短編:キャンプ場で朝食を Ⅰ
山手からのオフショアがラッシュガードをゆらしている。朝陽がおだやかに海面をゆらす。
ライスクッカーに入れた米に水を注ぐ、水の中に手のひらを広げて浸し手首まで水があるかをみる。少し水が多いけど気にしない。
カセットコンロに火をつけて、炊きあがりを待つ間に炭に火を入れる。昨日の肉の脂が残った煤けた網を炭にかける。オフショアが少し強くなり波をなでている。
クーラボックスから、新聞紙に包まれた鮭を取り出し熱い網の上に置く。新潟の鮭だけあり、筋肉質で深い照りがある。ビーチでは、子どもが魚を釣り上げて家族に見せている。
鮭に脂の泡が浮いている。 炭に落ちた脂 がこげて、辺りにはナッツの香りがただよ ってくる。 ライスクッカーのフタがおどり 出し、白い湯気が吹き出す。カセットコンロの火をとめて蒸らしにはいる。潮が下げ始めてライトのショルダーが張りだしてきた。今日もファンウェーブになりそうだ。
鍋に水をはり、湯をわかし、かつお節をひとつかみ入れる。さっと沸いてきたとこらで、ザルでこしてもう一度火にかける。豆腐とナメコを入れて味噌をとかす。仕上げにアオサをひとつまみ入れる。色が華やかに変化し、香りがたちのぼる。
ご飯をクッカーから木椀に盛って、味噌汁を塗椀に注ぐ、朝の香りがまわりにたちこめてくる。鮭は少し炭火から離しておく。皮がこげるくらいがちょうどいい。
まずは味噌汁をひと口、熱い豆腐とナメコにホフホフ口の中で転がす。ナメコのキレのある香りのあとにカツオのうまみが追いかけて、最後にアオサがのこっていく。ゆるいオフショアが汗のにじんだ肌をなでていく。
鮭をのせたご飯をわしわしかきこみ、味噌汁でながしこむ。おこげのついたごはんにアオサをのせ飯をかきこむ。鮭をほぐし飯とまぜグングンかきこむ。味噌汁でひと息ついて空を見るとトンビが向い風を羽にためて高度を上げている。
残った鮭をご飯にまぜ、味噌汁をぶっかける。汗が頬をつたうが気にせず、ズンズンかきこむ。椀と自分と自然の区別がつかなくなる。自分が自然の一部だと感じる。
タバコに火をつけ、くゆらせた煙の間に鳥のようにグライドする自分を波の中にみた。