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最近めちゃちゃ良かった小説のお話

お久しぶりのnoteです。なんか、文章を書くことに構えすぎて気軽に更新ができておらず、それはよくない(楽しくない)なあということで、ゆるめに書きます。
最近読んだ本の中でも特に良かったものについて感想を書きます。ネタバレ踏まないよう注意しますので、布教されたい人も「読んだよー!」て人も見てくださったらうれしいです。
ここ1~2カ月くらいで読んだ中でも、「アァァ」と思わず唸った(?)2選です。どぞ~。

①朝井リョウ『スペードの3』


朝井リョウは同い年の作家で。わたしは直木賞受賞作『何者。』がめちゃくちゃに大好きで(ちょうど就活がホットな時期に読んだこともあったのだけど)、この人の観察眼とユーモアと仕込んでくる感じ、凄いな…!と感動したのです。そこから、合う作品も合わない作品もあったのですが、この『スペードの3』は久しぶりに朝井リョウのめちゃくちゃ良作!!!と感動しました。

表題作を含めた3編が入っている連作集なんですが、圧倒的に表題作がおすすめです。むしろ表題作の余韻に浸るために、他2篇は間をあけて(日を置いたりして)読むのが良いかもと思うほど。

表題作は、主人公はアラサーの女性。有名劇団出身の女優のファンクラブを束ねている、いわゆる「学級員タイプ」がそのまま大人になったような女性。この作品では彼女の一人称視点で語られていくから、最初は華やかな世界が見えていた中でだんだんと彼女の距離だったり見得、痛さ、などが見えてきて、ゾクゾクしました。ゾクゾクってのは、気味が悪い!とかではなくて、こんな風に人間描くの、巧いな~~~!!!と感じた。

書き出しがまた良くて、

ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。

良くないですか・・・?
何か、磁石の前の砂鉄って昔の理科の授業でやったけど、本当にたくさんの砂鉄たちがサーッと磁石に動かされる感じ、あの動きや音含めて、一瞬で脳裏に蘇る感じが良いですよね。砂鉄の動きってなんか軽やかで、無理やり動かされているようには見えないのも、また良い。
そして「ファミリア」ってサラッと読んだけどあれこれ何・・・?
という具合に書き出しの2文だけでバランスが良くて、すぐにつかまれていきました。

物語自体にも「えっ!?」というプチ驚きは仕込まれているものの、そこはメインディッシュではなく、とにかくこの主人公の描き方がとっても上手いなと感じたのです。『何者。』で感じた、人の痛々しさ、でもそれを手放しでバカにできない感じにハマった人はハマると思う。
朝井リョウ、本当にこういうの書かせたらうまいんだよな~~~~。

朝井リョウは、わたしは「彼が」「いまの」目線で書く文章というのがとても好きで。逆にちょっと背伸びした文章もしくは過去を振り返って書く文章は少し合わないこともあり。(装飾が多めに感じたりする)
でも等身大の人物を描かせたらかなり信頼できる作家さんだと思っています。超偉そう。ごめんなさい。だからエッセイもとても面白いです。「ゆとり」三部作、最新作は未読ですがゲラゲラ笑います。

本作を書いたときは朝井リョウはたぶん主人公と同い年くらいだと思うのですが過去とのつながりの濃度とか、社会との距離感とか、他人を観察する目とか、細かな点でピントが合っていて凄く入り込んで読めました。
ああーこんなのもかけるのね凄い・・・・という感想でした。

連作の残り2篇も楽しく読みましたが、こっちは割といつもの朝井リョウという感じで、サクサクした口当たりで軽やかに読めました。とにかく表題作を推す!!ねえこれ何でもっと認知されないの!?!?(といいつつ、2014年に初版→今年の8月に5版目が出たらしい。文庫だよ。)

②ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』


普段は絶対買わないタイプの、「海外文学」「ミステリー小説」「分厚い本」3拍子揃ったのになぜか買ってしまい、吸い込まれるように読んだ一冊。
日本でも本屋大賞の翻訳部門で2位とかだったので、割と話題になったかと。これはタイトルに惹かれて気にはなっていたもののとにかく分厚くて食指が伸びなかったのですが、読む人読む人ほめているのを聞いて、ついうっかり買ってしまったものです。こういうときの直感は信じたほうが良い。結果、めっちゃ面白かった。

主人公は女子高生のピップで、彼女は「自由研究」という名目でとある失踪事件を調べます。犯人とされる男の子のサリル(サル)はすでに亡くなっているため状況証拠から「犯人」と断定され、彼の家族は町の人から「加害者家族」として差別や嫌がらせを受ける日々。ピップはサルのことをどうしても犯人だと思えず、学校の宿題という名目で事件を調べ始めます。

ここから、物語のネタバレはしませんが、ストーリーに言及する上で物語の方向性みたいなものを書いているので、まっさらな気持ちで読みたい未読の方はご注意ください。核心には触れていません。

この物語のわたし的面白さは2つあって、1つは「警察でも探偵でもない女子高生が、SNSなど身の回りの物を使って事件を調べていく面白さ」と、もう1つは「サルが亡くなっているという悲しい事実が根底にある上でのピップと、ラヴィ(亡くなったサルの弟)の、ひたむきさと強さ」です。
前者は、「ミステリーは難しくて重たそう」というわたしでも軽めの入り口から楽しく読めて(とはいえ、結構ハラハラする使い方もするので「ああもう・・・!」とはなるのですが)、かつピップがまとめる報告書もくだけた口調で書かれるのでストレスなく読むことができます。
そして後者ですが、ピップとラヴィがいろんな困難(と書くと安っぽいのですが)に直面しながらも、サルの無実を信じて突き進む姿に非常に胸を打たれます。これは事件を解決することを目的に物語が進んでいますが、「サルが亡くなっている」という事実だけはどうしても変わらず、事件の真相が明かされていく中で、その事実と主人公たちの前向きさの対比でわたしは何度もグッときました。
殺人事件が起こるミステリーの中で、解決することが目的なのはもちろんなのですが、前提として「人が亡くなっている」という事実、そこに伴う様々な感情を無視せずに描いている作品が好きだと改めて感じました。それでいうと本作は「お涙頂戴」な描き方はしていない(ように感じた)のですが、物語が進むにつれて、サルの死というのは主人公たちに大きな意味をもたらすな…ということがあらわれていて、その描き方がとても好きでした。まさに、明るいだけでない、ほの切なさが滲む、素敵な小説でした。
続編出てるの、絶対買うわ!!!!!

以上です。
他にも、佐原ひかり『人間みたいに生きてる』や川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』、夕木春央『方舟』なんかが面白かったです。お話ししたいけど眠いからこんなところで。また気軽に書きます。読んでくださり、ありがとうございました。

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