ひの えうま

会社員生活歴34年、会社役員生活歴1年、共働き生活歴35年、子育て生活歴27年、遠近両…

ひの えうま

会社員生活歴34年、会社役員生活歴1年、共働き生活歴35年、子育て生活歴27年、遠近両用メガネ使用歴6年

最近の記事

9.11のものがたり

2001年9月11日の夜のテレビは、どのチャンネルを回しても、ニューヨークの世界貿易センタービルがジャンボ旅客機に突っ込まれ無惨に崩れ落ちるというハリウッド映画のような衝撃シーンばかりを繰り返し放映していた。そうこうしているうちに『世界の警察』の中枢、ペンタゴンも襲われた。無秩序が秩序をあっさりと呑み込むということがリアルタイムでまさに目の前で展開された衝撃的な夜。多くの民間人が巻き込まれて亡くなった。何が起きてもおかしくない世の中になってしまった。現に、その後、当時わたしが

    • 乱気流のものがたり

      ここ数日、日本や米国の株式市場が過去最高の幅の値動きとやらでトップニュースとなっている。今年の初めから政府による新政策NISAが始まって個人投資家も増えたところを直撃したはじめての乱気流パニック。さがったり、あがったり。乱気流にのまれた小さな存在が姿勢を保つことは難しい。なにかおもりとなるものが必要だ。 ひとつ年下の妹は、生まれながらの器量よしであった。長いまつ毛に大きな瞳、華奢な骨格で色白、おとなしく家事全般が得意な彼女は良縁にめぐまれ穏やかで静かな専業主婦となってりっぱ

      • アイスクリームのものがたり

        年子で生まれた、ひとつ下の妹は、祖父の秘蔵っ子だった。まるでお人形さんみたいね、とだれからも褒められる顔立ちで鈴を振るように歌うことのできる妹は祖父の自慢のタネであり、かなりの引っ込み思案でおとなしすぎるということだけが玉に瑕だった。しかし、夏が近づくと、普段はあまり主張しない妹の、長いまつげに縁取られた大きな瞳がきらめく。そして、それは姉の私にもかなり大きな利益をもたらした。 おじいちゃん、アイスほしい。祖父は妹の発するその呪文に逆らうことはできない。呪文のたびにアイスク

        • 新盆のものがたり

          幼い頃は、毎年決まって7月20日前後に夏休みに入り、宿題の存在を忘れ怠け気分がグッと高まった8月中旬にお盆というものがやってきて、母の実家のある北関東の田舎へと父の運転する車でドライブがてらに出かけるのが常だった。山あいの広々とした日本家屋の中央には大きな客間があって、お盆の時期にはその座敷を盆棚という数段の木組が占領する。盆棚には、先祖代々の位牌やら写真やら果物や野菜、お菓子、そうめん、お団子、野の花々、お線香とおリンやらが所狭しと並べられ、その脇には美しい風景や草花などが

        9.11のものがたり

          しゅうとの庭のものがたり

          窓のからみえる小さな庭の植え込みになにやら鳥がひんぱんに出入りしているのに気づいたのは、梅雨入りが遅れた年の6月下旬のことだった。すずめよりは大きく鳩よりは小さい。調べてみるとひよどりだった。しばらくすると、ひよどりはその植え込みの奥から隙間をつうじて嘴と目玉をのぞかせてじっと動かない。どうやら巣をつくって卵を抱いているようだ。庭の持ち主であるしゅうとに報告すると、かつてこの庭には、シジュウカラとキジバトが巣をつくった実績があるという。 シジュウカラは、ほら、あそこに陶器の

          しゅうとの庭のものがたり

          四姉妹のものがたり

          週末の夜、私のスマホに電話がかかってきた。北関東の観光地で大きな土産物屋をいとなむ叔母からであった。夜10時にはそぐわないくらい明るくくっきりした叔母の声は83歳には思えない若々しさ。ここのところ急に音声がくぐもるようになった二つ歳上の母とは対照的だった。人前で現役ではたらくということがこの差をうむものなのかもしれない。 私の義理の甥が小学校の修学旅行でその店のやっかいになった。気前のよい叔母は店の人気商品をいくつか勝手に彼の買い物袋にしのばせたらしい。 きのう、Mくんの

          四姉妹のものがたり

          黒留袖の紋のものがたり

          結婚式では、花嫁と花婿はたいそう豪華で美しい衣装をまとう。そして花嫁と花婿の両親も最高の礼装で臨むことを期待されている。先週、息子の結婚式があり、私は亡きしゅうとめの黒留袖を借りて着た。 黒留袖は、両胸元に一つずつ、背中に一つ、両袖に一つずつ、紋といわれる白い模様が染め抜かれている。昭和の時代までは、嫁入り道具として実家筋の家紋を付けた黒留袖を持参するのが通例だった。 しゅうとめも嫁入りのときに若々しい柄の黒留袖を持参した。しかし、彼女は自分の長男と私の結婚が決まったとき

          黒留袖の紋のものがたり

          はじめまして

          家族のものがたりを忘れないうちに記しておこう。百年後の、わたしの孫娘の娘や孫息子の息子が、夢中になって読んでくれるような、ささやかな百年前のものがたりは、今、書いておかなければ消えてしまうから。