「生きててくれてありがとう」の答え合わせ
「生きててくれてありがとう...」
俺と付き合う時に言った彼女の言葉。
もう直ぐ、この言葉を聞いて二年が経とうとしている。
でも、その真意よく分かっていなかったし、その言葉の裏にデリケートな過去が潜んでいる気がして、ずっと聞けないでいた。
ただ、俺と付き合うことを決めた時に言ってた、過去との決別。
ぼんやりとだが、過去の恋愛の中でその思い出を超えられないような感じのことは言っていた。
余り、自分の過去のことは話さない彼女。
ただ、何となく大きな出来事があった気はしていた。
数ヶ月前のことだが、俺が偶々余り行かない地域で営業をしていてランチ時に食べる時に困って見つけた1軒の立派な料理屋。
ランチ時はリーズナブルだったので入ると、そこの女将さんが撮っても素敵な方で、気さくに話し掛けてくれて、料理も拘りがあって、女将さん自家製のイカの塩辛が絶品で昼の僅かなひと時を楽しく過ごさせて貰った。
そこの料理屋の大きな窓から見える大きなダムの景色も料理に華を添えていた。
家に帰って、その話をして
「今度一緒に行こう!」
と言ったが、浮かない顔で
「私は止めておく...」
と言った。
珍しく、浮かない表情だったので余り深堀はせず、
「そっか…」
と話をすり替えた。
そして、それからまた数ヶ月経ったときのこと。
「前にダムの近くのお店の話してたよね?」
「ああ...」
「私は行けないって言ったやん?」
「うん」
「昔ね、付き合っていた人がダムで子供を助けようと飛び込んで亡くなったの...」
どうリアクションしていいか分からず、暫く黙っていた。
「ごめんね。だから、行けないの...」
この話を聞いて、答え合わせが出来てしまった。
その彼がどのタイミングで付き合っていた人かは分からないが、彼女の中で”超えられない過去”がこれだったんだと分かった瞬間だった。
彼女もまた、過去に捕らわれた人だと気付かされた。
「ズルいよね…先に逝っちゃうんだもん...」
その過去を消すために俺と付き合い始め、生活を共にしてきた。
きっと、色んな想いもあるのだろうが、俺にそれが受け止められるのだろうか?
でも、人間半世紀も生きてくりゃ、色々あるわな…
余り深く考えないようにはしていたが、結局俺も色んなことが抱えきれなかったのか?
この間の大喧嘩は何か色んなことをひっくるめての俺の中の何かが弾けた結果だったかもしれない。
でもさ…
先の事なんて分からないけど…
いまを生きている者として、その義務は果たさなきゃ…
とは、思っている。
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