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しゅうとの庭のものがたり

窓のからみえる小さな庭の植え込みになにやら鳥がひんぱんに出入りしているのに気づいたのは、梅雨入りが遅れた年の6月下旬のことだった。すずめよりは大きく鳩よりは小さい。調べてみるとひよどりだった。しばらくすると、ひよどりはその植え込みの奥から隙間をつうじて嘴と目玉をのぞかせてじっと動かない。どうやら巣をつくって卵を抱いているようだ。庭の持ち主であるしゅうとに報告すると、かつてこの庭には、シジュウカラとキジバトが巣をつくった実績があるという。

シジュウカラは、ほら、あそこに陶器の椅子があるだろう、あの椅子には傍に運ぶための手差しの隙間があいていて、そこから入って巣作りしてたんだよ。何気なく椅子を動かしたら、地面に巣があってヒナがいた。そっと椅子を元にもどしたよ。キジバトはそっちの木の上の方に巣をつくってた。キジバトの巣はいい加減なつくりだったなあ。でもいつのまにかキジバトは巣を捨ててどこかに消えてしまったよ。

しゅうとの庭は小さいながらもいろいろな雑木が所狭しと配置されている。無造作な武蔵野の森のイメージが好きなのだという。それでも半年に一回は植木屋さんに手入れをしてもらわなければならず、つい先日、しゅうとは予約を入れたばかりだった。困ったな、その植え込みだけ数週間後回しにしてもらうよう植木屋さんに交渉することができるだろうか?ひよどりはかあさんが好きだった花の蕾や木の実などをちょんと嘴でつまんで、どんどん落としてしまうから憎たらしいんだけれども、ヒナが巣立つまではそっとしておいてあげないとな。こんな薄っぺらい庭でも来てくれたんだから。

戦前、このあたりには本物の武蔵野の森が分厚く広がっていた。ひよどりもしじゅうからもキジバトも巣を作る場所には事欠かなかっただろう。幼かったしゅうとは日が暮れるまできょうだいや友だちといっしょにやわらかな土を踏んで森の中を冒険した。

いま、東京は明治神宮外苑の木立を保存するかしないかが争点になる都知事選の只中である。何を残して何を残さないのか。しゅうとの観察では、シジュウカラのヒナの巣立ちのあと、椅子をうごしてみるとそこにはチリ一つ落ちていなかったそうだ。




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