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映画『侍タイムスリッパー』の攻守の美学(ネタバレあり)

池袋シネマロサ1館の上映から320館以上へ拡大した日本のインディーズ映画。最近ではワイドショーなどでも取り上げられ、2024年流行語大賞にもノミネートされました。
早い段階で「第二のカメ止め」との噂を耳にしていたものの、タイミング合わずで先日ようやく鑑賞することができました。
確かに笑いあり涙あり、熱のある作品で素晴らしかったです。
以下は私が1回きりの鑑賞で本作から感じたこと、受け取ったことを書きます。パンフレットやインタビュー記事など、作品以外の情報は踏まえていませんのであしからず。(あくまでも個人の感想レベルです)

以下、ネタバレあります。未鑑賞の方はここまでで。
鑑賞後またはネタバレ問題なしの方はごゆっくりどうぞ!

大絶賛公開中

あらすじ
幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門は長州藩士と刃を交えた時、落雷と共に現代(2008年頃?)の時代劇撮影所へタイムスリップ。身を立てるために、斬られ役として生きていく様をコメディタッチに描く。

設定自体はよくあるタイプのタイムスリップもの。しかし、他作品と違うのが主人公が元の時代に帰ろうとしないところ。
タイムスリップ先で生きていこうとするので、終盤にクライマックスとなる別れのシーンがない。主人公の高坂があまりにも自然にタイムスリップを受け入れ現代に馴染もうとする為、この『タイムスリップ映画にありがちな展開』から逸脱していることに気付かされない。かなり攻めた作品だと思う。
裏付けとして、高坂が密命をおびた武士(言わばテロリスト)であり、藩の為に命を懸けて戦っていたという設定がある。高坂の家族等が描かれないのも帰る理由がないことを無意識に印象づける。

日本の行く末を憂いていた侍がその成長・発展に驚き涙する姿は、現代の日本人が忘れていた『先人たちの努力と犠牲』を端的に表現している。
なのでギャップをネタにしたギャグに笑いながらも思わず心が動かされてしまう。
ギャグだけに逃げない、ここらもまた非常に攻めたシーンだと思う。

本作の中でも一番好きなシーンは殺陣師の師匠に弟子入りし、稽古をつけてもらうシーン。
最初は「お前が斬るんかい!?」と師匠同様ツッコミ笑い。しかし、二度、三度と同じシーンが繰り返される。
ここでハッと気付く。時代劇の斬られ役という特殊な存在を。
笑いどころとして観ているが、次第に師匠の斬られ方のバリエーション、表情に目が行く。カメラも高坂ではなく徐々に師匠である関本に寄っていく。
つまり、ここは斬られ役にスポットを当てた、斬られ役の見せ所だったのだ。そのことに気が付くと、またもや笑いながら涙が溢れてくる。

中盤に驚きの一手を持ってくるのも非常に巧い。
そう高坂と刀を交えていたあの男の登場。観客も気になっていたその存在が、意外な人物として再登場する。そうきたかー!巧い!

中盤以降は時代劇を守る、という話になっていく。
これがまた熱い。
それぞれに日本を憂い、日本を守ろうとした侍たちが、今度は時代劇の未来を憂い、時代劇という文化を守ろうとする。
攻めた作風と守ろうとする愛。
攻守がここで重なる。日本という国と時代劇が重なる。
時代劇を壊しながら時代劇を愛で守る。愛を伝えていく。
そのあまりの熱量に観客の胸も熱くなる

こうなるとやることはひとつ。
時代劇として、チャンバラ映画として魅せきる。
それを真剣を用いた命懸けの撮影という形で見せる。
本番一発。正に命懸けの真剣勝負
静寂。見合う二人の侍。そして刀が触れ合う音が響く。
最高の緊張感の中、素晴らしいチャンバラを魅せる。
『これが時代劇だ!』と、スクリーンから叫びが聞こえてくる。
日本の文化、時代劇が誇る美学
この部分に関してフィクションでも真剣を用いた撮影という設定に批判的な意見もあると思うが、私が感じたのはメタ構造の巧さで、誰もが真剣での撮影ではないとわかっていながらも、それをさも真剣であるかのように演じきり、そして観客も固唾を呑んで見守る構図ができていることの巧みさがあったと思う。
つまりは『時代劇はスゴイんだぞ!』という姿勢、軸はぶれていない。

そして衝撃のラストへ・・・。

圧倒的熱量とインディーズ映画とは思えないスケール感。
特に演技においては主役である山口馬木也さんの色気と熱量。敵役の冨家ノリマサさんの大物時代劇俳優っぽさ、そして武士として抱えてしまったトラウマの表現は本当に素晴らしかった。

攻めと守り、攻守の美学が詰まった作品。
あのラストの決闘シーンは劇場でしか得られない緊張感だと思う。
映画としての美学を貫いた名シーンでした。

これだけ大ヒットしたのだからラストシーンの続きを短編でもいいので作ってもらいたい。テレビドラマでも良いですね。
勿論、監督は優子殿でお願いします!

From AleJJandro Hiderowsky


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