PGT Ⅸ. モザイクの結果は胎児の情報と一致しているのか?
PGTは胚盤胞の将来胎盤になる部分、栄養外胚葉(TE)の細胞を採取して検査をします。将来胎児になる(内部細胞塊 ICM)の細胞を採取するわけではありません。TE細胞で行った検査の結果が、ICMの情報と一致しているのだろうか? みんなが疑問に思うことです。それを確認しようと行った研究について紹介します。
モザイクの分類方法
A. モザイクの程度による分類
検査の結果、混ざっている異数性細胞の割合(モザイク率)が20%(検査会社によっては30%の場合もあります)未満のものを正倍数性胚、80%(検査会社によっては70%)以上のものを異数性胚、20%以上80%未満のものをモザイク胚と判定します。モザイクをさらに以下のように分類します。
① 高頻度モザイク(High Level Mosaic)
モザイク率50%以上80%未満
② 低頻度モザイク(Low Level Mosaic)
モザイク率50%未満
場合によっては20-30%を低頻度モザイク、30-50%を中頻度モザイクということもあります。
B. 関わっている染色体の領域の大きさによる分類
① 異数性モザイク(Aneuploidy Mosaic)
1本の染色体全体、一本単位の染色体の増減を持つ細胞が混ざっているモザイク。
何番かの染色体が3本ある細胞が混ざっていれば何番トリソミーモザイク、4本ある細胞が混ざっていれば何番テトラソミーモザイク、1本しかいない細胞が混ざっていれば何番モノソミーモザイクといいます。
② 部分的異数性モザイク(Segmental Aneuploidy Mosaic)
染色体一本全体ではなく、染色体の一部分が増減している細胞が混ざっているモザイク。
何番染色体部分トリソミー、何番染色体部分モノソミーというように表現します。
PGT結果とICMの情報は一致しているのか
① 異数性モザイク(Aneuploidy Mosaic)の場合
出典
Capalbo A et.al Mosaic human preimplantation embryos and their developmental potential in a prospective, non-selection clinical trial
Am J Hum Genet. 2021 Dec 2;108 (12):2238-2247. doi: 10.1016/j.ajhg.2021.11.002. Epub 2021 Nov 18. PMID: 34798051
胚盤胞をICMと4つのTE細胞塊、合計5検体に分けてPGT検査を行い、TE4検体のうちの1つを参照検体とし、染色体毎に参照検体と同じ結果がほかの4検体でも確認できるのかどうかの検討を行いました。
73胚盤胞✕5検体=365回のPGTを行い、73胚盤胞✕22本の染色体✕4回=6424回の比較検討を行った結果をICMの結果が正倍数性の場合と異数性の場合に分けて表にしたものです。
PGT検査結果が正倍数性胚ならば99.6%、低頻度、中頻度モザイク(モザイク率50%以下)なら95%以上の確率で検出された異数性はICMおよび他の3検体では検出されていません。
検査結果が異数性であれば98%の確率でICMも他の3検体も異数性です。
モザイク率50%以上の高頻度モザイクの場合、65%はICM異数性なのですが、35%はICM正倍数性を示します。移植には危険が伴いますが、健康な子が生まれる可能性もなくはない。ほかに移植可能胚が見つからない場合には非常に悩ましい状況です。ただし下の図で示すように、モザイクのうち高頻度モザイクが出現する頻度は1.6%と高くはありません。
② 部分的異数性モザイク(Segmental Aneuploidy Mosaic)の場合
部分的異数性モザイク胚の移植後の着床率、妊娠継続率は高く、モザイク率による差も認められません。異数性モザイクの場合とは異なります。背景には異数性と部分的異数性の発生メカニズムに違いがあると考えらえられます。
部分的異数性と診断された胚のICMは正倍数性のことも多い
出典
Girardi L et al. Incidence, Origin, and Predictive Model for the Detection and Clinical Management of Segmental Aneuploidies in Human Embryos Am J Hum Genet. 2020 Apr 2;106(4):525-534. doi: 10.1016/j.ajhg.2020.03.005. Epub 2020 Mar 26.MID: 32220293
異数性モザイク胚の検証と同様、部分的異数性胚(モザイクではない)と診断された胚を4つのTEとICMに分けて検査をした結果です。
正倍数性胚、異数性胚と診断された場合には98%以上の確率ですべての検体の結果は一致していました。ですが、部分的異数性と診断された場合、すべての検体の検査結果が一致する確率は32.1%、他の67.9%はモザイクという事になります。部分的異数性と診断されても半数以上がICMは正倍数性です。
という事は、部分的異数性モザイクと診断された場合には胚全体のモザイク率はさらに低いという事になり、より多くのICMは正倍数性であると考えられます。これが、部分的異数性胚の移植後の成績が良いという事につながっているのではないでしょうか。
つまり、異数性細胞(1本単位の染色体の増減)のほとんどは卵子の減数分裂の際に起きた染色体の分配異常が原因で生じているので、胚全体に均一に分布している。
部分的異数性の場合は受精後の体細胞分裂の際に生じるので、胚全体に一様に分布しているわけではなくモザイクとなる。さらにPGTで部分的異数性モザイクだと検出されるのはモザイク率がより低い場合であり、移植後の生育に大きな影響を与える可能性は高くはない。このように考えられるのかと思います。
注意が必要な点としては、妊娠中、出生後に見つかる染色体の部分的な異数性はPGTで検出できる感度よりも小さいサイズの染色体の増減であり、PGTにより見分けることはできないという事です。モザイク胚の移植を考える場合にも病気の原因となることが知られている領域が関わるモザイクについては注意を払う必要はあると考えます。