フィールドセールスは「課題」で売る。カスタマーセールスは「成果」で売る。
SaaS企業において、営業戦略は非常に重要です。
近年、『カスタマーセールス』が流行ってきていてExpansion MRRをメインKPIにしてExpansionに責任を持つ部隊が多くなってきました。
フィールドセールスとカスタマーセールスの2つの異なるアプローチは、多くの企業が直面する課題です。
このnoteでは、これら2つの営業手法の違い、それぞれの特徴、そして自社のサービスにどちらが適しているかについて深く掘り下げていきます。
1. フィールドセールスとカスタマーセールスの売り方の違い
フィールドセールスとカスタマーセールスは、同じ「セールス」という言葉を使っていますが、その実態は大きく異なります。
私自身、カスタマーセールスの経験を持つ者として、「とにかく難しい」というのが率直な感想です。
特に、新規向けの営業とは全く異なるアプローチが必要となります。
わかったのは、
■ フィールドセールスは、「課題」で売る。
■ カスタマーセールスは、「成果」で売る。
ということです。
■ フィールドセールス:「課題」で売る
フィールドセールスの本質は、顧客の「課題」に焦点を当てることです。
具体的には以下のようなアプローチを取ります:
顧客の抱える課題を明確に提示する
その課題にフィットする顧客層を特定する
「このサービスを使えば、その課題が解決します」というメッセージを伝える
このアプローチは、世界観やビジョンセリングに近いものがあります。
細かい機能や使用方法よりも、大枠の概念や将来的な価値を提示することが重要です。
もちろん、契約時までには細かい確認も行いますが、基本的にはふんわりとした印象を与えることが多いです。
これは決して悪いことではありません。
むしろ、そうあるべきだと言えます。
なぜなら、導入前に機能要件や細かい使い方について圧倒的な議論をしても、実際に使ってみなければわからないことが多いからです。
顧客も細かい点までは求めていないことが多く、あまり深入りすると際限がなくなってしまいます。
■ カスタマーセールス:「成果」で売る
一方、カスタマーセールスは、導入後の「成果」に重点を置きます。
主な特徴は以下の通りです:
導入後の具体的な成果を基にアップセルやクロスセルを提案する
数値的かつシビアな成果が求められることが多い
「適切なタイミング」を見極めることが非常に難しい
カスタマーセールスでは、「効果が出たら...」という基準が非常に曖昧で難しい課題となります。
また、CS(カスタマーサクセス)側での売上拡大は、フィールドセールスに比べて各論的になるため、顧客側の目が受注時よりも厳しくなる傾向があります。
さらに、追加の稟議を上げることは顧客側にとっても楽しいことではないため、なかなかスムーズにいかないことが多いです。
2. あなたのサービスでは、どちらが簡単か
自社のサービス特性によって、フィールドセールスとカスタマーセールスのどちらが効果的かが変わってきます。
ここで考えるべき重要な点は、以下の2つです:
① フィールドセールス段階で大きな見積もりを出し、MRRを積むことが可能か
② スモールスタートで始まり、時間経過とともにMRRが増えていく形が基本か
例えば、私の会社では利用量課金制を採用しているため、フィールドセールス時点である程度の最大単価の見積もりが可能です。
これにより、新規MRRとして大きく積み上げることができます。
逆に、スモールスタートで始めた場合、最大単価に到達するまでの時間やスピードが顧客ごとに異なるため、最初の時点で最大分での契約をいただき、それに合わせた導入支援をする方が顧客側にもスピードを含めたメリットがあります。
一方、アカウント単位課金のような体系では、初期から高単価での契約は難しいため、Expansion MRRへの投資を重視すべきでしょう。
もしフィールドセールス時点で高単価での獲得が可能であれば、そちらが最も簡単な方法と言えます。
つまり、カスタマーセールス的視点からは矛盾に感じられるかもしれませんが、Expansion MRRの優先度を下げ、新規MRRでどこまで高単価を取れるかということに投資していくという選択肢もあるのです。
この戦略には以下のような効果が期待できます:
ARPA・ARPUの向上
LTVの向上
キャッシュインの早期化
カスタマーセールスのExpansion活動への工数削減
3. カスタマーセールスの「セールス」は形だけか!
「カスタマーセールス」という言葉が一人歩きしている感があります。
しかし、ここで重要なのは、あくまでも「セールス」であるという点です。
「既存顧客に営業活動をする」というイメージは理解できますが、現場レベルでは、どのようなKPIを追っていくかが非常に重要になります。
私の考えでは、「セールス」と名がつく以上、MRRに責任を持つべきです。
ここで注意したいのは、Expansion MRRだけでなく、MRR全体を指すということです。
つまり、新規MRRも含まれています。
「カスタマーサクセスから生まれたから、既存顧客に対する施策を...」というような考え方は、正直なところ、事業への全体視野が圧倒的に不足しています。
※ THE MODELのデメリットを体現してしまっています。
まずは、MRR全体をフィールドセールスと一緒に追っていくことで、新たな視点や戦略が見えてくるはずです。
この考え方が、先ほどの「あなたのサービスでは、どちらが簡単か」という問いにつながります。
自社のサービス特性や市場環境を深く理解し、最適な戦略を選択することが重要です。
4. THE MODELに囚われるな、自分たちのかたちを見つけろ。
多くの企業が、いわゆる「THE MODEL」と呼ばれる一般的なSaaSビジネスモデルに囚われすぎている傾向があります。
特に、カスタマーセールスが「既存顧客向け」の役割という固定観念が根強く残っています。
しかし、これからのSaaS企業は、それぞれの事業に最適な組織を模索し、独自のモデルを構築していく必要があります。
日本の特徴として、SLG戦略が基本となることが多いため、世界の中でも特殊な事例が生まれる可能性が高いです。
アメリカのモデルを学ぶだけでなく、日本がSLG戦略の代表国となる可能性も十分にあります。
結論として、フィールドセールスとカスタマーセールスの最適なバランスは、各企業のサービス特性や市場環境によって大きく異なります。
重要なのは、
既存のモデルに囚われず、自社の強みを最大限に活かせる独自の営業戦略を構築すること
です。
そのためには、自社のサービス特性やプライシング、市場などを理解し、最適な営業活動方法を考える必要があります。
それに伴い、投資するべきところを決めて、柔軟に戦略を調整していく姿勢が不可欠です。
こちらのnoteをみていただくと、解像度が上がるかと思います。
日本のSaaS企業が世界で競争力を持つためには、このような独自のアプローチを積極的に発信し、共有していくことが重要です。
皆さんも、自社の経験や知見を積極的に発信し、日本のSaaS業界全体の発展に貢献していきましょう。
それでは、また。