一緒に川柳を作るのも悪くないと思いました。
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