最近、乱発気味な風潮ですが…ドラマ「神回」クドカン編
2月26日に放送されたドラマ『俺の家の話』は出色の出来で、ニュース記事でも「6話が神回!」(シネマトゥデイ)、「第6話は笑いあり涙あり 神回オブ神回」(MANTANWEB)などと、「神回」という言葉を用いて称賛しています。
「神回」とは、テレビ番組で傑出した出来の放送回を賞賛する表現ですが、近年は脚本家の北川悦吏子さんやテレビ局の番宣担当者が、自ら「神回」と予告する例も増加。テレ東ドラマの演出で知られる大根仁さんの言葉を借りれば、「下品極まりない」。「秘すれば花」というではありませんか。
結局のところ、「神回」とは視聴者側の個人的な主観に過ぎないわけで、それを踏まえて控えめに使用されるべきなのでしょう。というわけで、個人的な「神回」の思い出を少し。
大河ドラマ史上、最低の平均視聴率8.2%に終わった『いだてん』(2019年)ですが、「東京ドラマアウォード2020」でグランプリを受賞した傑作。放送中も「神回」といわれた回が何度もありました。
個人的には、日本人女子初のオリンピック出場選手・人見絹枝に焦点をあてた第26話が最高でした。演出はNHKとしては異例の、外部から招聘した大根仁さん。演じたのは、これが女優デビューにして大役に抜擢された、ダンサーの菅原小春さん。
絹枝はアムステルダム五輪に出場するも、プレッシャーから、期待された100メートルで惨敗。未経験の800メートルへの挑戦を決意し、ロッカールームで上に直訴します。
「男は負けても帰れるでしょう。でも女は帰れません。負けたらやっぱり女はダメだ。男のまねして走っても、役に立たないと笑われます」ここの菅原さんの演技が、まさに神懸かり。結局、出走した絹枝は銀メダルを獲得。軽やかなダンスシーンも挟まれ、3年後に亡くなったとナレ死。完璧でした。
もう一つ、朝ドラ『あまちゃん』(2013年)を挙げてみましょう。この作品、当初は「東北・北三陸の小さな田舎町を舞台に、海女さんを目指すヒロイン・アキ(能年玲奈さん)が奮闘する姿を綴った人情喜劇」とありましたが、途中から東京でアイドルを目指します(笑)。
この際に重要な伏線となるのが、アキの母・春子(小泉今日子さん)もかつてアイドルを目指したものの、音痴のアイドル・鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子さん)の影武者として「潮騒のメモリー」を歌い大ヒット。しかし、春子が表舞台に出るチャンスはなく、ついには夢をあきらめたという過去。
諸々あって、東日本大震災の翌年、北三陸で鈴鹿がチャリティーコンサートを開催した第153回、これが「神回」でした。音痴のはずの鈴鹿が「潮騒のメモリー」を見事な美声で歌うシーンには鳥肌。
再び影武者を務めるつもりでスタンバイしていた春子でしたが、そのステージを見て、長年のわだかまりが消え、若き日の春子の生霊?(有村架純さん)も消滅。歌詞変更も秀逸。リアルアイドルだった、薬師丸&小泉をキャスティングした意味が腑に落ちました。
というわけで、『俺の家の話』『いだてん』『あまちゃん』と全て脚本家・宮藤官九郎さんの作品における「神回」を取り上げましたが、別の方の「神回」についてはまたの機会に。