イタリア式フレスコ画の作り方
イタリア式壁画の伝統的テクニック・フレスコ画の作り方を知りたいですか?
ここでは、トスカーナ州プラート市にあるフレスコ学校“Laboratorio D’Affresco Tontori”で習得した方法をご説明します
壁画と呼ばれるものには実は大きく分けて
作り方が二つあります
セッコと真正フレスコです
偽フレスコまたはフレスコ・セッコ
壁面が乾いた状態で描くことを偽フレスコとかフレスコ・セッコ(乾いたという意味)と呼びます
単純に「壁画=ムラーレス」と呼ばれることもあります
乾いた壁にアクリル絵の具やペンキ・油絵具など、固着剤入りの絵の具を使用して描きます。
いわゆる現代の「普通の」壁画というイメージでしょうか
真正フレスコまたはブオン・フレスコ
イタリア語でブオンは良いという意味
こちらは壁材のモルタルを塗ったあと、乾かないうちに、鉱物由来(ミネラル系)の粉末顔料を水溶きしたもので描画します
アルカリ耐性のないオーガニック系(植物由来・動物由来)の絵の具は、あとで変色することがあるため使いません
ブオン・フレスコを作る場合は、壁材の性質がとても重要で、石灰と砂を混ぜたモルタル壁でなければいけません(一般的なセメントではないのでご注意ください)
ヨーロッパのほかの地域ではスサなどを加える技法もありますが、トスカーナでは石灰クリームと川砂(または湖の砂)だけを混ぜたモルタルを使用します
ブオン・フレスコの作り方
ではいよいよ壁画の王者、真正フレスコの作り方をできるだけ簡略に説明しています。
1壁を塗る
クリーム状になった石灰と砂をよく混ぜたモルタルをコテで壁に1日に描ける範囲だけ塗ります
大画面で時間がかかりそうな場合は翌日塗り接いでいきます
(イタリアではクリーム状になった石灰が一般的です。日本では粉を水に良く溶きしばらく寝かせてからの使用をおすすめします)
2下書きを転写
塗った壁がすこし締まってきたら、下書きを転写します
転写の方法は複数あり、よく利用するのはスポルヴェロ法とインチジオーネ法です
2-1スポルヴェロ法
紙に転写用の実物大下書きを用意し、主要なラインに針で穴を開けておき、粉状の顔料を紙の上からはたいていく方法です。顔料はヴェルダッチョ(緑色の土性顔料)や、作品の仕上がりに邪魔にならない色のものを使用します
2-2インチジオーネ法
壁にかぶせた下書きの紙のうえからラインを鉛筆などでなぞり跡をつける方法です
3描画
水溶き絵の具で描画します
壁に絵の具が吸い込まれていくような時間帯がありモメント・ドーロ(黄金のとき)と呼ばれています。周囲の気温にもよりますが、壁を塗ってから大体2時間後から7時間後くらいまでが描画に適している時間帯です
4仕上がり
こうして描いたフレスコ画は、完全に乾くのに半年から1年かかるといわれています
描き終わったばかりはまだぬれている状態で、乾くと色の明るさが格段に増すことを計算して描きあげることが大切です
5経年劣化しにくいブオン・フレスコ
固着材がはいっていない水溶き絵の具でありながら、乾いた後も何百年も色が変わらないのは、石灰の製造過程において起こる酸化と、描画から乾燥中に起こる還元という、化学的な反応が関わっており、描画した壁の表面に薄くできるクリスタルの層が顔料を閉じ込めているからです
このように経年劣化しにくい技法なので、古代から重用され、ポンペイ遺跡やイタリアの古い教会の壁に直接描かれているものはだいたいブオン・フレスコです
イタリア壁画事情
1999年前後にTintoriフレスコ学校で共に学んだ仲間たちのうち複数は壁画修復・壁画装飾を生業とするようになりました
かく言う私も、同業者の一員となり20年余り活動して来ました
中でも、17世紀に建造されと思しき、フィレンツェのとある貴族の邸宅内の天井画修復は思い出深いものですが、その宮殿の数室は現在B&Bとなっており、旅行者の休息を楽しいものとしているはずです
温故知新
古いからと、建て替えられたり捨て去られるのではなく、修復・保善し価値を次代に伝えることの大切さを、改めて心に留めておきたいと思います