【連載小説】ファンタジー恋愛小説:影の騎士真珠の姫 最終話
前話
春になった。
アムネシア国ほどではないが春を告げる花が咲き誇っている。
フィーネペルルは毎日城の入り口で想い人を待ち続けた。
「フィーネ。また、こんな所に。婚礼の準備話終わらないわよ。エルフィもエルマもあなたの散歩を待ってるわよ」
カタリーナが呼びに来る。
「まずはあなたとライアン様の式でしょう。私はまだ夫が帰ってこないんだから」
それから、散歩、と言う言葉でまるっきり一ヶ月以上ほったらかしにしていた愛犬たちを思い出す。
あの子達にまで嫌われたら……。
まるで、全ての人に嫌われた感覚に陥って、慌てて部屋へ向かおうとするとカタリーナが付け加える。
「と。その目の前に歩いてくる馬は誰が乗っているの?」
面白げに言う言葉に目をやると、見慣れたヴァルターの馬がこちらに早足で向かってきていた。
「ヴァルト!」
フィーネペルルはドレスが汚れるのも気にせず駆けていく。
「フィーネ!」
ヴァルターは馬から飛び降りるとフィーネペルルを強く抱きしめる。
「よかった。約束通りに帰ってきてくれたのね」
「当たり前だ。フィーネを他の男に渡すつもりはない」
そう言って、跪く。
「ヴァルト?」
「愛しいフィーネペルル姫。この愛の証を受け取って欲しい」
そう言って指輪を二つ見せると二つともフィーネペルルの薬指にはめる。
「これ……」
「そう。婚約指輪と結婚指輪だ。母上の形見だ。姉上がフィーネに、と」
フィーネペルルは戸惑って歩いてくる義理の姉になるゾフィーを見る。
「あなたがつけなくて良いの?」
「きっと、姫が見つけてくださる殿方がくださいますわ」
「ま。お見合いする気が十分みたいね」
フィーネペルルが言うと少し悲しげにゾフィーは言う。
「恋人はもう家庭を持っていました。一緒に暮らそうとヴァルトが……」
「もちろんよ。お姉さん!」
そう言ってフィーネペルルはゾフィーを抱きしめる。
「姉、と言ってくださるのね」
「当たり前でしょ。ヴァルトの家族は私の家族よ」
「フィーネペルル様」
「フィーネって呼んで。みんなそう呼ぶのよ」
戸惑っているとヴァルトがやって来てゾフィからフィーネペルルを奪う。
「姉上でもフィーネを独り占めするのは困ります」
「ちょっと! ヴァルト! 姉妹のいい場面を奪わないで!」
叱りつけるフィーネペルルにヴァルトがキスをする。熱いキスをしてヴァルトは言う。
「これでも?」
フィーネペルルの顔が険しくなる。不機嫌姫の登場だ。
「知らない!」
「ヴァルトは少し姫の扱いに慣れた方がいいな」
「ライアン! 婚礼に間に合わなかったか?」
「いや。ちょうど明日に挙げる事になっている」
よかった、と心底胸をなで下ろしているヴァルターにカテリーナもライアンも不思議だ。
「家族の一大事に立ち会わなければこの不機嫌姫の不機嫌を治すに一苦労する」
それを聞いたカテリーナはけらけら笑う。
「何言ってるの。ひとつ熱いキスをしてあげれば治るわよ」
「この状態をみても?」
相変わらず、フィーネペルルの顔には不機嫌が乗っている。
「フィーネ。待ちに待った恋人の帰還よ。機嫌直してキスしてあげたら?」
「キスって何? 聡明は姫には聞いたことのない言葉ですわ」
そう言って澄まして言うとゾフィーの手を取って城の中に入る。
「恋人より姉?」
ライアンが驚いて言う。
「ずっと一人っ子だったあの子には従姉妹だけじゃ無理なのよ。甘えられる人がうんと必要なの。ほら。ヴァルト、追いかけて」
「あ、ああ」
入り口ではゾフィーと一緒に瞳を煌めかせたフィーネペルルが待っていた。首に手を絡めて熱いキスをしている。姉の前で。
「気難しい女王様にならないで欲しいのだが」
「ヴァルトにだけよ。きっと」
そう言ってカタリーナはライアンの肩に頭を乗せて甘える。こちらは落ち着くところに落ち着いているらしい。これからしばらく、城では恋の花が咲きっぱなしになる。それを思うといろいろしがいがあると思うカテリーナだ。フィーネペルルも甘い婚約時代を送れると言ったところこか。
女王としてこれから険しい道を歩むこととなるフィーネペルル。
影の真珠姫は見事に影を受け入れ、死と再生を経て新しい、愛と勇気という力を手に入れた。これからもいろんな影が現れることだろう。そのたびに影の騎士ヴァルターと乗り越えていく。
春の風がフィーネペルルとヴァルターの髪をなで新しい時代が来たことを告げていた。
影の騎士真珠の姫 完
あとがき
綺麗に収まったのにいらぬ虫が騒ぎ出して第二部が。どこまで話数がのびるかもわかりませんが。三話ぐらいで終わったら泣く。一話で終わりそうだったので近場を遠い所に変更して旅させます。歩いて行ける距離だったのに。名前も忘れてたし。ヴァルターが本名で、ヴァルトが愛称。というのをごっちゃにしてたので。あとゾフィとゾフィー。ーを入れたり入れなかったりしていたので入れる設定に。今回もそこを直しました。
第二部、第一話とあらすじは書いてあるので、その内お目見えします。お待ちください。
最後まで読んで下さってありがとうございました。これからもよろしくお願いします。