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眠れない夜に読む物語


──月夜のアトリエ──


静かな夜だった。
風はなく、カーテンはぴくりとも動かない。


時計の針だけが、規則正しく時を刻む音を響かせている。


レイはベッドに横になりながら、天井を見つめていた。今日は疲れているはずなのに、眠れない。


そんな夜がたまに訪れる。頭の中は考え事でいっぱいになり、心が落ち着かないのだ。


「……またか」


レイはそっとベッドを抜け出し、部屋の隅に置かれたキャンバスに向かった。


ノートと鉛筆を手に取り、無造作に線を描き始める。

夜の静けさの中で、紙に擦れる鉛筆の音が小さく響く。


レイの手は無意識に動き、気がつけばふんわりとした猫の姿が現れていた。

白くて、ふわふわの毛並みの猫。名前はないけれど、レイの心の中にはずっといる存在だった。


「……君は、どこに行きたい?」


ふと問いかけると、猫が答えるような気がした。

レイは今度はその猫を、どこか幻想的な風景の中に描き始めた。

青い月が浮かぶ夜の海、きらめく星が流れる丘、光る蝶が舞う森……どこがいいだろう?


手を止めたとき、レイは気がついた。心が静まっている。さっきまでのざわめきが嘘のように消えていた。


「そろそろ、眠れそう」


レイは小さくつぶやき、鉛筆を置いた。


ベッドに戻り、目を閉じる。今度はすぐに夢の中へ落ちていけそうだった。


夢の中で、ふわふわの白い猫が、レイをどこかへ連れていくような気がした。


──おやすみなさい。
あなたにも、優しい夢が訪れますように。

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