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絵も文字も消えた絵本。
降りしきる雨の中、電線の上に止まっている3羽の鳥。
雨の日にただ留まったまま、その場を動かない鳥をあまり見たことがない気がしたから不思議に思ってずっと見てた…。
羽を休めている訳でもなく、羽を半開きにして横並びでじーっとしてる。テレビの天気予報では「今年は全国的に異例の早さで梅雨入りしていき、長梅雨か。」と流れていたけど、 まるでその梅雨入りを喜び、雨を浴びたくてその場にいるみたいに、時折空を見上げては全身で雨を受けていた。
その真下では車を使い、傘を使い、カッパを使い、数多の方法で雨から遠ざかろうとしてる人達。
勿論私もその中の一人だった…。出来れば雨に濡れたくない、だから傘をさす。
傘を打つ雨音が次第に強くなることで、雨脚が次第に強くなり始めたことがわかった。でも鳥たちは全く気にせず、ただ電線の上からなにかを見たり毛繕いをしている。
どんな気持ちで私達を見ているんだろう?とふと思った…。
もしかしたら逆に「こんなに気持ちいいのに人間はなんで雨を避けるんだろう?」と不思議がっていたりするのかな。なんて変なことを考えてる自分がちょっと可笑しくなった…。
でも、思い返してみれば子供の頃は傘も差さずによく遊んでたっけと朧気ながら小さな記憶が映像としてほんわり浮かび上がってくる。
まだ小学生の頃、住宅地の真ん中に位置していた私の通っていた学校は昼休みになると、子供たちが校庭で遊ぶことにより砂ぼこりが舞い散ると近隣の方からクレームが多数あり、ある時から校庭の地面は芝生へと張り替えられた。
子供だった私達にとって、地面が芝生に変わったところで大した変化はなかった。遊べたらなんでも良かった。
でも雨の日だけは違った。今までは雨が降れば地面はぬかるみ、どろどろになりたくないから学校が終われば真っ直ぐ家に帰っていたけど、芝生に変わったことで汚れることが少なくなりシャワーを浴びてるみたいで気持ちくて、雨の日はみんなでよく寝転んで遊んでたことを覚えてる。
あの頃は傘もささずに、全身で雨を受けて喜んでた。今日みた鳥たちみたいに…。
いつからか水溜まりをみても、心がときめかなくなった。
いつからか少しだけなら濡れてもいいかと思っていても、周りの目や変な羞恥心、大人ならではの常識が頭にこびりついて、子供の頃みたいに雨粒一つ一つが頬を伝う喜びを感じれなくなった。
人は生き物だから老いて成長していく。
子供から大人にはなれるけど、大人から子供には戻れない。
身体だけじゃなくて心も老いて成長していくんだと、そんな当たり前のことを今日再確認した気がする…。
もっと時を遡れば、まだ目にするもの触れるもの全てが新鮮でほんとに小さかった時。
父や母に読み聞かせてもらった絵本は、絵も刻まれた文字でさえ、私にとってはきらびやかな世界で、父や母の声と共に想像力を掻き立て、本のページがめくられる度に胸を踊らせていたはず。
だけど大人になった今、その世界を覗きこんでみたとして、当時とは全く別物の世界が広がっているんだと思う。
きっとそこはもう、きらびやかな世界ではなく色褪せ絵も文字も消えた空虚な世界。
そのままでは寂しいから自分の感性が働いて、いろんな世界を創造しようとはするだろうけど、子供の頃にみた世界はたぶん2度と作れない。
そこには今まで得た知識や経験、社会の礼儀や大人ならではの感性が働くから。目でみたものや耳にしたこと、人との会話の弾ませ方や、家族の大切さ、人と触れあう素晴らしさ、大人になってから知ったコーヒーの苦味や旨味、今では飲まなくなったけどお酒の美味しさ、など小さなものから大きなものまで全てが自分の感性として織り込まれて投影されてる。
無い物ねだりなんだとは思う。見えなくなったものを必死に見ようとしたところで、何も見えない…。
でも無くなったものを無くなったことすら気付かずに過ごすよりは、屈託のない輝かしい目で見ていた時はどんな風に見えてたんだろうと考えた方が、モノクロの世界がよりクリアに見えるような気がする。
頬を伝う雨粒、部屋のカーテンから射し込む陽の光、澄んだ空に浮かぶ不揃いの雲、木々を揺らすそよ風、そして波打った葉が無数の鳥が羽ばたいてる様な影を作りだす瞬間などこんなにも素晴らしい景色に包まれた世界を、社会に飲まれ曇りかけた目でも出来るだけ綺麗にずっと見ていたい。
***
いつもみたいにベランダに腰掛けながら、この記事を書き始めそろそろ書き終えようと思って立ち上がると、跳ね返った雨で思ってたより濡れてた…。
少しだけあの頃に戻ったみたいだと思った。
では今回はこの辺で終わりたいと思います。 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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