話せば伝わるかも、と思われなくなったらおしまい
カツセマサヒコさんの小説『ブルーマリッジ』を読み終えてから、しばらく経つ。
岸政彦さんとのトークイベントで、カツセさんの口から新刊の話を聞いた。
それ以来ずっと心待ちにしていたのに、いざ読み終えると、なかなか感想を言葉にすることができなかった。
本当はもっとじっくり寝かせて丁寧に言葉を紡ぎたいところだけれど、8月も終わってしまうので、今の自分が感じていることを簡潔に。
全体を通して私の中に残ったのは、「話せば伝わるかも」と思われなくなったらおしまいだということ。
雨宮と土方の一番の違い。
雨宮は、婚約者から自分の加害を指摘されたことで、それと向き合うことができた。
それは、変わろうとする姿などから「話せば伝わるんじゃないか」と思ってもらえたから。
一方土方は、自分の加害性についてなにも教えてもらえないまま妻も娘も離れていった。
あとから言われた言葉は、あくまで溜め込んできたものを吐き出しただけで、決してその後の関係性をより良いものにするためのものではなかった。
そうなってしまったのは、それまでのあらゆる発言や行動の積み重ねで、「この人にはなにを言っても無駄だ」と思われてしまったからだと思う。
自分と同じ考え・価値観の人はいないのだから、誰かと一緒に過ごしていくためには、とにかく対話をするしかないのだと思う。
自分がなにを感じ、なにを考えているのかを伝え、知ってもらう。
相手がなにを感じ、なにを考えているのかを聞き、教えてもらう。
そうして初めて、お互いが見ている世界の違いが明らかになる。
話さなければ、相手が自分と違う世界を見ていることに気付けない。
気付けなければ、相手が見ている世界を想像することもできない。
土方も、いろんなことを伝えてくれる存在が現れたことで、少しずつ変わっていった。
“自分の外に広がる世界に身を開けるかどうか”
こだわりを持って生きてきた人ほど、難しいことかもしれない。
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