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PGTについて専門的な情報

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PGTについて論文などから専門的な知識をまとめてみました。少し難しい内容かもしれません。
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記事一覧

PGTⅪ. モザイク胚の移植優先順位をどう決めるのか(その2)

②   生まれる赤ちゃんの健康リスクが少ない胚 An evidence-based scoring system for prioritizing mosaic aneuploid embryos following preimplantation genetic screening. F. R. Grati et al. Reproductive Bio Medicine Online Vol. 36Issue 4p442–449 Published online: Fe

PGTⅩ. モザイク胚の移植優先順位をどう決めるのか(その1)

正倍数性胚が獲得できていれば、正倍数性胚の移植が第一選択です。なかなか正倍数性胚が得られない、あるいは正倍数性胚を移植したがうまく育たなかったという場合に、モザイク胚の移植を考えます。複数の移植可能胚があるならば、どれを移植するのか、移植の優先順位をどのように決めればよいのでしょう。 移植優先順位を決める重要なポイントは、妊娠、出産できる可能性が高い。生まれる赤ちゃんの健康リスクが少ないこの2つです。   ①  妊娠、出産に至る可能性が高い胚 PGTは体外受精の補助的な検

PGT Ⅰ. PGTとは

卵子と精子が出会い受精したのち発生が進むと胚と呼ばれるようになります。PGT(着床前遺伝学的検査 Preimplantation genetic test)は体外受精治療の際、胚を子宮に移植する前に、胚の遺伝子や染色体を調べ、妊娠継続しやすい胚や、病気を発症する可能性のない胚を選ぶという検査です。 PGTの分類 PGTは以下の3種類に分類されます PGT-A(着床前胚染色体異数性検査:Preimplantation genetic testing for aneuplo

PGTⅡ. 発表した論文について

アメリカ生殖医学会の学会誌 Journal of Assisted Reproduction and Genetics 2023年1月号にPGT-Aについての論文を発表しました。 私は神戸の大谷レディスクリニックで長年PGT-A・SRにかかわっていました。大谷では2004年よりPGTを行っており、多くの患者さんの貴重な治療成績が蓄積されていたのですが、学会などで発表しようとしても、産科婦人科学会の取り決めに反して実施している検査、治療については、日本ではどの学会でも発表する

PGT Ⅲ. PGT-Aの有効性 はじめての体外受精の場合

2016年の1月1日から採卵を開始し1個以上胚盤胞を育てることができた、2113名の患者さんを研究対象としました。最終移植日2019年3月31日、最終出産確認は2019年12月31日です。 初めて体外受精をする患者さんは1249名(初回IVFグループ)、そのうち453名がPGT-Aを受検(PGT-A)、796名はPGT-Aを受けませんでした(非PGT-A)。 PGT-Aを受けない患者さんは若い人に多いことがわかります。 PGT-A受験者の採卵回数は有意に多い。特に高齢にな

PGT Ⅳ. PGT-Aの有効性 事前IVF不成功経験者の場合

体外受精(IVF)をした経験があり、PGT-Aを受検した患者さんのうち出産の経験のない702名を事前IVF不成功PGT-Aグループ(PGT-A)、初めてIVFを行い1回採卵後出産に至らなかった363名のうち186名は通常のIVF治療を継続されました。(下のグラフのオレンジ色の部分)この患者さんたちを事前IVF不成功非PGT-Aグループ(非PGT-A)としました。 PGT-Aと非PGT-A、グループ間の年齢構成に差があります。 38歳以上ではPGT-A受験者の採卵回数は有意

PGTⅤ. PGT-A受検前後の患者負担の比較

事前IVF不成功経験のある患者さん702名の、PGT-A受検前の治療経過とPGT-Aを受検した場合の経過を比較しました。 PGT-A前後で平均採卵回数に差はありませんでした。 PGT-Aを行うと胚盤胞まで育っても、PGT-Aの結果移植可能胚が見つからないということが起こります。年齢が上がるにつれて移植胚が見つからず移植できずに治療終結する患者さんの割合は増加します。42歳以上の患者さんでは138人中22人(15.9%)の患者さんのみ移植することが出来ました。 移植した患

PGT Ⅵ. 累積出産率の比較

移植当たり、採卵当たりではなく、長期的視野で見た場合のPGT-Aの有効性を評価しようと累積出産率(時間経過とともにどのくらいの割合の患者さんが一人目の子を出産するのか)について、初回IVFグループと事前IVF不成功グループについて、それぞれ年齢グループ別、PGT-Aの有無別に比較しました。 結果 全年齢層で初回IVFグループはPGT-Aを行わない場合の累積出産率の方が高い傾向がみられ、逆にIVF治療不成功経験者のグループではPGT-Aを行った場合の方が累積出産率は高い傾向

PGT Ⅶ. 現在行われているPGT-Aをどう評価するか

前回まで私の発表した論文について解説してきました。 論文で以下の2点が明確にできたと考えています。 ①  初めてIVFを受ける患者さんであれ、事前にIVF不成功経験のある患者さんであれ、背景にかかわらず、全年齢にわたって、PGT-Aを受けた患者さんは受けなかった患者さんと比較すると、移植あたりの臨床妊娠率は有意に高く、臨床妊娠後の流産率は有意に低い。 これは海外の大規模RTC(後方視的ランダム化比較試験)では確認できなかったことです。技術力が一定以上に達していなければ、この

PGT Ⅷ. モザイク胚とは

以前に、PGT技術が進化し、次世代シークエンサーを用いることで検査精度が高くなったと述べました。しかし、精度が上がったことにより新たに生じたのがモザイクの問題です。PGTは染色体正倍数性胚と染色体異数性胚を見分けることを目的としているのに、正倍数の染色体を持つ細胞と異数性を持つ細胞が混ざっているモザイクだという判定が出るのです。モザイク胚の移植後健康な赤ちゃんが生まれた例は沢山あるのですが、正倍数性胚とは判定されなかった胚を移植するのには大きな不安が付きまといますよね。 正

PGT Ⅸ. モザイクの結果は胎児の情報と一致しているのか?

PGTは胚盤胞の将来胎盤になる部分、栄養外胚葉(TE)の細胞を採取して検査をします。将来胎児になる(内部細胞塊 ICM)の細胞を採取するわけではありません。TE細胞で行った検査の結果が、ICMの情報と一致しているのだろうか? みんなが疑問に思うことです。それを確認しようと行った研究について紹介します。 モザイクの分類方法 A.  モザイクの程度による分類 検査の結果、混ざっている異数性細胞の割合(モザイク率)が20%(検査会社によっては30%の場合もあります)未満のもの