【未完小説(完結を目指します)】とびっきりの恋をしよう! 第二部 第一話エデンの西へ
「西ってどこなのよ! 西って!」
「あー。うるさい。そもそもエデンってなんなんだ!?」
わちゃわちゃと痴話げんかを繰り広げているのはサーコこと藤堂佐和子と第三皇子レンである。太陽の乙女として念入りに打ち合わせして王宮に訪れたサーコであったが家臣たちは簡単に落ちなかった。おそらく第二皇子サファン派のものが根回ししていたのだろう。太陽の娘が祝福のしるしに頭上にいただいた花冠を持ってきて証明せよと言われた。レガーシの見立てではエデンの西にあると出た。昔、エデンの東とかなんとかいう映画があった記憶があり、ぱくりかとひそかに突っ込んたサーコである。依然レガーシの邸宅で読んだ一部の文字に愛美と見たことがサーコにはあった。おそらくこの名前の持ち主が太陽を産んだのであろうと踏んでいた。同じ日本人であろうことは以前にも感じていた。どこかで同じような少女ではないかとサーコは踏んでいた。愛美という名前に妙に親近感がわいた。その方角を割り出したレガーシとサーラも途中まで一緒に行動していたが砂流に飲み込まれ必死に這い出したところにはレガーシもサーラもいなかった。
「レガーシたちはどこにいるのよ」
イライラとしてサーコは足元の小石をける。レンの足にこつんとあたる。その瞬間背後から声がかかった。
「ここにいます」
ぎゃーと、二人は抱き合った。お化けにでもであったのかと思ったのだ。
「これこれ。若い男女が抱き合うなどとは・・・」
説教を始めるレガーシにサーコがつんつんと腕をつつく。
「生きてるの?」
「はい。サーコ」
「サーラは?」
サーコをなんとなく抱きしめていたいような気持を押えて腕を離すと問いかける。
「ここにいますよ。二人とも何をもめているのですか?」
ひょこっとレガーシの後ろからサーラが顔を出す。
「エデンってなんなんだ? レガーシ」
「サーコに聞いてください。サーコの国の言葉です」
「エデンっていうのはね・・・」
サーコが話し始めるとみな、うんうん、と頷きながら聞く。
「神が人間に与えた楽園という意味。そこには苦しむこともなにもなく。ただ幸せだけがある世界」
一宗教の言葉だけどね。と心の中で付け加えながら答える。宗教の話をしたところでなにもならない。
「なんで太陽の娘のエデンじゃなくて西にいかないといけないんだ?」
レンの疑問ももっともである。幸せの国にあるのではと誰しも考える。
「太陽の娘は神そのものじゃねーか。それなのになんでその向こうの西にいかないといけないんだ」
それはですね、とレガーシが補足する。
「太陽の娘が神から人に戻ったからですよ。夫ゲブと共にエデンの西に移り住んだという一節があります。息子と娘に後を託してエデンを去ったということらしいです。その記念にゲブが愛美に送った花冠が太陽の花冠と言われています。でもその花冠は娘たちにまた託してただの夫婦として生きていったとも言われています」
「娘と息子たちもエデンを出て行ったの?」
とサーコ。
「そうとも言われています。その子孫が我々と言われていますからね。歩を進めながらお話視しましょうか」
「そうね。ここでつまらないケンカをしていても意味がないわ」
早くとってこないと干からびてサファン皇子王国ができかねない。モーセのように四十年も彷徨うのは趣味じゃない。
サーコの指摘にさもありなんとレンがまっすぐ歩き出す。
「西よ。西。わかってるの?」
「うるさい。サーコ。お前は黙ってろ。これをこう見たら・・・」
「レン皇子逆です」
すかさずレガーシの突込みが入る。
「何見てんのよ。しっかりしてよね。安心して奥さんになれないじゃない」
照れもせずいうサーコの言葉にレンは羅針盤を思わず落とす。ごんと鈍い音がする。
「レン!」
「皇子」
「レン様」
三者三様でレンの名を呼ぶ。
「わりぃ。わりぃ」
拾ってぱんぱんと軽く埃を払って持ち直すとレガーシに見方をもう一度教わろうと一歩レガーシに近寄る。その下に葉が落ちていて滑って転びそうになる。ふんだりけったりとはこのことである。落ち着いた風を装いながら内心サーコに突っこむ。奥さんなんて言い出すからだ。どきどきがとまらない。俺の妃になれと言った割には小心者である。
「いったー」
「大丈夫レン? 血が出てるじゃない。バンソコー貼ってあげる」
砂漠では命の水のはずなのにサーコは惜しげもなく傷口を洗い流す。
「サーコ。もう汚れは落ちましたよ」
レガーシが言ってサーコは手を止める。
「ごめんね。ありがとう。レガーシ」
持っていた水筒を返すとポケットをごそごそいじる。そして絆創膏を出すと傷に貼る。
ピンク色のかわいらしい絆創膏だ。
「空気にさえ触れなかったら痛くないから」
「サーコのバカ。俺がこれぐらいの傷で弱るとでも? でもこれかわいいな」
「でしょ?」
ほのぼのと二人の世界を繰り広げているがここは砂流渦巻く砂漠の中である。レガーシが先を急がせる。
「早くここを抜け出さないとひからびてしまいますよ」
サーコが先ほど思っていたような言葉をサーラが発する。
「早くここを抜け出せる道はあるの?」
サーコが尋ねる。
「はい。その道をまっすぐに行った先の砂流に入れば荒れ地に出ます」
「また入るのかよ。サーコ手をつないでいろ。死んでも手を離さないから」
「さぁさぁ行きますよ」
いちゃつく若者をせかしてレガーシが急ぐ。残る三人も思い切って瞼を閉じ砂流に飛び込む。轟音が耳をつんざく。すぐに硬い地面に落とされた。荒れ地だ。
「ここも太古は緑豊かな土地だったと聞いています。今。この世界は終わりに近づいているのかもしれませんね」
「そんなことはさせない。私とレンでこの地を平和にするわ」
「サーコ」
強い言葉に三人ともサーコを見つめる。
「元のようにいかないかもしれないけど、向こうでは争いも平和もあった。平和をみてきたんだもの。できるはず」
瞳に強い光を宿しながらいうサーコの頭をレンがぐりぐりなでる。
「お前って最高」
「何よ。バカレン」
「人がほめたっつーのに。ブスサーコ」
「ふん」
サーコがそっぽをむいてレンが苦笑する。
「悪かった。機嫌直してくれよ」
「レンが優しくしてくれたら直る」
「なんだそれ」
「別に思いついただけ」
「サーコ、レン皇子。いちゃいちゃは王宮でしてください」
レガーシの静かな雷が落ちる。
「はぁーい」
二人ともハモって返事する様子にサーラは笑ってうながす。
「荒れ地も危ないですからね。急ぎますよ」
野営しながら荒れ地を何日も歩く。サーコはモーセの四十年が頭にかすっていたが縁起がないのでだまっていた。やがて緑が徐々に増え、急に視界が開けたかと思うと豊かな森に出会った。後ろに歩くサーコの腕や足が傷つかないよう枝をレンは切りながら先頭をあるく。この数日でいつの間にか役割ができていた。サーコは文献を読んで謎を解き明かし、サーラは炊事をする。レガーシの示す方角をレンが先頭を切って歩く。一種の軍団のような形を成していた。
それを何回も繰り返すと色とりどりの花が咲き乱れる森に到着した。木々は甘いにおいのする果実を実らせている。
「エデン・・・か?」
あまりの雰囲気の違う森に何かを感じたかのようにレンはつぶやく。
「やっとたどり着きましたね。ここがエデンです。神々のおわす最後の楽園」
にこやかに言うレガーシにレンは詰め寄る。
「てめぇー。場所知ってたな?」
「さぁ? でもたどり着いたじゃないですか。あとは西に通り抜けて花冠を得るのみですよ」
「その西が遠いんだろうが」
「それはわかりませんよ。花冠はエデンにあるとも西にあるとも伝えられていますからね。まずはエデンで探してみてはどうですか?」
疑いの目でレガーシを見つめるがレガーシはとぼけて知らぬ顔だ。
「まぁ。いい。ちょうど花畑だ。サーコいいものやる」
そういってどかっと座り込むと近くの花を摘みだした。器用に花冠を編んでゆく。
サーコものほほんと隣に座ってレンを見つめる。
「よく母上とこうして遊んだ。母上は女がほしくていつも代わりに花畑で遊んだ」
「それはさぞかしさびかったでしょうね」
「なわけあるか。十歳まで体の弱い俺が死なないようにって女装させるし」
「でも大好きなお母さんだったんでしょ」
ああ、と短い答えが返ってくる。
「ほら。できた。いずれこれより立派なティアラをやるから待っててくれ」
そういってサーコの頭上に花冠を載せる。
「ありがとう。これで十分よ。どんな宝石よりもレンが心を込めて作ってくれたものは何ものにも代えがたいもの」
サーコはそういってそっと花冠に手を触れる。突如、まぶしい白銀の光がスパークした。どれくらい続いたか。光が収まって瞼をあけるとそこには金髪の男性と白銀の髪を持つ女性が立っていた。
「太陽を作りせし神の子よ。よく来た。その娘は神聖なる太陽の娘と同じ神、太陽の乙女だ。その花冠を持ち帰り平和な世界を築いてほしい。私たちの力はほとんどない。その花冠に埋め込まれている太陽の卵から太陽を生み出し暗黒の世界とならぬよう導いてほしい」
「太陽を作るの?」
花冠を外しながらサーコはいう。声が緊張で震える。
「太陽の卵に選ばれしネクベトよ。新たに太陽と月の産み親になったのだ。新世界を産むのだ」
「いったいどうやって」
サーコの問いに応えず神は言い続ける。
「頼んだ。もう時間がない。私たちの力はあとわずか。尽きる前に新たな太陽と月を・・・」
二人の神の体の線が消えかかっていく。
「待って!」
サーコは叫んだがむなしくそれも終わった。
「これなの? 私が呼ばれた理由」
尋常ざる召還理由に恐怖を感じながらサーコはレガーシをみる。
「そうです。術で太陽の娘の代わりの人間としてあなたは召還された。あまりにも重い責務に初めはなにも伝えず元の世界に返そうと思いましたがレン皇子があなたを好きになった。あなたもレン皇子が好きになった。無断で引き裂くのはと思い黙っていました。本当に太陽の乙女なのですね。この目で見て初めて実感しました。わが神よ。新しい世界をつくりたまえ」
そういってレガーシがひざまずいた。サーラが続く。レンは信じられないといった具合にただサーコを見つめている。
「ちょっと待ってよ。急に臣下ぶらないでよ。いつものレガーシとサーラでいてよ。レンあなたもなの? 私を異端視するの?」
悲しみ満ちたサーコを見てレンは思わず思いっきり抱きしめた。言葉が自然と出ていた。
「ブスサーコ。俺の花冠が太陽の花冠になったんだ。いまさら、引き下がるものか。お前は俺の妃になるんだ。ちょうどいい。この花冠で式を挙げよう。サーファ兄上もびっくりするぞ」
「って。私、太陽つくらないといけないんだけどどうするの?」
「さぁ」
とあっけらかんとレンは答える。レンだけは変わらない。サーコは涙が出そうになるほど嬉しかった。
「レガーシが知ってるだろうさ。術の事まで知ってるんだから」
「エデンで育成するのもよい方法ですがここは時の流れが違う土地。私の邸宅に太陽の卵を育成する地につながる道があります。そこから通われるのがよいかと。わが神というのはお気に召しませんか? サーコとお呼びしてよいのですか?」
レガーシが畏敬の念を持ちながら話す。
「ちょっとレガーシ。そのわが神ってやめてよ。みんなと同じにして。特別扱いはいやよ」
「サーコ」
サーコの必死の訴えに逡巡していたレガーシだがひざまずくのをやめた。サーラもそれがレガーシの答えと気づき立ち上がる。わかりました、とレガーシはしばらくして言う。
「今まで通りにしましょう。今まで通りのほうが周りにこの重大さがもれないかもしれません。実際に太陽の乙女となった今どんな危険も避けねばなりません。レン皇子と育成をなさればいい。心近しいものと育成すればよいとも伝えられています。なんといっても太陽の丘と呼ばれる我が国。太陽を産むのも当然なのかもしれません」
「わーった。じゃレガーシこんどは一度で屋敷に戻らせろ。術使うの控えてただろが。俺の目にはごまかせねー」
「わかっていますよ」
「え? え? 今までの苦労って?」
「そーいうやつなんだ。こいつは」
一人納得しているレンの足をサーコはけりをいれる。
「一人で納得しないでよ。レガーシって結構腹黒い?」
「腹黒い?!」
あまりのいわれようにレガーシの目が悲しみに満ちる。
「早くしろ」
レンがせっつく。
「わかりました」
レガーシが何ごとかぶつぶつつぶやく。さっと手をふるとそこはレガーシの天幕の部屋がある邸宅に戻っていた。見慣れた風景に安堵しながらもサーコは脱力する。
「私たちの苦労って・・・」
「こいつにはなしに近いんだよ。俺はとりあえず城に帰った方がいいか?」
レガーシにレンが問いかける。
「帰れば花冠の話がでます。当分はこちらに逗留なさってください」
「わーった。とりあえず飯だ。飯」
「今作りますよ。サーコも手伝ってください」
サーラの言葉にサーコは喜びが隠せない。とりあえずの特別扱いはなくなったようだ。いつもの関係に戻れてサーコは安堵した。これからどんな危険がくるのか四人はまだ知らなかった。太陽の卵を手にしたが故の。まだ平和なレガーシ邸であった。
あとがき
はい。第二部です。二部の最後で三部に移行させようかしら。キリはいんですよね。この育成バージョンはあのアンジェリークのオマージュです。この後、太陽と月がなくなる日を書いてみようと最近思ったのでした。と、朝活で早朝に起きれたのでリベルサス飲んで待機だけど、眠気が……。早くお茶飲みたいー。パワーナップはしたけれど。もう一度いるかしら。あまりにも眠いのでもう一回パワーナップしてきます。ここまで読んでくださってありがとうございました。