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33.無課金おじさんで思い出した、日本経済衰退の歴史。

パリ五輪、私はテレビを持っていませんし関心もありませんでした。SNSでは開会式の気色悪いパフォーマンスが話題になっており、これを不快に思わず国家レベルのイベントとして受け入れている人が多数派であるなら、由々しき事態だと暗い気持ちになっていました。

あのようなパフォーマンスは、昔は「アングラ(アンダーグラウンド)」と言われていて、いわゆる一般常識とは違った独自の主張をする前衛的で実験的な表現として表舞台ではない場所で、反社会的かもしれないという自覚のもとで大人が遊びとしてやるもので、子どもが見ていいものだとは思えません。

そのような暗澹たる雰囲気のなか、まるで一条の光がさしたかのような人物の登場がありました。射撃混合エアピストルで銀メダルを獲得した「無課金おじさん」ことトルコのユスフ・ディケチ選手です。
照準を定めるための射撃用の眼鏡をかけず、発砲音を防ぐ大きな耳当てもつけず、普通の眼鏡と市販の耳栓にラフなTシャツ姿で、それがゲームで「装備に課金しない」人という認識が日本で広まり、「無課金おじさん」という愛称で呼ばれるようになったということです。

また、左手をズボンのポケットに突っ込んで照準を合わせる自然体のポーズが、日本で人気のアニメ「シティハンター」の主人公に似ているとも言われ、アニメのエンディングで流れる曲「Get Wild」を、彼の射撃動画のBGMに入れて欲しいという声が上がり、そのような動画が多数作られることになりました(笑)。

「Get Wild」をBGMにした動画

格好いいですね。特に日本人に受けが良かったとのことで、余計な装備を使わず自分の感覚だけを頼りに競技に臨む姿が「達人」「職人」というイメージを日本人の心に呼び起こしたようです。
達人」「職人」については、拙稿「哲学#014.「納得」を求める力がなければ、いい仕事はできない。」で述べましたが、その裏には「納得」「洗練」「」というものがあります。ある種の「美意識」です。そのような感覚をもっている人が日本に多いというのは嬉しいことだと思いました。

無課金おじさん」自身もインタビューで「どのようにすればいい結果を出すことができるか、自分でいろいろ考えて試してみたところ、装備を使わないで自分の感覚を信頼した方がいいという結論に達した」と述べています。つまり、試行錯誤の末、シンプルが一番と「納得」したということですね。
多くの日本人は、そこに共感したのだと思うのです。

で、「無課金おじさん」の動画を観て思い出したことというのは、BGMに使われていた曲「Get Wild」を聴いて思い出したことなのです。
Get Wild」を作曲したのは、TM NETWORK小室哲哉さんです。若い人たちは知らないかもしれませんが、1980年代に大活躍したスーパースターです。
あの頃は、冬、どのスキー場へ行ってもTM NETWORKの曲がかかっていました。特にリフトに乗っている間、ず〜っとTM NETWORKの曲を次から次へと聴かされるのが苦痛に感じることもあったぐらいです。

拙稿「田舎移住006.移住した私が体験した美のあれこれ。」で、1980年代後半に世界初のノートブック型パソコンDynaBook」が日本から発売されて話題になったことを述べましたが、そのこととリンクして、あの時代、日本は経済的にピークを迎えていたことを思い出したわけです。
世界で最初にノートパソコンを発売したのは、日本だったのです。つまり、日本は技術開発力やポテンシャルが世界でトップクラスだったといっても過言ではないと思います。いまでは考えられないほど勢いがあった時代でした。

1980年代後半、日本はまさに「バブル景気」に沸き立っていました。日経平均株価が38,957円の史上最高値を記録し、不動産価値も高騰して東京の山手線内側の土地を買う値段でアメリカ全土が買えるほどまでになりました。
その流れで日本企業による外国不動産の買い漁りが進み、三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センターを買収して話題になりました。
ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるようになり、東南アジアの国々からも「日本の成功を見習え」と言われるようになりました。

私の周囲の中小企業も景気が良く、社員旅行は海外へ行くことが多く、チームリーダー格の社員のお誕生日会などは六本木のレストランを借り切って開いていました。
日本の1人あたりの国民所得はアメリカに次ぐ第2位となっていました。
企業も個人も株価や地価の上昇が永遠に続くという期待が膨らみ、本業への投資ではなく、土地や株式に投資するようになりました。
そんな浮かれた雰囲気の中で流行っていたのがTM NETWORKの「Get Wild」でした。
ご参考にYouTubeに残っていた当時のプロモーションビデオをご覧ください。イントロ部分だけでもいつまでも聴いていられるほど格好いいです。やはり小室哲哉さんは天才です。

■TM NETWORK「Get Wild」Official Music Video


私も日本はこれからどんどん豊かになると思っていました。仕事は超ハードで2日徹夜とか、連日終電に間に合わずタクシーで帰宅するとか、タクシーで帰宅しても家に着くのは深夜2時頃で、それからお風呂に入ったりして2時間ぐらい寝たと思ったらもう出勤の支度をしなければならず、自宅まで往復する時間が勿体ないので会社の会議室のテーブルの上で寝たこともありました。
それでも未来に希望があったので、仕事も遊びも精力的にこなしていました。つまり、元気があった時代だったのです。
あの頃は「24時間戦えますか?」というCMが話題になり、24時間営業のコンビニが残業する人々の強い味方となりました。

で、いま立ち止まってみると、いつの間にか日本の1人あたりの国民所得は世界38位となっています。名目GDP成長率は-2.0%です。年々下がっています。

で、経済成長率の方はというと、なんと172位になっていました。

トホホという感じですが、何がどうしてこんなことになってしまったのか、ちょっと振り返ってみたいと思います。
日本経済の衰退のきっかけはというと、経済に詳しい方々の多くは1985年の「プラザ合意」をあげます。
ニューヨークのプラザホテルに先進国5カ国(日・米・英・独・仏=G5)の財務のトップと中央銀行総裁が集まり会議が開催されました。
アメリカの目的は、為替相場をドル安に転換させることで、製造業を活性化させて輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすことでした。会議の末、アメリカの希望が通り、各国が大規模なドル売り介入を行い、ドル安が実現することとなりました。

その結果、日本は円高となり、日本の輸出競争力は低下し、町工場は相次ぐ倒産に見舞われる羽目となりました。いったい何が悲しくて日本はアメリカのために自国を犠牲にしたのでしょうか。
その理由としてあげられているのは直前に起こった「JAL123便墜落事故」です。この事故で、日本政府はアメリカに弱味を握られてしまったというものです。この事故については多くの方が考察をネット上にあげられています。私もいろいろ調べてみましたが、吐き気がするほど様々な陰謀が交錯しており、私にはどれが真実かを語ることはできません。興味のある方はご自分で調べてみてください。
ただ、私が感じたことは、この人間世界の闇は思ったより複雑で深いということでした。

で、日本の政府も輸出産業や製造業を救済しようとはしました。円高対策として金融緩和を実施し、企業は大規模な融資を受けやすくなりました。ところがそれが余剰資金を生み出す結果につながり、企業は本業への投資ではなく土地や株式を売買して利益を得るようになり、三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センターを買収するまでバブルになってしまったというわけです。

あわてた日本政府は、バブルによって実際の価値よりもはるかに高騰した株価の水準を調整するため今度は金融引締めを実施しました。銀行による融資を制限したというわけです。
そのようなことをすると、株や土地を買って資産を作ろうと考える人が減りますので、当然、株価や地価が下落し、土地や株式を売買しても儲からない人が増え、融資の返済ができない人が増えました。銀行は貸し付けたお金を回収できず不良債権を抱えてますます融資を渋るようになりました。当然ですが、銀行からの融資を受けることができず倒産する企業が増えました。消費も低迷し、さらに企業収益が悪化するという悪循環を引き起こして負のスパイラルに陥り、バブルは徐々に弾けていきました。当然です。
なぜかアメリカの言いなりになり、日本経済の長期展望を持たなかった政府の責任だと思います。

当時の私は六本木のクラブへ踊りに行ったりしていましたが、いまにして思うと、いろいろな意味で「踊らされていた」というのが実感です。
ですが、当時の日本に「実体」がなかったのかというと、そうでもないから口惜しいのです。
当時の日本は、自動車自転車家電精密機械半導体縫製技術など、もの凄く幅広い産業で高度な技術を持つ国だったのです。こんな凄い国は世界中で日本だけだとも言われていました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていたのは、あながち嘘ではなかったのです。
日本の技術者がいなかったら、デジカメ、リチウムイオン電池、フラッシュメモリ、青色LED、液晶テレビはなかったのです。つまり、スマホの主要部品を一般化させたのは日本の技術者と言っても過言ではないと思います。
日本のポテンシャルは高かったのです。

当時の私が注目していた技術の例をあげると、「トロン」というコンピュータのOSがありました。マイクロソフトのWindowsより優れており、世界を席巻する可能性が高いものでした。
トロン」の優れたところは、OSのソースコードや仕様書などを含めた全ての成果物を一般向けに無償で公開(オープンソース)していたことで、それをもとに誰でも好きなようにソフトを作ることができることでした。それを無料で配布するのも、有料で販売するのも自由でした。無料で配布する人が多ければ、有料のソフトもそれほど高価にはならないはずでした。実際、いまでもソフトは高価ですよね。ソフトもコンピュータもスマホも「金食い虫」です。
コンピュータ好きの人々の間では大いに期待された夢のOSでしたが、残念ながらその素晴らしい技術を活かして一般化することはできませんでした。Windowsの方が一般化されることになりましたね。

また、当時、三洋電機がなんと「洗剤のいらない洗濯機」を発売したこともありました。超音波電解水で汚れを落とすというものです。環境を汚さないし、家計に優しいし、洗剤が肌に合わない人にも優しいし、素晴らしい技術の洗濯機でした。
そんな夢の洗濯機でしたが、それも一般化することはできませんでした。

上記の2つとも、いわゆる大人の事情の波に呑まれて沈んで行ってしまいました。いま、トロンは産業用OSとして地味に重宝されて存続していますが、三洋電機はパナソニックに買収されたり、ハイアールに洗濯機や冷蔵庫の事業を譲渡したりしながら、徐々になくなってしまいました。
途中で気鋭の技術者たちが起ち上げた「シンク・ガイア(人と地球のために)」という格好いいブランドビジョンがあって期待が膨らんだこともありましたが、それもいつのまにかなくなってしまいました。残念です。

大人の事情」って忌まわしい言葉ですね。日本経済衰退の歴史は「大人の事情」の歴史と言っても過言ではないような気がします。
日本の「大人の事情」の歴史の「プラザ合意」以後をたどってみると、まず1986年に「日米半導体協定」がありました。
日米半導体協定」とは、半導体に関する日米貿易摩擦を解決する目的で締結された条約です。当時の半導体の売上の国別シェアは日本が46%となり、アメリカを抜いて世界一となっていました。高品質低価格の「メイド・イン・ジャパン」製品が勢いがある時代、半導体は日本の技術力の象徴でした。

日米半導体協定」で何があったかというと、日本のメーカーはアメリカの半導体を「強制的に買わされた」ということです。当時大手家電メーカーで設計していた方が経験したことをX(Twitter)で報告されていましたが、「汎用IC等を国産の東芝、NEC、日立、松下製からアメリカ産モトローラ、テキサス・インスツルメンツなどに置き換えろ」と上司に言われたそうです。「何故ですか?」と聞くと、「通産省の命令だ」ということだったとのことです。
以上のような流れがあって、日本の半導体産業は急速に国際競争力を失っていったのでした。

また、1986年には「労働者派遣法」が施行されました。企業はコスト削減のため、正社員の採用を抑制する一方で、単純業務に対する安価な労働力の供給源として、派遣(非正規雇用の従業員)に注目するようになりました。
この流れで、2004年には製造業の派遣が解禁されることになり、非正規雇用者が激増することとなりました。企業は非正規雇用者の給料を都合のいいように下げることも可能になりました。
これもアメリカと経団連からの要望があったためと分析する人もいます。この結果、いまの日本は働く人の4割が不安定な派遣になり、賃金も消費もガタ減りしましたが、外国人投資家の配当は3倍に増えました。

さらに、1987年には国鉄分割民営化が実施されました。これにより、労働組合が解体され、国鉄や政府所有の土地など優良不動産が外資や高層ビル建設業者に破格で売却されました。
2007年には郵政民営化により、日本の国民資産だった郵貯マネーで株やアメリカ国債を買うことが多くなりました。
郵貯マネーは、全国の津々浦々の町や村から郵便局が集めたお金です。本来なら日本の公共投資や財政投融資に使うはずのものです。それをマネーゲームに使うようになりました。このことにより、何兆円もの日本の資産が外国へ流れて行ってしまいました。そういえば、年金積立金を株に投資して大きな損失を被ったこともありましたね。

民営化は、ベースに「新自由主義」という考え方があります。「新自由主義」とは、表向きは「民間に委ねることが可能なものはできる限り民間に委ねることが、より自由で活力ある経済社会が実現する」という考え方ですが、実際は「儲かると思うものはなんでもやる、社会的倫理観などは考えなくてよい」という考え方だと私は思います。
儲けること自体は否定はしませんが、それには倫理が伴わなければならないと思うわけです。自分の仕事が社会の役に立つことなのか、広い視野で考える必要があると。

これまで日本政府がやってきたことといえば、外資や大企業が儲かることばかりを考え、肝心の日本国民の利益など微塵も考えていないことがわかります。
1989年に導入され始めた消費税も、表向きは「所得税中心の税制の限界」と「社会保障の充実と安定のため」といわれていますが、なぜか法人税は減税されています。
このことについて、山田博文氏(群馬大学名誉教授)は次のように述べています。「法人減税の理由は経済成長、全然成長してないじゃないですか。内部留保金が膨らむだけじゃないですか。こういう悪循環の現状を脱出して、消費税は下げる、法人税は上げるというようなところに踏み出すべき」と。

日本政府の動きをみていると本音では「経済成長など、どうでもいい」と考えているとしか思えません。
経済成長するためには、まず国民の生活が安定しなければならないと思います。生活が安定するからこそ消費が増えて経済が成長するのではないでしょうか。
にもかかわらず、日本政府は日本国民の給料を下げ続け雇用を不安定にし続け税金を上げ続け福祉を切り捨て続け消費を下げ続け、経済は衰退する一方ではないですか。
その一方で、大企業の内部保留は増え続け、利権をつかんでいる一部の人々はますます裕福になり、格差は広がる一方です。

最近は水道まで民営化される流れになっていますね。NTT東京メトロ農林中金も売られようとしています。
水源を売りとばし国土を売りとばし技術を売りとばし労働者を売りとばし郵便を売りとばし年金を売りとばし農業を売りとばし漁場を売りとばし…。売りとばされたものを列挙したらきりがありません。

いまの日本は、年金を40年間納めても 月に65,000円しかもらえません。そのうえ、その支給開始年齢を80歳にしようという話が出てきています。さらに、その裏でなぜか政府はウクライナの年金のために送金しているというではありませんか。それ、私たちが納めたお金ですよね。
いまや日本はそういう国になってしまっています。皆さんはいつまで耐えることができるのでしょうか。
かつての日本は「技術大国」でした。それがいまや「観光」で外貨を稼ぐ国になってしまいました。「観光」で外貨を稼ぐ国とは、いわば「後進国」です。

大人の事情(利権)」と「儲け至上主義」がこの国を衰退させました。人間や自然の価値を認めない人々が政治家となり、この国の資産を売りとばしています。多くの人がそれに気づいていながら、どうすることもできないでいます。
与党がなくなればといいますが、野党に日本を建て直す力があるのかというと、そうも思えません。
日本は民主主義国家と言われてきましたが、振り返ってみると、学校で民主主義国家の一員として、どのようなことを身につける必要があるのか、習ったことはありませんでした。私が不思議に思っていたことのひとつです。習ったのは奴隷労働者になるためのスキルでした。民主主義国家の一員としてのスキルを身につけていないのですから、いまの国民が日本を民主主義国家として建て直すことは難しいのかもしれません。しかし、できることはやった方がいいとも思います。

愚痴を言うばかりでどうすることできない状況ではありますが、ただ「改憲」だけは阻止しなければならないと思っています。
その理由は、拙稿「23.コロナは人間家畜化への布石、次のシナリオは改憲。」で述べたとおりです。戦争だけは回避していただきたいです。そのために、できることはやっていきたいと思っています。

しかし、こんなことがいつまでも続けられるわけでもないとも思います。孔子が生きていた時代から孔子が嘆いていたことですが、倫理のない国(文明)は崩壊します。いつかどこかで破綻します。
文明がいくら発達しても、人間の心は発達しないままというのは、なんとも虚しい思いがします。
もうジェットコースターは動き始めているのかもしれません。シートベルトを締めて心の準備はしておいた方がいいと思います。具体的に行動できなくても、覚悟しておくだけでも随分違うと思います。「ああ来たか」という感じで冷静に受け止めることができればと思います。
そのとき、無課金おじさんのように、の自分の感覚を信じて判断・行動ができるように、自己陶冶を怠らないことをお勧めします。

                                     

【管理支配システムに組み込まれることなく生きる方法】
1. 自分自身で考え、心で感じ、自分で調べ、そして行動する
2. 強い体と精神をもつ
3. 自分の健康に責任をもつ(食事や生活習慣を考える)
4. 医療制度に頼らず、自分が自分の医師になる
5. 人の役に立つ仕事を考える
6.権威に依存しなくても生きていける道を考える(服従しない)
7. 良書を読み、読解力を鍛える(チャットGPTに騙されないため)












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