小田雅久仁 残月記
先日の黒牢城に続いて、2022年本屋大賞候補作。月に関する三つのディストピア小説。いずれも主人公が、この世の中を離れてしまって月に関する別世界に迷い込むというところが共通項。
一つ目は「そして月が振り返る」 ファミレスで、じぶんの家族と一緒に座ったはずなのに妻から「その席、うちの主人が座っているんですけど」と言われたらどうなるのだろう。
二つ目は「月景石」。この著者の特徴は匂いに敏感なことかもしれない。あと、文章はどちらかというと長い。好きな文はこんなの。
ときおりベッドの上で私の頬に触れながら「この顔が好きだ」とまっすぐに言ってくれるのだけれど、その度に湧き上がってくるのは喜びではなく、不安である。そう思われたいと思っていても、言葉にされたとたんに、“この顔”が誰のものでもありえた、たまたま拾っただけのもののような気持ちになるのだ。
最後は「残月機」
残月というニックネームを持つ、剣闘士の話である。ハンセン氏病を想起させる病と人狼が合体したような人たちの暗い世界・・・における愛の話。
どのお話も最後には「救い」らしきものはあるのですが、それでも救われない部分が多いなあ。賛否は分かれるでしょうね。