「パラダイスの夕暮れ」が孤独な旅路 私のそばにあなたがいるなら幸せだと語りかける。
『プロレタリアート・トリロジー』
(労働者3部作)の第1作にあたる
アキ・カウリスマキ監督初期の作品。
貧しき労働者たちの厳しい現実を
描いているのだが、削ぎ落とされた台詞や
無表情な人物たち、美しい色彩、飛躍する展開、などといった要素により、
どこか美術館に飾られた絵画を
見ているような感覚になる。
「苦しい毎日でもあなたがいればそれで良い」と
いうメッセージをこんなにも淡々とした温度で
感じることができたのは初めてである。
【以下ネタバレ有り】
ニカンデル、可愛すぎる。
まず、最初のデートの出立ち。
スーツに着替え、迎えに来たその手には花。
彼は、唇をきつく結んだ表情で待っている。
車の青、花の赤、ピンク、夜の緑がかった光、
ニカンデルのスーツのグレー、シャツの生成り、
そのすべての色彩のバランスが美しい。
そんな風におしゃれして連れて行くのが
ビンゴを楽しむ店。
なぜなんだい。可愛すぎるよ。
ビンゴ…って…と振られたわけだけど、
その後すぐにイロナに頼られ、
即答で車を走らせられるのも偉い。男気だよ。
イロナ「行きましょ」
ニカンデル「どこへ」
イロナ「郊外へでも」
ニカンデル「すぐにか?」
イロナ「そうね」
金がいるな、と同僚であり友人のメラルティンの
元へ寄るニカンデル。
金を貸してくれと頼まれたメラルティンは
子どもの貯金箱から金を取り出す。
なぜか、ひどい親だな!とは思わない。
2人がこうやって信頼し合う関係になるまでの
詳しい物語は描かれていない。飛躍した展開。
それなのに、置いて行かれた気にはならない。
そもそも、同じ時間が流れている気がしない。
スーパーをクビになり、イロナが腹いせに金庫を
盗んだと知ってもニカンデルは
「俺が何とかする」
とそっと元の場所に戻しに行く。
共に暮らし始めたイロナが
「散歩してくる」と言うと
ニカンデルは食器を洗いながら
「終わったら一緒に行こう」と返す。
英語をLL教室で習っているとこんな例文が
流れてくる。
「傷ついたり、不完全だったりも
楽しみのうちだということ。
おかしいものだ。
おかしくて楽しい、恋をすることは」
それをニカンデルは
「傷つけられたり、短所があっても
愛していればすべてが楽しみのうちだ。
おかしいものだ。非常におかしい。
おかしくて楽しい。恋ってそういうものかも」
と訳す。
なんて素敵なニカンデル。
【「からい」の漢字 「つらい」の漢字
一筆足したら「幸せ」だ
孤独な旅路 私のそばに
あなたがいるなら幸せだ】
とBEYOOOOONDSさんが歌っていたことを
思い出したりなんかしてね。
【パラダイスの夕暮れ/
アキ・カウリスマキ】