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バレても別にいいじゃん

アメリカに住んでいた頃、
現地駐在員のお子さんや、
国際結婚した日本人のお子さんたちが通う、
日本語学校の教員をしていた。

私は勤めていた4年半の間ずっと、
小学部1年生の担任をしていたのだが、
毎週、絵本を1冊読み聞かせていた。

ある日、『鶴の恩返し』を読んだ。
ご存知の通り、おじいさんに助けられた鶴が、
後日、人間の娘に化けて
おじいさん夫妻の家にやって来て、
お礼に自分の羽を抜いて反物を織る話。

娘に化けた鶴に
「決してのぞかないでください」
と言われていたにもかかわらず、
二人は娘が鶴であることを見てしまい、
「もうここには、いられません」
と、娘が出て行ってしまう結末を迎える。

最後まで読んで「おしまい」と言うと、
子どもたちは少し考え込み、
「なんで、鶴ってわかっちゃったらダメなの?」
と質問してきた子がいた。

そんなこと、考えたこともなかったので
一瞬動揺したが、冷静になって
「鶴ってわかっちゃったから、恥ずかしくて、
  いられなくなったんだね、きっと」
と説明したら、それでも腑に落ちない顔をして、
「う~ん、ボクなら別にバレても構わないな…」
と、言っていた。
「そうなの? 鶴ってわかっちゃっても、
  ずっとおじいさんたちの家にいられる?」
と聞いたら、「うん!」と元気よく答えていた。

子どもの視点って斬新!  確かに、
別に悪いことしてるわけじゃないんだし、
考えてみたら出て行かなくてもいいような…と、
思ったことを覚えている。

その場合、鶴は娘に化けたまま、
おじいさんとおばあさんと
幸せに暮らしましたとさ。
という結末に変わるかもしれない。

でもそうしたら、鶴は自分の羽を抜き過ぎて
痩せ細ってしまったため、
増毛ならぬ増羽剤が
必要になってくるかもしれない。
または羽以外の原料の調達が
必要になってくるかもしれない。

…と、色々と調整(?)が必要になるため、
作者は鶴に去って行かせたのかもしれない。
…というか多分、約束を守らなかったから、
鶴とはお別れするしかなかった、
という教訓のためのお話だったのだろう。
子どもに質問されて、
とっさにそれが思いつかなかったほど、
私の中では当たり前の筋書きになっていた。

その質問をした子は当時6歳だったが、
現在は20歳を超えているはず。
印象的な子のことはよく覚えているが、
当時、彼の将来の夢は
「ウルトラマンになること」だった。
無事になれただろうか…?
と、ふと懐かしく思い出した。

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花咲ありす
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