「懐かしい」とは
子どもの頃「なつかしい」という感情がわからなかった。
そのことを、今もはっきり覚えている。
なぜ、大人たちがおっとりと懐かしむのか。
その表情から察するに、何か良いものを思い出している感じがした。
ずいぶん昔に買ったガムがポケットにあったことを思い出して、微笑みながらゆっくりと口に入れる、みたいな。
「ここにあったんだ」という驚きと、時間が経って新たに加わる「解釈」の味。
当時の私は子どもだったので、いろんな物事がおおむね新しかった。
だから、懐かしくもなんともなく(そりゃそうだ)、いつも大人の思い出話を聞きながら「へー」って感じだったんだけど、歳を重ねて「懐かしい」と思うことを、とても特権的だと感じるようになった。
真実はわからないけど、猿は「うわっ、これなつかしすぎる〜!ウキキ〜!」とは思ってないはずなので、「懐かしい」という感情は、人間を人間たらしめる要素のひとつなのかもしれない。
懐かしめるほどには長く生きることができたから、
自分が歩んできた道のりがあるから、
「懐かしい」と思えるのかも。
あと「懐かしい!」には、共感が集まる。
同世代を生きた証かもしれない。
あの先生、あの授業。
あの曲、あのドラマ。
あの店、あの味。
「生きるために必要か?」と聞かれたら、たぶん人間に必要な要素ではないはず。
でも、「懐かしい」があることで、共感や相互理解が進むような、そんな気がする。
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