【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (11)再編集版
前話
「はぁー。美味しかった」
最初にウルガーはアーダとフローラに追い出され、お風呂に入った。よく考えれば、この宮には風呂部屋があったと思い出した。ウルガーを追い出す必要はなかったけれど、やっぱりすぐ側で待ってられるのは落ち着かない。ということで着替えついでに長風呂を味わった。薔薇の花弁をちらして豪勢なお風呂だった。服に着替えても、まだその香が残っていた。
「ゼルマー。ちゅー」
ウルガーが声をかける。私はお姉様と顔を見合わせてローズウッドのお盆を用意する。
「入ってもいいけど、お盆が待ってるからね」
「う」
ウルガーがうめく。
「じゃ、ちゅーなしね」
「わかったから。入れてー」
情けない声が聞こえてきて私とお姉様はくすくす笑い合う。
「ちゅーしないからー」
さらに大きな声でけたけた笑いながら扉をあける。ちょうど、その時、急いでこられたのかお父様がいらっしゃった。
「ゼルマ! よく無事で・・・」
お父様は涙ぐんでいる。そのお父様は現の世界では当になくなっていた父の顔と似ているのに気づいた。それをそっと胸の中にしまう。
「お父様こそ。お姉様が、行き遅れになってはと戻ってきました。絶賛再婚相手募集中と聞きましたわ」
「ああ。それで明日の打ち合わせで宮廷内にいたのだ。一報を受けてすぐにでも来たかったのだが、あいにく、そういうわけにはいかなくてな」
「お父様も夕食を食べ損ねましたか? これからみんなで食べるんです。一緒に食べて行かれますか?」
「そんな丁寧語ではなさなくてもいい。私の入る余地があるのなら是非そうしたい」
「ウルガー?」
「はいはい。椅子を一つ調達してくるよ。ついでにエルノーに一食追加を言ってこよう」
「大好きよ。ウルガー」
背伸びして頬にちゅーする。いつの間にこんなに背が伸びたのかしら。
「やった。ちゅーだ。お返しのちゅー」
ばこん。
二枚のローズウッドのお盆が命中する。
「ぼうりょくはんたーい」
「早く言わないとウルガーの分が減るわよ」
「それはいけない。この宮の料理は宮殿よりうまいからな。さっさと行ってくる」
ぴゅーっと風の如く去って行く王太子だ。本当に国を引っ張る王太子なのかしら。時々不思議になる。いずれは王様なのに、ちゅーだらけって・・・。
「ゼルマ、頬がゆるみっぱなしよ」
「え? ウソよ。違う事考えてたのに」
「嫌い嫌いも好きのうち」
「お姉様ったら。一皮むけたわね」
「そう? ゼルマも一皮も二皮もむけたわね」
義理の姉妹なのに本当の姉妹のように接することができる。お姉様のルーツを知ったからなのね。一人で考える。ここは私が選んだ夢の中。でも、現世と同じくらい、悲しみも苦しみもある世界。この世界で生きていこう。私はそっと思っていた。
「それでは、頂きます」
「頂きます」
お父様には謎の合言葉を唱えてお父様以外が食べ始める。
「ゼルマ。頂きますとは?」
「食事をありがたく頂きますという気持ちの表れを示す挨拶みたいな物です。さ。お父様もお食べになって」
「では、い、頂きます、でいいのかな?」
「ええ」
にっこり笑う私をウルガーがじとーとみる。
「ゼルマは俺を見てたらいいの」
「はいはい」
ここでもにっこり笑うと上機嫌で食べ始めた。簡単なこと。そんな素直なウルガーが好きになっていく。あの、闇の目を持っていたウルガーはいなかった。それだけでもよかった。あのままここに戻らなければウルガーはまた闇に捕らわれていた。おねえちゃんやお母さんが大事じゃなかったわけじゃない。でも、ウルガーを放っておけなかった。帰らなきゃ、そう強く思った。そして戻れた。それでいいのよ。瀬里。昔の名前を不意に思い出す。でも今はゼルマだ。もう忘れよう。そう思って食事を始める。そんな私をお父様やお姉様は不思議そうに見る。気がつけば、みんなが注目していた。
「どうしたの?」
「ここに姫様がいるのが幻のようで・・・」
アーダが涙ぐむ。エルノーがそのアーダの肩に手を置く。
「幻でも幽霊でもないわ。ちゃんとしたゼルマよ。今度は消えないから。もっともウルガーのちゅーがしつこいと帰るかもね」
少し冗談めかして言うと一斉にウルガーに文句が行く。
「ちょっと。まだ、何もしてない」
「当たり前です!」
お姉様がぴしり、と言う。
「隙あらばちゅーなのですから。ゼルマが家出すれば王太子殿下のせいですからね」
「ゼルマもさっき頬にちゅーしたじゃないか。ゼルマはよくて俺は良くないの?」
不満げにウルガーが言う。
「頬と別の箇所はまた別です」
「ちぇ」
ウルガーがすねてその場に小さな笑いが起きた。お父様も微笑んでいる。その顔が見られて少し嬉しかった。にこにことしているとウルガーが見ている。
「どうしたの?」
「嬉しそうだなーって。ここに戻れて本当に嬉しいの?」
「当たり前じゃないの。ウルガーの事だけを思って戻ったんだから。ウルガーに会いたいって祈るような気持ちで原稿用紙を抱えたら帰れたんだから」
レテにあったことは他の人には内緒にしてある。誰も現と夢の世界のことなんて信じないだろうから。この意識の世界はこんな西洋文化にあふれた所では認識されていない。少し、東方の入った文化だけど。過ごしやすいのはきっとここが東洋に近いからだ。私の故郷の国は異文化だった。どこか納得できない世界にいたのだ。だからこちらにきて正解なのだ。
「なんだか難しい顔をしているね。何考えてるの?」
不思議そうにみんな私を見ている。
「この国と生まれ育った国の文化の違いってとこかしら」
「そのような事を考えられるのはきっとこちらに来て色々経験したからだろう。今後はそんな難しい事を考えなくとも私達がいる。フローラは再婚するかもしれないが、この近辺に住む。いつだって女官として入れるように取り計らって貰っている。そなたは父も姉もいるぞ」
「夫もね」
割り込むようにウルガーが言う。
「もう、家族の団らんを壊さないで」
「い・や。ゼルマは俺のもん」
「もう。ウルガーったら」
いつの間にか独占欲の強いウルガーに変っていた。これがウルガーなのかしら? じっと見つめていると目が合う。
「ゼルマ、体が回復すればまた婚礼と葬儀の段取りがある。でも俺はこの宮から動かないからね。好きな宮に入って仕事もここでする。二度とゼルマをはなすもんか」
まるで少年の様なウルガーに、びっくりする。
「ウルガー、退行現象?」
「退行?」
「まるで初恋をしたどこかの少年みたい。ウルガーの年齢ならもっとすっとしてる気がしていたのだけど」
「ああ。成人は越したからな。だけど、俺の闇をとっばらって光が戻ったんだ。もう失いたくない」
ウルガーの強い意志に戻って良かった、と再確認したキンモクセイの宮で再び始まった生活だった。
☆
「ゼルマ」
「お姉様! 綺麗! 正装なのね。今日はお見合いだったわね」
お姉様が早朝に宮を訪ねてきた。いつもなら女官としての勤務だけど、今日はお姉様のお見合いの日。正装して綺麗に化粧したお姉様はとても美しかった。
「お相手の方、あっという間に惚れてしまうわ」
「さぁ? お堅い方らしいから。なんでもウルガー様の従兄弟に当たる方らしいわ」
「そうなの? じゃ、結婚しても従姉妹になるのね」
「そういえば、そうね」
天然ボケに転けそうになる。髪を梳いていたアーダが櫛でひっぱる。
「ゼルマ様。まだ髪が整っておりません」
「いいじゃないの。髪の毛ぐらい。見るのはみんなとウルガーぐらいよ」
そう言ってるとひめー、とウルガーの声がしてきた。
「噂をするとなんとやら、ね」
お姉様とくすくす、笑い合う。
「ゼルマー。ちゅー」
ばこん。
お盆が命中する。お姉様も小さなお盆を隠し持っていた。
「姉妹の血は争えないわね」
そう言ってまた顔を見合わして笑い合う。
「ゼルマはこっち」
くい、とウルガーの方へ向けられる。
「そんな一回や二回は違う人の顔見てもいいでしょう?」
「だーめ。俺のゼルマだからね」
「行方不明の間に人格が変ったわね」
「別に、ゼルマが俺の闇を取り除いてくれたらこうなっただけだけど?」
「と。お姉様。お時間が」
再びお姉様を見て言うと軽く頷く。握りこぶしを小さく作ってがんばって、と言う。
「うまく行くかどうか見守ってて」
そう言って迎えに来たお父様と一緒にお見合いの場所、宮殿の東屋に出ていった。
「そういえば、ウルガー。この華の宮にも東屋はあるの?」
「あるよ」
ウルガーはそれが? と言った具合で答える。
「デートしましょ」
「でーと?」
「えーと。こちらの言葉じゃ、逢い引きってとこかしら」
「逢い引き!」
アーダが顔色を変えている。
「そんな品性のない事はダメです!」
「って、お姉様と同じよ。それが婚約者か初対面かの違いで。ただ、おしゃべりするだけよ? 果物でも食べながらとかお茶しながらとか」
「ちゅーはないの?」
「ありません!」
きっぱり断言しておく。
「えー。でも。ゼルマとでーとしてみたいな」
「じゃ、決まり。アーダ、果物とお茶を用意して。東屋でウルガーとデートしてくるわ」
「姫様。深窓の姫様はそんなに外に出ないものです」
「深窓の姫、じゃないもの。お転婆姫よ」
「アーダ。俺からも頼む。ゼルマの気持ちをほぐすにはこういうことも必要なんだ」
「ほぐす?」
アーダと一緒に問い返す。
「姫はまだ戻ってきてからのショックが大きい。精神的な負担をかけている。それを和らげるのはそういった遊び事なんだよ」
「あら。ウルガー、心理学のようなことどこで覚えたの」
「しんりがく?」
「えーとね・・・」
私とウルガーの初デートは心理学の説明から始まったのだった。
あとがき
はぁ。この頃はまだまだ素直だったのね、と読み返して思います。でもウルガー二十歳過ぎてるんですけど……。少々子供過ぎる。まぁ、頭の中で何を考えているかは書き手も知りませんが。今日帰ってきて執筆ができれば、明日載せます。当分、これと「最後の眠り姫」で我慢してください。アカウントノート消失のショックからまだまだ立ち直れない状態で、時間は朝無理矢理作ってる状態で。仕事が過酷すぎて、帰宅してもなかなか手に着かないと思いますが、なんと一字でも打ち込みます。
メガネが合ってない。もうひとつのはあってるんだけど。普段使いがいまいち。乱視が入ってる感じが……。
で、画像、11から替えるので帰ってから作ります。とりあえず、一話更新、と。