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肉体の悪魔を読んで

何故こうも、破滅に向かう愛は奇妙な美しさと熱を帯びるのだろう。

"僕"は15歳。15歳といえば精神的、身体的に大人と子供の間のむず痒さが気になりはじめ、大人のような言葉をつかいたがったり振る舞いをしたり、大人を試すような行動をしたがる時期だけど、運が悪いことに戦争が影を落とした。

戦争のせいで年齢以上の振る舞いをしなければならなかったと"僕"はいうが、この恋愛にはさほど関係がないように思える。戦争がなかったら、ジャックという婚約者がいるマルトとこんな関係にはならなかったわけで。

大人のような振る舞いをしているわりには周囲の意見というか、自分の計画通りにことが進むまで何もしないで待っていたり大人が折れるのを待っている印象を持つ。

一方、マルトの精神年齢も"僕"と同じくらいの印象を持つ。悲劇のヒロインと言っていいのかはわからないが、彼女もどうも"僕"や周りに流されているような気がしてならない。それはジャックとの婚約が、自分は無力だというある種のあきらめを生んだのだろうか。

むちゃくちゃすぎる"逃避行"を受け入れ、

❝ ジャックと幸福になるより、
あなたと不幸になるほうがいい ❞

とつぶやく。いずれこの関係は破滅するとわかっていながら。

マルトは父親が"僕"なのかジャックなのかはっきりしない子どもに"僕"の名前を付け、子どもの名前を呼びながら死んでいく。"僕"のマルトへの愛情は嫉妬になったまま。ふたりが出会ったとき、"僕"は15歳、マルトは19歳。

悲劇というよりは、ふたりの未熟さゆえの不幸せな結末だろう。

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