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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(66)

前話

 あれから、周りはびっくりしたものの、クルトを信用しきってるのか、それともそんな甲斐性もないと思っているのか大きな反対もなく私の私室はクルトと一緒になった。そしてキアラを挟んで眠る。手をつないで。最初はドキドキしたけれど、クルトはよほど疲れていたのかあっという間に寝てしまい、拍子抜けして私もあっという間に眠りに落ちていった。それから一向に何もない。こういうのもなんだけど、女の魅力がないのかしら、とも思うけれどこの考えだけは死守して流れないようにしていた。そして、突貫工事の音があちこちで鳴り響く中、私は私室となったクルトの大きな部屋で手紙を書き続けていた。いくら書いても終わらない。聖女伝説を恨んだわ。誰がこんなうわさを流しているのやら。とっちめてやりたかった。
「それは危ないよ。東かもしれないんだから」
「クルト!」
 声に顔を上げれば魔皇帝の水晶が目の前にあった。
「これを持ち出して……! ん??」
「あ。気づいた? これ本物じゃないの。まとっている魔力はヴィーのものだよ。少なくとも家族の魔力だからつけておいた」
「家族?」
「昔の絆だよ。一応は」
「ならカロリーネお姉様もだわ」
「私には魔力がほとんどないの」
「お姉様!」
 すっかり元気になったお姉様がそこにいた。
「毎日手紙と開かずの間にいると聞いたからシュテファンに相談したの。そしたら、お父様がこれを、と」
「お父様??」

 どっちの? 

 カロリーネお姉様にはもうライゼンお父様という後ろ盾がある。いつもお父様とお慕いなさっているのを見ていた。
「ライゼンお父様よ。昔から手先が器用で、復元となると右に出る者はいないわ」
「復元? 作り物?」
「そう! 僕も手伝ったんだ!」
「ヴィー!」
 机に背が届かないのかなんなのかなぜかぴょんぴょん飛び跳ねている。こんなに背が小さかったかしら。
「魔力をありったけ使ったから退行したの」

 退行って。年が戻ったの?! フリーデとの年の差が!!

 がたっと机から立ち上がる。
「おっと」
 水晶が移動する。
「これを、寝室に置こう。あの本物は物騒だから隠さないとね」
 はい、とクルトが手渡す。ずしり、と感触がそっくり。

 ここまで似せるの?

 私はさっきから驚いてばかりだ。
「エミーリエのその顔は久しぶりだね。ここに来た頃はしょっちゅうそんな顔をしてたのを思い出したよ。ちゅ」
 クルトが可愛いと言わんばかりに頬にキスする。私は両手がふさがっていていたしません、も、デコピン制裁も出せない。
「やり逃げ~」
「クルト! 陛下!」
 私が陛下、と呼ぶとびっくりしてすっころぶ。戻ってきて肩をがしっとつかまれる。
「それは婚礼までお預け。もう。一気に年を取ったじゃないか」
「年寄りで悪かった」
「陛下!」
「お父様」
「はい。お父様」
「それが噂の魔皇帝の水晶か」
 ふむふむとお父様は見る。
「って、お父様見てないんですか?」
「エミーリエの宮殿には基本的にクルト以外は入ってはいけない。ヴィーやカロリーネは犯罪を犯しているんだよ」
「父上。そこまで言わなくても」
「ま。確かにヴィーは資格がある。カロリーネもな。だから公然の秘密なのだよ。この宮に移ってくれたから私もエミーリエの顔が見られるようになった。しかも引越ししてくれたからもうあとは孫だけだ」
 
 ぶっ!

 私は水晶を落としそうになった。孫って……。孫って……。

「父上。今はキアラが娘です。孫を抱きたかったら子猫あやしてください。キアラならなつきますよ。ね。エミーリエ」
 温かい視線が来る。
「え、ええ……」
 私はどぎまぎしている。本当に水晶を割ってしまいそうだわ。
「おや、エミーリエはその気だったの。なら、いっそ……」

 ぼかっ。

 一斉にクルトに鉄拳制裁が飛ぶ。ヴィーはクルトをがしがし蹴っている。
「婚礼前に未婚の女性を襲うなどもってのほかだ」
「って、。父上が孫と」
「それとこれとは別だ」
「そんなぁ~」
 クルトの情けない笑いに一同笑いが起こる。
「これでも必死で耐えてるのに」
「そうなの? それじゃ……」
「今さら戻りはだめー。エミーリエと一緒に過ごせるなら男の理性のひとつやふたつ破壊するよ」
「破壊って……」
「あーあ。ご馳走様。私はヴォルトといちゃいちゃしてくるわ」
「じゃ、僕、フリーデと」
「仕事時間内です」
「フリーデ! いつの間に」
 フリーデがアイスのアールグレイをもって立っていた。
「さ、エミーリエ様。水晶はクルト様に安置していただいて休憩してください。ずっと書きっぱなしではないですか。ほら。袖口がインクで……」
「あら、やだ。汚しちゃったわ。漂白剤で落ちるかしら」
 心配する私にヴィルヘルムがにっと笑う。
「フリーデは洗濯も得意なんだよ。染み抜きなんて簡単簡単」
 にこにことフリーデのいいところ二百個言い出し始めそうな雰囲気に、クルトが水晶を持ちながら手を引く。
「さ。休憩時間までとる気はないよ。アールグレイを飲もう」
 私室のテーブルにエスコートされる。間に水晶がどかっと置かれて私はびくびくする。見れば見るほどそっくりで今にもおじい様がでてきそうだった。あの館でのお茶会が思い出される。
「懐かしいね」
「懐かしいわ」
 水晶を挟んでお互いアールグレイを持つ。もう周りは消えていた。遠くでヴィルヘルムのあきれた声やお父様の気遣う声が聞こえていたけれど耳に入ってこなかった。いつの間にか私はクルトと二人きりの時間を過ごしていた。
 ドキドキの恋人の時間。魅惑的なクルトの瞳に吸い込まれそう。
「そういうエミーリエの瞳もかわいいよ」
「もう。また読んで」
「流れてくるんだよ。ただ、時々途切れるときがある。君もコツをつかみ始めたね」
「それは乙女の恥じらいがあるもの。隠したいこともあるわ」
「隠すの? もったいない。俺の方は君に心を開けっ放しにしようと考え始めていたのに……」
「クルト?」
「もう。君への愛はあふれてたまらないよ。こらえるのが大変。毎日、毎夜君の寝顔を見ていると愛しさがこみ上げてくるんだ。大事な俺の眠り姫」
 クルトの甘い言葉が始まる。また溶けるような時間が訪れていた。


あとがき
はい。珍しく出たいちゃいちゃです。いや、これが恋人として当たり前なんだろうね。💦。クルトも調教されたもんだ。エミーリエが恋愛小説を好んで読んでるので自然とどういう話なの? という問いが。するとこまごま説明するので自然とあまーい歯の浮くセリフがでるようになったという経緯が。しかし、甘い。これはスキがつかないパターンね。今日はこれだけ更新。後はエッセイの勉強が書ければいいかな?

見事に4が使えなくなってIEでイラスト生成。4だったら添付できるけれどこっちはただのお遊びパターンなので似たような絵柄で生成して見出し画像とします。そのうちまたプラスに入れいたら作り直しますね。当分、雰囲気の違う見出し画像で我慢してください。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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