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私のセカンドライフ②〜「働きたくない私」

群ようこさんのれんげ荘シリーズの主人公、キョウコさんは大手の有名企業を中途退職し「働かない生活」を選びます。収入ゼロのキョウコさんは自らを「貯金生活者」と呼んでいます。

 
今の私もまさにこの「貯金生活者」状態である。とにかく入ってくるお金が全くなく貯金が減る一方の生活はそれはもうとんでもなく心細いものだ。

しかも、嫌がらせのように私が退職した頃から世の中は、長く続いたデフレを脱してインフレへと移行し、値上げの嵐だ。

退職した年というのは、とんてもない金額の住民税や保険料を持っていかれて、それだけでもう涙目だ。その上、次々に電化製品は壊れる、いつの間にか驚くほどに老朽化していた自宅のリフォームが必要になる、スズメバチがやたら巣を作り駆除費用に何万もかかってしまう、等々。まさに泣きっ面に蜂。  

退職したら月に一度は観劇したい、ささやかでいい旅行に行きたい、カフェ巡りがしたい、あれこれ習い事も始めたい、と夢見ていたことは何一つかなわず。まあ、当時はコロナ禍でステイホーム推奨であったという事情もあったわけだが。それでもみるみるうちに減っていく貯金額。

 「こんなことにお金を使うためににがんばって働いた訳じゃない」と予期せぬ出費の嵐に涙する毎日。同じお金が減るにしても、楽しみに使うこととは全然違うわけで。贅沢さえしなければ何とかなるはずだった老後の生活設計にも赤信号が灯ってくる。 

れんげ荘シリーズのキョウコさんは、倒壊寸前のアパートであるボロボロのれんげ荘に住み、月10万円の節約生活をしている。しかし、キョウコさんほどの根性も信念もない私は、そこまでの耐久生活はできない。家賃込み月10万円での生活なんて不可能だ。

良識がある方々からは、働く気もないくせに甘ったれるな、と一喝されそうなのだが。40年近くもの長い間私なりに一生懸命働いてきたのだから。少しは自分を甘やかしてもいいじゃないかと思ってしまう。

もちろん決して贅沢な生活を望んでいるわけではない。ごくごく普通のそこそこの生活でいい。それでも、そこそこに楽しみながら、できればそこそこ快適に暮らしていきたい。それが私の望みだ。

働かないことを選んだことで働くことによる不安やストレスはきれいサッパリなくなったけれど。その代償は、お金や将来の不安としてもれなくついてくる。

将来が不安で、いったいいくらお金があれば私の老後は安泰なのだろうか、と自分を安心させるための情報を求めて、ついついネット検索を続けてしまう。

そこには、確かにあれこれ対策やアドバイスは書いてはいるのだけれど。結局結論は「老後の不安を払拭するには、定年後もできるだけ長く働きましょう」ということ。いや、だから。働きたくないって言ってるじゃん! とその度に新たな怒りがこみ上げてくる。

「今まで一生懸命働いてきたのだから。そんなに心配しなくても、今後無理して働かなくても大丈夫ですよ」と心に寄り添ってくれる情報はないものだろうか。億単位の貯えや現役世代並みの年金を受け取れる稀有な人たち以外、安泰な老後というものは存在しないのか。

途中下車もしたけれど、曲がりなりにも定年までボロボロになるまで働いたのに。その後働かないという選択が、こんなにも特殊だということにどうしても納得いかない私だった。

確かに今の私の「悲しいほどに貯金は減っていくけれど、働かなくても何とか暮らしていける」という状況はたぶん幸せことなのだと思う。働きたくなくても働かざるをえない方も世の中にはたくさんいるのだから。

逆に、それほど働く必要はなくても、自分の意志で「働く」を選択している方も当然存在するわけで。そのような方が「働く」選択をすることはそれはそれで素晴らしいことだと思う。

けれども、それと同じように「働かない」選択も冷たい目で見ずに、ごく普通に当たり前のこととして尊重してもらいたい。勤労と納税は国民の三大義務ではあるけれど。40年近く働いてもその義務は果たされていないのか。まだまだ足りないないということなのか。

そもそも人生が100年もあるかもしれない、ということが諸悪の根源だと思うのだ。人生が80代で終わるのであれば、なんとかなるのではないか。そうなれば過剰な心配などせずに、今を心穏やかに過ごすことができるのに。 

 「人生100年時代」という無責任なフレーズに私はいつしか憎しみにも似た感情を抱いてしまうようになっている。あれは、一種の脅し文句だと思う。まあ私みたいな根性なしが100歳まで生きることなんてありえないとは思っているが。

ただ、働く厳しさをとことん味わってきた者として、働かない日々、働いている世の中全ての方々にはリスペクトしかない。働いている皆さんのおかけで、私は今日も当たり前の生活をすることができている。 

今日も私は世の中の働いている方々に感謝しながら、働かない日々を過ごしている。働かない不安と日々戦いながら。

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