オリバー・パーカー『2度目のはなればなれ』おじいちゃん最後の冒険
お互いに2度目のオスカー受賞という名優マイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンが50年ぶり、『愛と哀しみのエリザベス』以来2度目の競演にしてふたたび夫婦役を演じた。グレンダ・ジャクソンは映画公開前の2023年6月15日にこの世を去り、輝かしい女優人生に幕をおろした。そして、マイケル・ケインも本作を最後に俳優人生を引退する。とても控えめな映画ながら、とても心に残る作品だった。老齢にいたっても確実な演技をするマイケル・ケインとグレンダ・ジャクソンがあってこその映画だった。いつどちらかが死んでもおかしくなかった戦争を乗り越えて長い時間を共にしてきた夫婦の愛の物語であるが、戦争のトラウマを受け入れることについての映画という側面が大きい。ちゃめっ気のあるバーナードと毒っ気のあるユーモアを持ったレネという夫婦の魅力、苦楽をともにしてきたふたりが抱える戦争のときのトラウマ。男たちだけの死の物語だけではなく、ホームで彼を辛抱強く待ち続けるレネにも焦点を当てることで、女性による戦時中の経験と死の必然性をも描こうとする。憂鬱な題材でありながら、軽やかなトーンがこの映画を爽やかな継承の物語へと昇華させる。
2014年の夏。イギリスの老人ホームで寄り添いながら人生最期の日々を過ごす老夫婦バーナードとレネ。決して離れないと誓ったふたりだが、ある朝、ノルマンディ上陸作戦70年の式典の日に、バーナードがひとりホームから姿を消して大騒ぎに。彼は、ひとりフランスのノルマンディに旅立つのだ。ふたりが離れ離れになるのは人生で二度目。決して離れないと誓った男がどうしても離れ離れにならなければならなかった理由とは。そして必ず戻ってくると信じる妻の想いとは。
The Great Escaper｜2023｜イギリス｜96分｜2.35:1
監督：オリバー・パーカー｜脚本：ウィリアム・アイヴォリー
撮影：クリストファー・ロス｜編集：ポール・トシル
出演：マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ジョン・スタンディング