見出し画像

少子化時代の高専の未来を考える 文科省中央教育審議会 特別部会

2024年9月10日、全国高等専門学校連合会と日本私立高等専門学校協会は、文部科学省の中央教育審議会「高等教育の在り方に関する特別部会」に際して、高専教育の将来像に関する提案書を提出しました。[1]

これは急速な少子化が進行する中、これからの高等教育はどうあるべきか、国が検討していることに対する高専側の考えをまとめたものです。

社会の変化が激しい今、高専も時代の流れに合わせて進化していく必要があることを提案書は伝えています。キーワードは「実践知」と「国際性」。 激変する社会を生き抜くために、高専の未来へ向けた挑戦をレポートします。

高専を取り巻く現状と課題

1962年、高度経済成長期の真っただ中で、国内の産業界からの期待を背負って設置・開校されたのが高等専門学校(高専)です。[2] 5年間の濃密な時間の中で、専門知識と実践力を兼ね備えた技術者を育成するという、画期的な教育機関でした。

それから60年以上。高専は、時代とともに変化を遂げながらも、その建学の精神を脈々と受け継ぎ、日本の科学技術の発展を支える人材を送り出してきました。卒業生は延べ50万人を超え、製造業やIT・情報通信、宇宙、船舶、建設など、幅広い分野で活躍しています。

全国各地に広がった高専は、現在、国公私立あわせて58校。地域に根ざしながら、地域社会の発展に貢献しています。しかし、急激な社会変化を迎え、高専を取り巻く状況は大きく変化しています。

1. 少子化による学生確保競争の激化

18歳人口は、2035年には100万人を割り込むと予測されています。[3] 18歳人口に対する大学等進学率は伸長を続けているものの、急激な人口減少により大学進学者数は減少傾向にあります。高専でも大学と同様に、優秀な学生の確保が課題となっています。

2. Society 5.0時代に対応する人材への需要変化

AIやIoTが社会を変える中、求められる人材像も変化してきています。高度な専門知識やスキルだけでなく、自ら課題を発見・解決する力や他者と協働して新たな価値を創造する力など、複合的な能力が求められるようになってきました。

3. 地方における高専への期待の高まり

民間有識者グループ「人口戦略会議」が、日本全体の4割にあたる744の自治体で「消滅する可能性がある」とした分析を公表しました。[4] 地方では、人口減少による産業の衰退といった課題が山積しています。地域に根ざした高専には、将来を担う理工系の人材育成を通して、地域産業の活性化と地域課題の解決への貢献が期待されるようになっています。


「実践知」を育む高専教育の更なる進化を

報告書の中では、急速に進む少子化を背景に、将来の社会を見据えた高専教育の在り方について意見が交換されました。[5]

「高等専門学校は、中学卒業後の 15 歳の学生を受け入れ、早い段階から理論だけでなく①実験・実習に重点をおいた 5 年一貫の技術者教育を行う高等教育機関として、実践的・創造的な技術者を養成する役割を担っている。

特に今後は、 ②地域の産業や成長分野をけん引する人材育成の強化、起業家教育の推進や③大学・大学院との接続強化といった教育の高度化を進めるとともに、 ④学生の海外派遣・留学生の受入れ推進、日本型高専教育制度の海外展開等による教育の国際化を進めていくことにより、高等専門学校の教育の質を高めていくことが期待される。」

①に対しては、高専が強みとしている5年間一貫教育や実験・実習重視のカリキュラムを活かしつつ、社会貢献意識の高い実践知に富んだ技術者を育成していることの重要性を強調するべきという意見がありました。

人間力の育成

この意見を具体的に見ていくと、高専教育が「人間力の育成」を重視している点を明確化することを提案しています。高専教育では、学生は大学受験による中断なく15歳から5年間、課外活動に継続的に取り組むことができます。この過程で、学生は協調性や責任感、リーダーシップといった「人間力」を育むことができるというものです。

理論の実践による社会貢献

さらに、高専教育が育むものとして「理論と実践力の習得」「社会貢献へのモチベーション」も強調されてます。これは、高専教育が単なる技術習得にとどまらず、学生一人ひとりに社会貢献への意識を芽生えさせ、その実現に向けた意欲を高めているという点に注目しているものです。

その上で、社会の急速な変化に対応するため、「実験・実習」に加えて「課題発見解決型プロジェクト学修」により重点を置いた教育内容への転換を提案しています。

プロジェクトベースの学び

加えて、高専教育における「PBL(Project/Problem Based Learning)」の重要性も強調されています。PBLを通して、学生は現実社会の課題解決に取り組む中で、必要な知識やスキルを自ら学び実践力を身につけていきますが、この過程で、チームワークやコミュニケーション能力、課題解決能力など、社会で必要とされる様々な能力を養っていくといわれています。

報告書では、高専ロボコンやAIを活用した花ガイドアプリ開発といった具体的な事例を挙げながら、PBLが学生の創造性や社会貢献意欲を高める実例について具体的に示されています。

地域社会への貢献と持続可能な運営体制の構築

少子高齢化による人材不足が加速する中で、地方における教員不足や財政難は深刻化しているため、高専の持続可能な運営体制の構築が大きな課題となっているとの意見がありました。

機関別の役割として、高専は今後地域の産業や成長分野をけん引する人材育成の強化が求められている一方で、成長分野等の教員が不足する傾向にあり、国公私の高専で教員の共有化ができれば各校の負担軽減にもつながるといった意見がありました。

高専教育の国際化における課題

さらに、グローバル化に対応するため、高専教育の国際化も喫緊の課題となっています。提案書では、海外の大学への編入学や、グローバル企業への就職を希望する学生のために、国際的に通用する資格や学位を取得できる仕組みの必要性を訴えています。

現状では、高専本科卒業生には「準学士」という称号を称することが認められていますが、国際的通用性のある学位ではありません。そのため、海外進学やグローバル企業への就職時に不利な判定をされるケースが報告されています。学位認定は、学生がグローバルな競争において必要なスキルと知識を持っていることを示す指標となります。

高専教育の国際展開に対する意見

今回の特別部会では、高専教育の国際展開というテーマに対して委員から意見が出されました。

「高専の方が、モンゴル、タイ、ベトナムにシステムを輸出しているというお話があって思ったのは、今はいいなと思っていると思いますけれども、その仕組みの客観性というか、通用性が枠組みとして保証されていないと、多分、国際的にもしかしたら行き詰まることが出てくるのではないかと。

今検討中と思いますが、ぜひ国家レベルで資格・学位の枠組みをつくっていただいて、できたらそこに戦略的に予算配分、国家的に、博士どのぐらいのレベルとか、修士どのぐらいのレベルとか、何かそういうふうな仕掛けを持つと、多分みんなその方向に向かって走っていくインセンティブになるのではないかと思って、資格の枠組みはとっても大切だなと思ったということです。」[8]


最後に

高専教育は、これまで幾度となく時代の変化に対応しながら進化を続け、日本の産業の発展を支える人材を育成してきました。そして60年を迎えた高専は新たな転換期を迎えています。

今回の意見書では、高専が直面する課題やその提案だけでなく、高専教育に対する熱い想いが綴られていました。社会の変化に応じた、地域社会や国際社会で活躍できる人材育成のためにも、高専に対する期待が高まってきているようです。

参考資料

[1] 文部科学省. (2024). 高等教育の在り方に関する特別部会(第9回)配付資料

[2] 国立高等専門学校機構. (2022). 高専制度創設60周年記念誌.
https://www.kosen-k.go.jp/Portals/0/60th/img/ceremony/kinen01.pdf

[3] 文部科学省. (2023). 参考データ集.
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000259054.pdf

[4] NHK. (2024). “消滅する可能性がある”744自治体 全体の4割に 人口戦略会議
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240424/k10014431611000.html

[5] 文部科学省 & 全国高等専門学校連合会. (2024). 急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた 高等教育の在り方について(中間まとめ)への意見(提案)について.
https://www.mext.go.jp/content/20240910-mxt_koutou02-000037963_9.pdf

[6] 国立高等専門学校機構. (n.d.). 国立高等専門学校の学校制度上の特色.

[7] 文部科学省 & 日本私立高等専門学校協会. (2024). 急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)への意見

https://www.mext.go.jp/content/20240910-mxt_koutou02-000037963_10.pdf

[8] 文部科学省. (2024). 高等教育の在り方に関する特別部会(第9回)議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/053/gijiroku/1422632_00009.html

いいなと思ったら応援しよう!