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一足早いですが…『虎に翼』総括

残り7話となった朝ドラ『虎に翼』。最終回前ではありますが、秋ドラマが始まると忙しいので、ここまでの総括をしておきたいと思います。

序盤から主人公・寅子を演じる伊藤沙莉さんの演技も好評で、明律大学女子部のシスターフッドな展開も人気を集め、戦後に夫・優三(仲野太賀さん)の死を知り、どん底状態だった寅子が、新聞に掲載された新憲法第14条を目にする第9週までは「傑作(の予感)」と絶賛する声も多かったものです。

寅子が民事局民法調査室で働き始めた頃からその兆しはありましたが、朝ドラにありがちな「中だるみ」が強く感じられたのが第15週。寅子が米国視察を終え、ラジオ番組に出演するなど有名人になるものの、家族との溝が深まったあたり。寅子のキャラから魅力が失せ、逆に轟(戸塚純貴さん)やよね(土居志央梨さん)が人気に。

寅子の不人気ぶりに拍車をかけたのは、第14週における恩師である穂高(小林薫さん)への花束贈呈拒否事件と、第19週で「永遠を誓わない、だらしのない愛」なパートナーとなる航一(岡田将生さん)との不釣り合いぶりでしょうか。

轟が寅子に、恋人の遠藤(和田正人さん)を紹介し、カミングアウトした第20週に入ると、ネット記事でも「賛否」や「違和感」といった文字が目立つようになり、また複数のテーマを同時進行させる手腕を称える声がある一方、「詰め込み過ぎ」という意見も少なくありませんでした。

ここでちょっと寄り道。長い歴史を持つ朝ドラには、固定的な視聴者も多く、独自の伝統や文化があり。例えば、「朝ドラクラスタ(=クラスター)」という言い方があります。「クラスタ」は「同種のものや人の集まり」を指しますから、朝ドラ好きの集まりという意味でしょうか。

X(旧Twitter)を検索すると、2009年に初出例がみつかりました。また作品名・登場人物ごとに「あまちゃんクラスタ」とか「水口クラスタ」という使い方もあり、同好の士の連携を示したり、ファンとしての熱量をアピールしたり、逆にアンチからは皮肉の意味で使われたりもしているようです。

Xには、朝ドラや大河ドラマのファンアート(応援イラスト、二次創作)が「#○○絵」と投稿される文化があることは以前にも書きました。また近年では、朝ドラへ批判的な「#○○反省会」も定番となっています。

この「#○○反省会」を遡って調べたところ、2015年放送の『まれ』が始まりのようです。「朝ドラクラスタ」の方が酷評することが多いこの作品。個人的には横浜編までは悪くなかったと思いますが、後半に大迷走しましたね。

脚本を書いた篠﨑絵里子さんですが、今年の春ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』は絶賛されました。やっぱり、朝ドラという特殊なスタイルは、実力のある脚本家でも難しいんでしょうね。

「#○○反省会」が特に盛り上がったのが、2018年『半分、青い。』の「#半分青い反省会」と、2022年『ちむどんどん』の「#ちむどんどん反省会」でしょう。

特に『半分、青い。』の時には、脚本家の北川悦吏子さんが度々、Xに投稿。自画自賛の「神回」予告を連発し、火に油を注いでいたことを思い出します。1990年代から2000年代にかけて、数々の名作ドラマで楽しませてもらったので、北川先生、投稿止めておけばいいのになあ、と思っていました。

さて、本題に戻りますが、脚本家の中には北川さんのように、XなどのSNSを使って積極的に情報発信する人もいれば、全く出さない人もいて。本作の脚本家・吉田恵里香さんは前者で、作品の補足説明や関係者リポストなど頻繁に行っています。代表例を挙げておきます。

連続ドラマの脚本は、一般的には脚本家とプロデューサーの共同作業であり、本作においても制作統括の尾崎裕和さんが、『恋せぬふたり』で一緒だった吉田さんを指名し、プロデューサーの石澤かおるさんも加えて、企画段階から作ってきたと述べているので、NHK制作側の意図と吉田さんの意見がミックスされた作品と言えるでしょう。

序盤から、「画期的」と評されることも多かった『虎に翼』。生理や認知症のリアル描写(演技)や、関東大震災における朝鮮人虐殺・総力戦研究所・原爆裁判・尊属殺人の重罰規定を巡る裁判など、朝ドラで取り上げたことは、たしかに「画期的」で意義あることだったと思います。

その一方で、「理念」あるいは「メッセージ性」が先行して、物語としての「面白身」に欠けた回が少なくなかった中盤以降の「失速」は、否定できないところ。あらためて考えてみるに、裁判官を主人公に設定した時点で、朝ドラという長丁場の物語には無理があったのではないかなと。

弁護士が主人公のドラマは無数にありますが、裁判官ものはわずか。竹野内豊さん主演の『イチケイのカラス』はヒットしましたが、あれは主人公が「職権発動」して、裁判所の外での活躍があればこそであり。実際の裁判官はしないでしょうし、今までのところ寅子が裁判で活躍したシーンはほとんどなく(伊藤さんがさんが表情で見せたり、裏で動いた例はあり)。

むろん、そこは当然、制作側も考えていて、メインキャストに明律大女子部のメンバーや花江など、さまざまなタイプと背景を持ったキャラクターを配置し、それぞれのエピソードで飽きさせない工夫は見られました。

とはいえ、やはり常識的に描かれる裁判官は「画」的に地味。どんなに弱者に寄り添っていても、裁判官になってからの寅子は、「絶対安全地帯」にいる「権力者側」の人間って感じがしてしまうんですよね。

では結論。前半までは「傑作」になりかけた画期的なドラマではあったものの、朝ドラ「あるある」の中だるみに陥り、惜しかった「佳作」というのが、現時点での自分の評価です(最終回時点で変わるかも知れません)。まあ、最後まで楽しみます。出演者・スタッフの皆さん、お疲れさまでした。

さて、9月30日からは橋本環奈さん主演の朝ドラ『おむすび』がスタートします。脚本の根本ノンジさんは、『監察医 朝顔』、『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』、『正直不動産』、『パリピ孔明』と通常の連ドラでの信頼度は抜群。

とはいえ、先にも書いたように朝ドラは特殊なので、実力派といわれる脚本家も上手くいくとは限らず。阪神・淡路大震災発生から30年を迎えるにあたって制作される、『あまちゃん』『おかえりモネ』に続く震災「朝ドラ」なだけに、成功を祈ります。でも、この安っぽいギャル姿、心配だな…。


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