花相の読書紀行№.117『黛家の兄弟』
よき政とは、誰も死なずにすむこと
【薫家の兄弟】/砂原 浩太朗
<あらすじ>
第35回山本周五郎賞受賞作!
第165回直木賞、第34回山本周五郎賞候補『高瀬庄左衛門御留書』の砂原浩太朗が描く、陥穽あり、乱刃あり、青春ありの躍動感溢れる時代小説。
道は違えど、思いはひとつ。
政争の嵐の中、三兄弟の絆が試される。
『高瀬庄左衛門御留書』の泰然たる感動から一転、今度は17歳の武士が主人公。
神山藩で代々筆頭家老の黛家。三男の新三郎は、兄たちとは付かず離れず、道場仲間の圭蔵と穏やかな青春の日々を過ごしている。しかし人生の転機を迎え、大目付を務める黒沢家に婿入りし、政務を学び始めていた。そんな中、黛家の未来を揺るがす大事件が起こる。その理不尽な顛末に、三兄弟は翻弄されていく
令和の時代小説の新潮流「神山藩シリーズ」第二弾!
~「神山藩シリーズ」とは~
架空の藩「神山藩」を舞台とした砂原浩太朗の時代小説シリーズ。それぞれ主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。
★感想
神山藩シリーズの第2弾。
今回は、1作目の「高瀬庄左衛門御留書」より前の物語。
筆頭家老の家に生まれた三兄弟の三男、主人公の“新三郎”が、若侍から強靭な大目付へと成長していく姿が描かれています。
長き太平の世の江戸幕府、その治世には大小の藩があり、そこで起こる魑魅魍魎の権力争いは、将軍家“徳川”だけではなく、きっとどこの藩にも起こっていたのでしょう。
その権力争いに巻き込まれ、理不尽に命を奪われる人々。
ラストの部分で、長兄の“清左衛門”が
「よき政とは、なんだと思う」との問いかけに
「誰も死なずにすむ、ということでござろう」と即座に返した“黒部正”の想いが痛いほどわかります。
誰も死なない政・・・。
今、私が生きるこの世でも、政の最中で命を落とす人のいることが、何より悲しい。
江戸幕府の終わり、無血開城を成し遂げたことは、本当に凄い事だったと思います。