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張り替えたての障子が、陽光をまといながら「早くここを出ていくように」と語りかけてきた
わたしは「賃貸契約を解除したいのにいつまでもできない女」。
ここ数ヶ月は彼氏に協力してもらい、どうにかこうにか片付けを進められている。
昨日は、彼とふたりで障子を張り替えた。
寝る前に、1日を振り返って素直な気持ちをXにpostしている。
今日は、人生初の「障子の貼り替え」に挑戦。
— 雨音さん41歳|フレンドリーなカウンセラー (@amaneishappy) October 14, 2024
パートナーに手伝ってもらいながら、2人で3箇所の障子を新しく貼り替えられました!
ちょっとした業者にお願いすれば、数千円でやってもらえると思います。…
彼がいないと、がんばれない……。
わたしはまるで、サンドウィッチマンのコント「引越し」に登場する伊達さんだ(残念ながら、2024/10/15現在公式YouTubeチャンネルでは非公開)。
コントの冒頭、伊達さんが引越し業者の段ボールに囲まれながら、まさに引越し当日だというのにゴロゴロしながら漫画を読み、そんな自分にあせるシーンから始まる。
わたしも伊達さんのように、ひとりだと片付けの手が止まりがちだった。
たとえば思い出のアルバムに目を細めたり、行方不明だった固定電話の子機を見つけ「ここにいたんか〜!」と声をあげる始末だ。
これでは埒が明かないので、わたしは思いきり彼を頼ることに決めた。
・ ・ ・
そもそも、なぜ賃貸契約を解除しなければならないのか。
理由は明確だ。
父は、わたしが小学6年生のとき病気で他界している。そして母が、特別養護老人ホームに入所したのは1年前の出来事。
わたしはというと、彼の住まいに居候して5年以上経つ。
つまり、実家(と言っても借家だが)には誰も住んでいないのである。
この先、維持費が払えなくなるので手放すしかなくなったのが結論だ。
・ ・ ・
昨日は原状回復のため、彼とふたりで3部屋分の障子を張り替える作業をした。
彼とふたりで取りかかればすぐに終わると思っていたが、現実は地味で繊細な作業だということを思い知らされる。
専用の液体を格子に塗り古い障子をすべてはがす
格子に残ってしまった障子紙を濡れ雑巾などで拭きとる
新しい障子紙をセロテープで仮止めする
格子に液体のりを塗り障子紙を貼りつけ軽くおさえる
余分な障子紙の余白をカッターでカットする
想像していたより工程が多く、最初こそ苦戦した。
2枚目以降は、彼とわたしで役割分担がはっきりしたのでサクサク作業が進んだ。
わたしたちは、それなりに要領のいいコンビだと自画自賛する。うふふ。
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最後の1枚を張り終え、窓枠にはめる工程は彼に託した。
わたしは鈍くさくて、せっかく張りなおした障子に穴を開けてしまいそうだったからね。
彼の手によって無事、真っ白で張りのある障子が元の位置に戻された。
時刻は、お昼12時台。
まぶしい太陽の光が、障子越しにわたしたちを包みこんでくれた。
そのとき、張り替えたばかりの障子が陽光をまといながら「早くここを出ていくように」と語りかけてきたので、思わずわたしは息をのむ。
障子がまるで、背中で語る大工の棟梁のような威厳を放っている!
わたしたちが時間をかけて張りなおした障子紙が、液体のりの乾きとともに、ぴんと張っていた。
棟梁の立ち振る舞いに、わたしの背筋までぴんと伸びる。
このときわたしは、メデューサと目が合ったかのような緊張感を味わった。
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彼にも手伝ってもらい、わたしたちふたりの手で張り替えられた障子。
便利屋に障子を張り替えてほしい、とお願いするのは簡単だ。
でも他人に任せていたら、障子、いや棟梁の声は聞こえなかったと思う。
陽光をまとった棟梁は、わたしに対して「胸を張れ」と言っていたのかもしれない。
いつまでも家族から自立できない家主に、障子に化けた棟梁が鼓舞してくれた。
そう、わたしは信じてやまない。
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