映画日記『川っぺりムコリッタ』
週一で映画館に足を運ぶ新習慣の第10弾。今回は、映画『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは、』やドラマ『珈琲いかがでしょう』の荻上直子監督が、自身の長編小説を原作に、自ら脚本・監督を務めた『川っぺりムコリッタ』。
北陸の小さな塩辛工場で働き口を見つけた山田(松山ケンイチさん)は、古い安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。できるだけ人と関わることなく生きたいと思っていた山田でしたが、隣の部屋の島田(ムロツヨシさん)が「風呂を貸してほしい」とを訪ねてきたことから一変。
以下、ネタバレにご注意ください。
大まかにいえば、罪を犯して出所し、心閉ざし、他者との間に壁を作った青年が、周囲との関わりの中で再生するお話。そこに、人間の生と死が色濃く出てくるところが『かもめ食堂』と違う所かな。むろん、美味しそうな食事シーンやユーモアは健在。
松山ケンイチさんは天才系の名優なので、その上手さは言うまでもないですが、ご飯を食べるシーンが秀逸。ムロさんも厚かましい隣人役がはまり役(笑)。そして、大家で夫を亡くしたシングルマザー役の満島ひかりさんの輝き。「性」と「死」の近似性を感じさせる「あるシーン」もいい。
何度か紹介している大好きな映画『阪急電車 片道15分の奇跡』のセリフをちょっと思い出すような映画でした。重い過去を他人に告白できる人もいれば、躊躇する人も当然いて。
「人はそれぞれ皆、色んなやりきれない気持ちを抱えて生きている。どうにもならない想いを抱えて生きている。そして、その気持ちは誰にも言えないのだ…」
人に容易には打ち明けられない過去を抱えていても、日々の生活で一杯いっぱいでもでも、日常の中になにかしら「小さな幸せ」を見つけられれば、案外人生は楽しいもので、どんな人間にもそれを享受する権利がある…そんな終盤の松山さんと満島さんのシーンに救われました。
お金をかけた大作映画ではもちろんないですし、ヒーローや悪役が登場するわけでもない。起承転結が明確でスッキリ、という作品でもなく。でも、人生ってそういうものだよね、と思わせてくれる独特の世界観に、たまには浸ってみるのもいいものです。