見出し画像

レイチェル・ランバート - 時々、私は考える(2023) Sometimes I think about dying

「It’s hard, isn’t it? Being a person.」
サンダンス映画祭USドラマティック・コンペティション部門オフィシャルセレクション作品。「スターウォーズ」のデイジー・リドリー主演。人付き合いの苦手な主人公が、新しくやってきた同僚との交流を通して、「人間をすること」の楽しさや苦しさを知っていく。『心と体と』を彷彿とさせつつ、この映画が主人公フランを病的な人間として描かないことにたいへん好感。自己受容についての話。

映画「グーニーズ」の舞台としても知られるオレゴン州アストリアの閑散とした港町。人付き合いが苦手な女性フランは、職場と自宅を往復するだけの平穏な日々を過ごしていた。友人も恋人もいない彼女にとって唯一の楽しみは、幻想的な“死”の空想にふけること。そんな彼女の日常が、フレンドリーな新しい同僚ロバートとのささやかな交流をきっかけに、ゆっくりと動きはじめる。ロバートと順調にデートを重ねるフランだったが、心の足かせは外れないままで……。


冒頭、街を切り取ったなんの変哲のない映像が、ダブニー・モリスによるロマンティックな劇伴が重ねられていくことでどこかファンタジックな雰囲気を醸し出していくタイトルロールが大好きだった。静かで平凡な日常、同僚との不器用な会話、新しい同僚との出会いによって、ひとりぼっちな主人公フランの日々がすこしだけ変化する。その孤独は、優しくて淡い。彼女の孤独を、なにか病的なものとむすびつけたり、風変わりな人間の生活として貶めたりもしない。彼女の死ぬ夢は、生きる夢の表裏一体であること、平凡だが不確実な世界に対処するための戦略として描かれる。その灰色の世界が色がないとは言い切れない。灰色の世界にもさまざまな色や匂いがあること、そのあわいを注意深く見せてくれる。ラストに訪れる変化のなかでも、フランが人といることに対して居心地が良いとは思わないし、ひとりでいることは相変わらず居心地が良く、それでもフランがフランという人間と生きることやほかにひとといるときも居心地の良いものになりそうな予感をもって終わる。ひとりでいることが居心地良いことなのだという人間を否定しない。
秘密を打ち明け、理解と親密さをもとめ、友情を切り開こうとするフランの人生に幸あれと願わずにはいられない。「ちゃんと生きることって難しい」って感じるよね。小さくてシンプルだけれどちょっとばかりの勇気が詰め込まれた宝石のような一作だった😭💎

2023 | アメリカ|3:2
監督:レイチェル・ランバート
出演:デイジー・リドリー、デイブ・メリへジ

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集