始まりと終わり(#154)
カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」3週間前に読み終えた。
村上春樹の「街とその不確かな壁」今日読み終えた。
三島由紀夫の「金閣寺」今日読み終えた。
それぞれの作品に思うところはあるが、ここでは感想は書かない。
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「私が多くの小説を読んできて実感しているのは、『いい作品の書き出しはいい』ということです。書き出しだけよくて、あとが悪い作品はありません。書き出しは悪いけど、あとは名作という作品もないのです。」
と書いてあった。(「小説教室」by 根本昌夫)
なので、感想を書かない代わりに、それぞれの作品の始まりと終わりの文章を引用する。
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「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著
<始まり>
私の名前はキャシー・H。いま31歳で、介護人をもう11年以上やっています。
My name is Kathy H. I’m thirty-one years old, and I’ve been a carer now for over eleven years.
<終わり>
私は自制し、泣きじゃくりはしませんでした。しばらく待って車に戻り、エンジンをかけて、行くべきところへ向かって出発しました。
I wasn’t sobbing or out of control. I just waited a bit, then turned back to the car, to drive off to wherever it was I was supposed to be.
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「街とその不確かな壁」村上春樹著
<始まり>
きみがぼくにその街を教えてくれた。
<終わり>
暗闇が降りた。それはなにより深く、どこまでも柔らかな暗闇だった。
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「金閣寺」三島由紀夫著
<始まり>
幼時から父は、私によく、金閣のことを語った。
<終わり>
別のポケットの煙草が手に触れた。私はタバコを喫(の)んだ。一ト仕事終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。
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「ところで、みなさんがこれから小説修行をするときに、名作の書き出しを利用する方法があります。名作の一行目に続けて、自分の文章、自分の小説を書いてみるのです。高橋源一郎さんも勧めている方法で、とてもいい訓練になります」
とも書いてあった。(「小説教室」by 根本昌夫)
もし、私がここで提案された小説修行をするとしたら、読み終わった三つの作品の書き出しから選ぶとすれば・・・やっぱ「きみがぼくにその街を教えてくれた」が書きやすそうだな〜。どんな街だろう。きみとは誰だろう。ぼくというのは男なのか「ぼく」と自分を呼ぶ女の子なのか。話が広げやすそうだ。
その次は「私の名前はキャシー・H。いま31歳で、介護人をもう11年以上やっています」原作が英語で「デスマス調」の日本語で訳している。私は「だ・である調」の方が書きやすいな。「私はキャシー・H。31歳。介護人をしてもう11年以上経つ」という書き出しで始める。どういう介護をしているのか。誰を介護しているのか。仕事でしているのか、家族をみているのか。11年の間に何があったのか。話の広がりはやや狭められるが、かけないことはない。
一番望みがないのが「幼時から父は、私によく、金閣のことを語った」無理無理無理無理無理・・・。本物の金閣寺見たことないし、この先見る予定もないし。この始まりで小説を書かないと、処刑だ。と言われたら、頑張って何かをつむぎ出すかもしれない。そうでない限りスルー。
「終わりの文章」で好きな順位も同じなんだよな。1番は「暗闇が降りた。それはなにより深く、どこまでも柔らかな暗闇だった」。ともすると望みのない暗い終わりに感じるかもしれないが「柔らかな暗闇だった」というのに優しさと救いが感じられる。深い眠りのような安心さえ感じられる。2番目は「私は自制し、泣きじゃくりはしませんでした。しばらく待って車に戻り、エンジンをかけて、行くべきところへ向かって出発しました」
これを「である調」に私が訳すると「おさえが効かないほど泣いていたわけじゃなかった。少し時間をおいて車へ戻ったら、私は行くべきところへ向けて走り出した」と書き直す。泣いた後に、気分を切り替えて、やるべきことの残りをやり遂げるために車を走らせるという気持ちの転換・スピードみたいなのが感じられる。
3番目、金閣寺の最後はちょっとびっくりするほど、爽やかに終わる。「一服して、生きようと思った」とは。金閣寺を燃やすことで何かが吹っ切れたんだろうね、きっと。大迷惑だけど。生きて罪を償ってくださいね。金閣寺のおもろいところは「この主人公は金閣寺を燃やす」と分かっていても「こんなんで、こいつは本当に燃やせるんかな」と思ってしまう、主人公の心理の動きに読者の私は右往左往させられるところだ。右往左往した後に、一服して「生きようと思った」だもんね。まいった。笑った。
さて、あなたが選ぶとしたらどの「始まりの文章」にするだろう。それはどんな小説になるのかな〜。あなたの想像力が私の武器。今日も読んでくれてありがとう。