雨宮吾子

ほそぼそと活動しています。

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マガジン

  • The Hotel Green Amber (掌編小説集)

    一千文字以内の掌編小説を収める作品集です。主に即興で書いたものを投稿していく方針です。 各々の作品には連関がないため、どこからでも好きな作品を読んで頂くことができます。

  • Cupid shoots to kill (決定版)

    一流の歌手を目指すその女性の名は、ベラドンナといった。ホテルのラウンジショウへの出演が決まり、ベラはバンドのメンバーとの練習に励む。様々な人物と交わる中で成長を見せるベラだったが、本番当日の朝、思いもよらぬ報せが舞い込む。二十二歳のベラは、ある決断を迫られるのだった。 ※全十話。尚、本来のタイトルは"Cupid shoots to kill (Definitive Edition)"ですが、字数の関係により"Cupid shoots to kill (決定版)"としております。

記事一覧

【短歌】
火葬場や病院では枯れていたあくびとともに溢れる涙

雨宮吾子
5日前
1

年初に掲げた「己の中の権威主義を討て」という抱負は実現できていない。
何にしても選り好みしてしまうけど、そういう性分だということが分かっただけでも良かった。
私は私のことをあまりにも知らないままだから。

雨宮吾子
2週間前

2024/08/25

「これはどういうことなんだろう」  思わず漏れた声が土曜の夜の自室に溶けていく。入眠剤としての効果を期待して読んでいた小説が思いがけず難解で、しかもその難解さが…

雨宮吾子
1か月前
2

2024/07/15

 ドーナツ、買ってきたよ。  なかなか捨てられずにいる衣類や読み古しの雑誌、その他諸々に占拠されて声の反響しない部屋に向かって言葉をかけた。返ってくる言葉はなく…

雨宮吾子
2か月前
2

【短歌】
真空を征きて還れぬ独り旅せめてお供にゴルトベルクを

雨宮吾子
3か月前
3

【短歌】眠れぬ夜彼の廃校を想起する人のなき場に夜は流れる

雨宮吾子
3か月前
2

【詩】しとしとと

雨が降るごとに窓を閉める 部屋を侵されてはならないから 外との断絶が空間を生む 閉じたものを空間と呼ぶから では時間は開かれているのだろうか 雨は降るのだろうか 雨…

雨宮吾子
3か月前
4

【短歌】
手花火に産声語る母の声梅雨のドカンが残り香消して

雨宮吾子
4か月前
1

【短歌】
窓辺にてタウマゼインを弄び肉体拵え鳥辺野に死す

雨宮吾子
6か月前
2

窓際の一輪挿しに倣いつつ亡き兄さんの肌着を借りる

雨宮吾子
9か月前
3

本年もよろしくお願い致します。
今年の抱負は「己の中の権威主義を討て」です。

雨宮吾子
9か月前
1

【詩】はなむけ

こそあど あなたが生まれた時代の歌を聴かせてごらん どんなに明るかったか どんなに苦しかったか どんなに哀しかったか どんなに楽しかったか こんなに色んな感情が歌わ…

雨宮吾子
9か月前
4

久しぶりにエッセイを書こうと考えています。
創作関連のことであなたのこういう話が聞きたい、といったようないわゆるお題を募集します。必ずリクエストに応えられるとは限りませんが、ご協力頂きますと有り難いです。もちろん創作関連以外のことでも構いません。
よろしくお願いします。

雨宮吾子
9か月前
1

映画「窓ぎわのトットちゃん」を観てきました。印象に残った部分は数あれど、太平洋戦争開戦の臨時ニュースが流れる場面は、分かっていても慄然としてしまいました。鑑賞後の気分としてはトットちゃんの天真爛漫さに救われるばかりです。観て良かったと心から思える作品でした。

雨宮吾子
9か月前
1

街角

 日が沈んでしばらく経った頃、私はあてもなく街中を歩いていた。人よりも自動車の往来の方が盛んで、クラクションやカーステレオから流れてくる音楽などで喧しく感じられ…

雨宮吾子
10か月前
2

ランデヴー

 そのテディベアは川上から流れてきた。茶色くて、小学校に上がりたての子供が抱きかかえて眠るのにちょうど良い大きさで、腕の付け根の縫い目が心許なくなっている。その…

雨宮吾子
1年前
2

【短歌】
火葬場や病院では枯れていたあくびとともに溢れる涙

年初に掲げた「己の中の権威主義を討て」という抱負は実現できていない。
何にしても選り好みしてしまうけど、そういう性分だということが分かっただけでも良かった。
私は私のことをあまりにも知らないままだから。

2024/08/25

「これはどういうことなんだろう」
 思わず漏れた声が土曜の夜の自室に溶けていく。入眠剤としての効果を期待して読んでいた小説が思いがけず難解で、しかもその難解さが予想とが違った性質を持っていたために、頭を捻らずにいられなかった。どうも選ぶ作品を間違えてしまったようだと切り捨てることは簡単だったが、しかし理解の及ばないことが悔しくて、僕は横たわっていたベッドから立ち上がって冷蔵庫へ向かった。冷やしてお

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2024/07/15

 ドーナツ、買ってきたよ。
 なかなか捨てられずにいる衣類や読み古しの雑誌、その他諸々に占拠されて声の反響しない部屋に向かって言葉をかけた。返ってくる言葉はなく、従って誰もいないのだけれど、私は一人では食べ切れない量のドーナツを抱えている。
 彼の人がどんな食べ物を好んでいたか、実はあまりよく覚えていない。それでも一緒に過ごした思い出をかき集めて、好みの傾向は何となく分かっているから、今日はドーナ

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【短歌】
真空を征きて還れぬ独り旅せめてお供にゴルトベルクを

【短歌】眠れぬ夜彼の廃校を想起する人のなき場に夜は流れる

【詩】しとしとと

雨が降るごとに窓を閉める
部屋を侵されてはならないから
外との断絶が空間を生む
閉じたものを空間と呼ぶから
では時間は開かれているのだろうか

雨は降るのだろうか
雨は落ちてくるのではないか
いや、きっと降るのだろう

余計なことはもう言わない
雨が全てを埋めてくれるから

【短歌】
手花火に産声語る母の声梅雨のドカンが残り香消して

【短歌】
窓辺にてタウマゼインを弄び肉体拵え鳥辺野に死す

窓際の一輪挿しに倣いつつ亡き兄さんの肌着を借りる

本年もよろしくお願い致します。
今年の抱負は「己の中の権威主義を討て」です。

【詩】はなむけ

こそあど

あなたが生まれた時代の歌を聴かせてごらん
どんなに明るかったか
どんなに苦しかったか
どんなに哀しかったか
どんなに楽しかったか
こんなに色んな感情が歌われているのに
それよりもあなたが生まれてきたことのほうが
こんなにも嬉しいのは
あなたのことが好きだからなんだよ

はなむけ

予定よりも早く目が覚めた朝とも言えぬ朝を
私は言祝ぎの気分で生きている
一年という区切りの死を迎えようとし

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久しぶりにエッセイを書こうと考えています。
創作関連のことであなたのこういう話が聞きたい、といったようないわゆるお題を募集します。必ずリクエストに応えられるとは限りませんが、ご協力頂きますと有り難いです。もちろん創作関連以外のことでも構いません。
よろしくお願いします。

映画「窓ぎわのトットちゃん」を観てきました。印象に残った部分は数あれど、太平洋戦争開戦の臨時ニュースが流れる場面は、分かっていても慄然としてしまいました。鑑賞後の気分としてはトットちゃんの天真爛漫さに救われるばかりです。観て良かったと心から思える作品でした。

街角

 日が沈んでしばらく経った頃、私はあてもなく街中を歩いていた。人よりも自動車の往来の方が盛んで、クラクションやカーステレオから流れてくる音楽などで喧しく感じられるくらいだった。ショーウインドウを見つけるたびに立ち止まっては中を覗き込む。見知らぬ誰かの理想で着飾ったマネキンが歩道に向かってポーズを取っている。夜だというのにサングラスをしているマネキンもいて、決して見られているわけではないと分かりなが

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ランデヴー

 そのテディベアは川上から流れてきた。茶色くて、小学校に上がりたての子供が抱きかかえて眠るのにちょうど良い大きさで、腕の付け根の縫い目が心許なくなっている。そのくたびれ方から、愛されていたのだな、というのがよく分かった。それまで川底を漁っていた私は唯一の収穫物であるテディベアを拾い上げると、その首に掛けられていたネックレスを手に取った。その反射がなければきっとテディベアにも気付かなかっただろうと思

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