エンリオ・カサローザ - あの夏のルカ (2021) Luca
短編「月と少年」でアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされたエンリコ・カサローザ監督の初長編アニメーション作。ピクサー製作。一度配信で観ていたものの、劇場公開されるということで、劇場でもう一度観たら、こんなにもいい作品だったか、、、と映画のスクリーンから飛び出てくるエネルギーをふんだんに浴びて、めまいがした。
シー・モンスターと呼ばれる種族が海で暮らしていて、彼らは人間を恐れている。シー・モンスターである13歳の少年ルカも、両親から「人間には気をつけて!」「好奇心の多い魚はすぐに死ぬ!」とか言われており、その教えを守る良い子ちゃん(このあと、物語ではルカがとても好奇心が強くて、頭の良さで物事を解決していく少年であることが分かってくるのが良い)。でも、陸に暮らしている14歳の少年アルベルトと出会い、憧れや求めているものが近いことですぐに仲良くなる(その描写に象徴的ベスパが使われている)。毎日、陸で過ごす時間が長くなる(夢中で遊んでいるといつのまにか外が暗くなっていたり、遊んでいるうちに眠り込んでしまったり)。そうなると、魚の放牧も自分のかかし(的な岩の分身)に任せて、遊びほうけることになり、陸で遊んでいることが両親にバレてしまう。母ダニエラからルカの叔父にあたる深海に住むシー・モンスターのウーゴといっしょに深海へ行けと脅されたことをきっかけに家を飛び出し、つかのま、アルベルトと自立の道を探す冒険へ。人間の街ことポルト・ロッソ(紅の豚のポルコ・ロッソとかけているらしい)へ向かい、そこで出会ったはみだしもののジュリアといっしょに街の恒例行事トライアスロン大会に出場して賞金を手にすることを夢に特訓の日々がはじまるが、、、というのがあらすじ。街は崩壊の危機にもならないし、海の怪物を倒して世界を救うわけでもなく、ただただ「coming-of-age」ものであることが素晴らしい。そして、物語を進めていくのがルカの好奇心なのも好きなところ。そこには親友となるアルベルトとジュリアの存在があるのも憎い。まずは「海から出る」こと。そして「歩く」こと、「自転車に乗る」こと、「真の自分の姿」をカミングアウトすること。「好奇心が旺盛だとすぐに死ぬよ!」と脅しのように言われていた言葉に抵抗するように、ルカは自分の好奇心で、友達を作り、世界を広げていき、ちいさなつまずきには知恵で世界を押し広げていく。そして、夢を叶えたり、行動することは、ときにひとりの力だけでは難しいけれど、仲間が支えてくれたり、仲間のために行動することで変化が訪れること、変化や夢を叶えていくことは素晴らしいだけでなく痛みも伴うことも描いてくれる、とびっきりの成長物語だった。ルカとアルベルトが仲良くなるきっかけは、互いに近いものを求めているという点なのだけど、街に行くことでルカは次第に「学び」について興味を持つようになりジュリアといっしょに「学校に行きたい」と思い始めると、アルベルトと距離ができてしまい、アルベルトは嫉妬心丸出しにするのだけど、その気持ちを乗り越えて、互いに求めているものが変わってしまった上で大切な友情を差し出せるようになるというアルベルト側の成長も◉!
加えて、ルカという名前が、「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノを、ルカの髪の毛の癖毛が「君の名前で〜」のティモシー・シャラメを彷彿させること、またふたつの世界を行き来する物語であることや真の自分の姿を認めてもらう物語であることはクィア的に読むこともできる(と思ったが、監督はこの読み方を否定している)。クィアネスについては明確に述べられていないものの、仲良し3人組になるルカ、アルベルト、そしてジュリアは、街の人々からははみ出しもの(ゆえに仲良しになれる)だし、人間ではないルカとアルベルトが人間に同化しようとするも真の自分の姿を隠し通すことは難しいこと、シー・モンスター・ハンターであったジュリアの父マッシモが、人間の姿ではなく、シー・モンスターの姿になったルカとアルベルトのことをすぐに自分の知っているルカとアルベルトだと気づき、彼らの姿・存在を認めることなど、その他者性の物語は、クィアだけでなく、移民や人種の異なる人々の物語としても感動的な物語だった。街の人から信頼のあつい男マッシモが誰よりも早くその態度を街の人々に示す姿がむしょうにカッコよかった。
2021年、アメリカ、95分、1.85:1、カラー 監督:エンリコ・カサローザ 製作:アンドレア・ウォーレン 脚本:ジェシー・アンドリューズ、マイク・ジョーンズ story by エンリコ・カサローザ、ジェシー・アンドリューズ、シモン・ステファンソン
1950年代、イタリアの街ポルト・ロッソ。街の人間たちはシー・モンスターを恐れていたが、シー・モンスターたちも人間を恐れていた。シー・モンスターの13歳の男の子ルカは、毎日、魚たちを世話しているが、ある日、陸から海へ落ちてきた人間の道具を拾う14歳の少年アルベルトと出会う。母ダニエラや父ロレンゾからは、陸に近づいてはいけないと言われ、その教えを忠実に守ってきたルカだったが、アルベルトへの興味から陸にあがってしまう。
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