【ラノベ感想Part①】レイの世界 ―Re:I― 1 Another World Tour[KADOKAWA]

⚠️まず初めに(注意事項)

本記事は軽度のネタバレを含みます。物語の根幹に関わる要素は極力避けますが、事前情報を取り入れずに作品を楽しみたい方は閲覧を控えて頂きますようお願い致します。

紹介するライトノベル

【タイトル】レイの世界 ―Re:I― 1 Another World Tour

【著者】時雨沢恵一

【レーベル】KADOKAWA

画像4

https://www.amazon.co.jp/レイの世界-―Re-Another-World-Tour/dp/4048930761

あらすじ

ユキノ・レイは有栖川(ありすがわ)芸能事務所に所属する15歳の女の子。
歌手と女優を目指し、日々努力している彼女のもとに、
マネージャーの因幡が持ってくる仕事は、いつも何かがおかしい。 彼女のためにマネージャーの因幡(いなば)が取ってきた初めての仕事は、小さな町の広場にある特設ステージで歌う仕事だった。レイは精一杯に歌い、町の人々もとても楽しんでくれた。しかし、観客達の興奮と歓声がその日最高潮に達した瞬間――。(「初仕事の思い出 ―Memories Lost―」)他、全6話を収録。

※Amazon及び本誌帯裏より引用

感想

キノの旅やSAO外伝ガンゲイル・オンラインでお馴染みのベテランラノベ作家、時雨沢恵一先生の最新作です。

担当絵師も同じく、二作品共に時雨沢恵一とタッグを組んでイラストレーターを務めている黒星紅白先生。

まず初めにこの作品を見かけたときの感想として、あらすじを見ても内容が想像しにくい作品だなと感じました。

・主人公の女の子が15歳で歌手、女優志望。
・「因幡」という名前のマネージャーが居て、彼が仕事を見繕ってくれている。

情報はこれくらいのもの。

時雨沢先生と言えば、やはりミリタリー関連の知識に精通していて隙あらば銃火器でドンパチの印象ですが(偏見)少なくともこのあらすじから、硝煙の香りは感じないかなぁ、といった感想。

蓋を開けてみれば、流石に銃火器でドンパチもなければ、剣と魔法の世界で冒険する本格ファンタジーでもありませんが、かといって、ファンタジー要素が皆無のお堅い小説かと問われればそうでもありません。

なんならかなりファンタジー色が濃い程で、異世界や平行世界といった概念が序盤から登場します。

本編は全6話構成になっていて、本誌があとがき込みの189ページであることから、一話一話がかなり短く作られていることが窺えます。

何らかの能力によって、異世界や平行世界へと渡ることが出来るマネージャーの因幡に連れられ、様々な世界で歌手や女優として仕事に駆り出される主人公のレイ。

戦争真っ只中の異世界で歌を武器に怪物を撃退して欲しい、貴族との婚約を破談にさせる為に偽りの婚約者として振る舞って欲しいなど、仕事の内容はかなりハードなもの。

それでも、仕事熱心なレイはどんな依頼も快諾し、真摯な姿勢を持って全力で打ち込みます。

前述した通り、かなり簡潔にまとまった小話が6話分ということもあり、一つ一つのストーリーの満足度はあまり高いとは言えません。話によっては、実際にレイが仕事をしている場面を描写せずに、どんな仕事だったかを社長に口頭で報告し、回想のような形式に留められたものもありました。

一話目、二話目はチュートリアルのような印象。二話は少し物々しい雰囲気ですが、それをギャグ方向へと転換していく独特な空気感がありました。
三話目は個人的に一番満足度が高かったです。シンプルですが、よく練られた話。ストンと腑に落ちる綺麗な伏線回収。
四話目あたりから空気が怪しくなります。
五話、六話ときて内容がどこか哲学めいていて、読者に何かを考えさせるようなメッセージ性の強い内容になっていました。

ストーリーそのものの感想としては、なんとも形容し難いところ。時雨沢先生ではない著者が同じ内容の作品を自分なりの作風で書いたのであれば、全く興味を感じない程には……。

あとがきによると、本作品は『特殊な着想』から生まれた作品であり、その『特殊な着想』とは、黒星紅白先生が描いたイラストを元に、時雨沢恵一先生が物語を考えた、という、物語を元に挿絵や表紙を描くライトノベルとは正反対の形式で生み出された作品だそうです。

通常:物語→イラスト
レイの世界:イラスト→着想→物語

筆者もライトノベル新人賞の公募に向けての作品や、好きなコンテンツの二次創作として文章を書くことがあるのですが、素人の物書きにとって『既存のイラストから着想を得る』というのは、案外メジャーな手法だと思います。

ただ、その軽いインスピレーションから実際に物語として文字に起こすのは難しく、『書きたい話を書く』のとは、また違ったベクトルの雰囲気になりがちです。

話がフワフワしている? ような感じ……?(曖昧)

本作品を読み進めている途中にそのフワフワした雰囲気を感じ取ったので、あとがきを見た際には凄く納得ができました。そのフワフワは良くも悪くも作用していると思います。

時雨沢先生の作品には独特の癖があり、本作品も当然その例に漏れず俗に言う「時雨沢節」が多分に含まれています。

例えば通常の小説では、

「こんにちは」
佐藤が挨拶をした。

と、なるのが時雨沢先生の作品では——、

佐藤が、
「こんにちは」
と、挨拶をした。

といったような書き方が多用されていて、作品を読む上でリズムを損なわずテンポ良く読み進めるのに一役買っています。

このような地の文の特徴以外にも、登場人物同士の掛け合いも独特な空気感があって、時雨沢先生のファンにとっては堪らないワクワクが味わえることでしょう。

どんな人におすすめか

筆者は時雨沢先生のガンゲイル・オンラインの大ファンです(隙自語)ライトノベルは2000冊ほど読みましたが、大森藤ノ先生著書のダンまち外伝ソードオラトリアと双璧を成す最高の作品だと思っています……!

で、端的に言ってしまえば『ガンゲイルオンラインのファン』『時雨沢先生の書く文章や世界観が好きな方』に強くオススメします。

その理由として、レイの世界における主要キャラクターは三人なのですが、三人全てガンゲイル・オンラインのキャラクターと見事に重なります。

ユキノ・レイ=小比類巻香蓮(レン)

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全力少女。レン特有の思い切りの良さの中に含まれた鬱屈した感情が消えて、元気さに全振りした感じ。

因幡=M

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寡黙な働き者。ケツを蹴られたりはしない。

女社長=ピトフーイ

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傍若無人な魔女。ケツを蹴ったりはしない。

……と、いった感じ。フカを出せ(無茶振り)

逆に言ってしまえば、そうではない人にはあまり手放しにオススメできる作品ではないと感じました。

先に是非ともガンゲイルオンラインを読んで欲しいです。

通常のライトノベルとは異なり、文庫本とは規格が違う(外見はむしろ漫画に近い)ので、お値段が少しお高めなのに加えて、ページ数も少なめ。中々手が出にくいのは否めませんが、時雨沢先生やガンゲイルオンラインのファンには是非とも読んで頂きたい一冊となっていました。



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