【雑記#15】森茉莉『貧乏サヴァラン』より、【ロシア・サラダ】を作って食べる
22歳、人生初のバイトを始めて、2週間が経った。学生時代の活動のおかげでかなり改善されたものの、どうにも人見知りで、最初の1週間は居心地悪かったし、周囲から見てもすごく固かったと思う。
現在は酒屋で販売職をしており、接客はそこまで抵抗なかったが、何より私を困らせたのはレジであった。前職が介護だったし、バイト経験もないので、レジを打つのは初めて。おまけに、レジを打ちながらお客さんとも会話して、意外とマルチタスクが必要とされているのだった。
当たり前ですが、レジを触り始めて2〜3日は大きなミスもして、例えば、預かり金の金額を1桁多くするし、QR決済時に端末の操作を誤って会計を中断させてしまったりもしたが、これ以降は慣れたのか、ミスはほとんどなくなっている。
自分がどの程度物覚えがいいのか、比較対象がいないためよくわからないが、少しずつ新しいことを教わり、なんとなく自分が着実にレベルアップしているのを実感する日々である。
来月のシフトは不明だが、今月は週休3日あり、どうにか精神的には穏やかに過ごせているものの、夜の時間帯のシフトなので、帰宅すると22時前になる。こうなるとお手上げで、夕飯を作ろうにもそんな力はなく、オリジン弁当の、私が愛してやまないカニクリームコロッケを2〜3日続けて食べていた。
するとどうなるかというと、忌まわしい、口角炎ができた。先週のことである。口角炎というのは、ビタミンやその他栄養素が足りない時なんかに唇の横(口角)が切れる症状で、私の場合、野菜の摂取量が少ないとすぐに口角炎が現れる。
油物ばかり食べていては良くない。野菜を摂ろう。できれば、仕事終わりにさくっと食べられるものを作り置きしよう。
今の私には、グルメエッセイという武器がある。タイトルは、「貧乏サヴァラン」。
森鴎外の長女で、作家の森茉莉さんが書いた、食にまつわるエッセイを集めたエッセイ集である。
少し前に、森鴎外の末子である森類をモデルとした小説、朝井まかて「類」を読み終えたところで、森家の人々に興味が湧き、とっつきやすそうな森茉莉さんの本を幾つか購入していた。
エッセイの中で紹介されている料理はいくつかあるが、今回は鴎外が好んで食べていたという【ロシア・サラダ】を作ってみる。
現代人にとっても、野菜とタンパク質をしっかり摂取できる優れものである。なお、敢えて調味料は分量を記載していない。そもそも私に調味料を測る習慣がないし、原文にも特に分量は明記されていなかったので、各々好きな味付けで作るのが好ましい。
今回私が使用した材料は
(およそ3人前)
・じゃがいも 2個
・人参 1本
・スナップエンドウ (青豆がなかったので、代用) ひとつかみ
・玉ねぎ 1/2個
・タラの切り身 2切れ
・チャービル(お好みのハーブで。あれば) 適当
・水(茹でる用)
・塩(茹でる用)
・穀物酢(茹でる用)
フレンチソース
・オリーブオイル
・穀物酢
・砂糖
・塩
・ブラックペッパー
①じゃがいもと人参の皮をむいて賽の目切りにする。(大きいと食べにくいかと思い、大体1cm角になるように切りました)
鍋に水を張り、面倒なので水から茹でる。沸騰して5〜10分も待てば火が通るのでザルにあける。
待つ間に玉ねぎをみじん切りにして、辛味抜きのために水に晒しておくとよい。
②もう一度鍋に水を張り、塩を入れて点火。沸騰するのを待ちながらスナップエンドウの下準備。先端から筋を取り除いておく。沸騰したらスナップエンドウを入れ、時々かき混ぜながら2〜3分で取り出し、冷水につけて冷ましておく。
③面倒なので、②の湯を再利用(塩で下味つくし…)。お湯に酢を適量加え(今回は2回しくらい)、もう一度点火。沸いたらタラの切り身を投入。
この間にスナップエンドウを食べやすい大きさに切る。大体2〜3等分に、斜め切り。(オリジナルには無い要素だが、私はハーブを少々使用した。香りが良くなって、個人的に気分が上がるので。なくてもおいしい)
④タラに火が通ったら取り出す。キッチンペーパーで水分をよく拭き取る。
骨を外しながら身をほぐす。
食べる分を取り分けて、全ての具材を混ぜ合わせる。
(その日食べない分はタッパーなどの容器に入れてそのまま冷蔵保存。食べる時にフレンチソースをかけるのがよい)
⑤フレンチソースを作る。オリーブオイル、酢、砂糖、塩、ブラックペッパーをよく混ぜて、④にかけたら出来上がり。
以上の手順を踏んで出来上がったのがこちら。
なかなかいい出来栄えではなかろうか。鮮やかだし、思っていた数倍食欲をそそる見た目である。
それでは実食といこう。スプーンでひとくち。
美味しい!
そりゃ、味付けがフレンチソースなのでまずいわけはないのだが、魚の臭みが全くない!
これが酢のパワーですか。恐れ入った。
茹で野菜のほっくりとした食感のなかにいる、シャクシャクとした生玉ねぎがいい仕事をしている。ネギ類のネギ臭さが得意ではない私だが、フレンチソースと、このネギ臭さの相性がすごくいい。
勝手に追加したチャービルの香りも良くて、パセリやディルなんかでも良さそう。
当初の目的としては、仕事終わりにさくっと食べられる栄養源だったわけで、このようにアレンジがきくというのはかなり嬉しい。
著者の森茉莉さんはヒラメが好きだったようだから、おそらくこのサラダにもヒラメを使っていただろうし、それからお酢だけで食べるのが好きだったらしい。
もちろん市販のドレッシングでもいいし、ボイルしたエビ、イカ、タコなんかを使っても良さそう。鳥の胸肉やササミを使えばヘルシー。もはや何サラダかわからなくなるが、ブロッコリーや豆なんかを加えても良さそう。
ここ数日は毎日このサラダを食べており、口角炎は2日ほどで消滅した。これを書いている今日も、仕事の日のために作り置きをした。今日の具材は【人参・カリフラワー・玉葱・スナップエンドウ・ヒラメ・チャービル】。味見をしたがもちろん美味しい。
手間はかかるものの、大量に仕込んで2〜3日くらいで消費、その後具材を変えて仕込み…というルーティンであれば飽きることもなさそうなので、これからしばらくお世話になる予定だ。
余談だが、鴎外の好物は、森茉莉のエッセイにも記述があるように、葬式饅頭の茶漬けだったと聞く。他にも、彼は杏を砂糖で煮たものをご飯にかけて食べていた(ジャムごはん……)というから、それのどこにこのサラダを美味しいと感じる真っ当な味覚が潜んでいるのか、気になって仕方ない今日この頃である。