ユウヤへの「執着」を手放す
数回のカウンセリングを経て、ユウヤを助けたかったこと、そして本当は、自分自身が救われたかったことに気づきました。
そしてここからは、ユウヤに対する執着を手放すプロセスへと入っていきます。
身を切るように辛かったイメージワーク
カウンセリングに何度か通いながらも、私の心はまだ、ユウヤにしがみついていました。
無理もありません。カウンセラーのⅯさんが「彼はあなただったんですね」と表現してくれたように、ユウヤはもう、私の一部だったのです。
心に開いた大きな穴を共有していた同士ですから、ある意味本当に、特別な存在でした。彼への思いは恋愛感情というよりも、執着だったと思います。
私はもうユウヤのもとに戻る気はありませんでしたから、この「執着」を手放すしかありませんでした。
☆
Ⅿさんのカウンセリングではセラピーのひとつとしてイメージワークというものを取り入れており、私に、ユウヤへの執着を手放すためのイメージワークをいろいろやってくださいました。
一番記憶に残っているのは、ユウヤの奥さまに彼を差し出すというイメージワークです。
私はカウンセリングルームのソファに座って目を閉じ、Ⅿさんの誘導に従ってこんなイメージをしました。
まず、私とユウヤが手をつないで立っています。そして、遠くに、彼の奥さまになった女性が立っているのを想像するのです。
一歩、また一歩。私とユウヤは、彼の奥さまのもとへと歩いていきます。私のイメージの中の奥さまはとても優しそうな女性で、彼女もなぜか泣いていました。
一歩一歩が、つらくて仕方ありませんでした。
そして、奥さまの目の前に到着し、握っていたユウヤの手を離し、ユウヤを奥さまに差し出すのですが……。
これが、決して簡単なことではありませんでした。
私の頭のなかのイメージでしかないのですが、どうしても、ユウヤの手を離すことができないのです。
この手を離したら、すべて終わってしまう。
そう思ったら、泣けて泣けてしかたありませんでした。
彼は私なのに。私の一部なのに……。
「でも、もうこの手は私のものではないんだ。離すしかないんだ」。
そう自分に言い聞かせて、
ようやく、きつく握ったユウヤの手を離しました。
そして、目の前にいる奥さまに、ユウヤを差し出したのです。
私の目の前には、手をつないだユウヤと奥さまがいます。
やっぱり二人とも泣いていました。
その姿を見て、私もただただ泣きました。
しばらくそうしていたあと、
私はふたりに背を向け、
もと来た道をひとりで歩き出します。
そして、目の前にある扉を開いて外に出て、
その扉をそっと閉じました。
☆
このイメージワークの効果は、なかなか絶大でした。現実では実像を持たなかったユウヤの奥さまが、私の頭のなかでかなりはっきりとビジュアル化されたのです。
また、ユウヤを奥さまに差し出し、手をつなぐふたりを目の当たりにしたことで、彼はもう奥さまのものなのだということ。奥さまと一緒に生きていくのだということを、認識せざるを得なくなりました。
私のものだったユウヤは、もういなくなってしまったのです。
単に私の頭の中でイメージするだけであるのですが……。
これは本当につらい体験でした。
彼を選ぶ女性なら、きっとそのひとも優しい方のはずです。きっと彼も幸せになれるはず。そう思いながらも、イメージの中でつないだ彼の手を離し、奥さまの手を握らせるのは、決して簡単なことではありませんでした。
☆
彼との思い出を書いた紙を、Ⅿさんが用意してくれた箱に「大切にしまう」というワークもありました。
「大切に。というところがポイントなんです。天宮さんにとって、本当に大切な思い出ですからね」。そんなⅯさんの言葉を聞き、私は泣きながら思い出を書いた紙を箱に入れ、蓋を閉じました。
目の前に彼が立っているのをイメージして、言いたかったこと、言えなかったことを言うというワークをやっていただいたこともあります。
泣きながら彼に想いをぶつける私に、イメージのなかの彼は、なんだか悲しそうな、申し訳なさそうな顔をしていました。
⭐︎
こうしてユウヤをへの執着を手放しつづけた結果、
ユウヤの存在が薄れていくとともに
私の心はなんだか空っぽになっていきました。
そしてようやく、自分自身の痛みと向き合うステージに移っていくのです。