『#100日チャレンジ』から、AI時代の学び方を考える
『#100日チャレンジ 連続100本アプリを作ったら人生が変わった』(大塚あみ著)は、AI時代における新しい学び方や生き方を考えさせられる一冊だった。
AIツールChatGPTを相棒に、100日間、毎日1本ずつアプリを作り続け、X(旧Twitter)に作品を毎日投稿しながらプログラミングを身につけていった女子大学生の物語。試行錯誤しながら成長していく姿に、気づけば感情移入し、夜中に一気読みしてしまった。
読み終えてまず頭に浮かんだのは、「彼女の思考や行動は、まさにプロセスエコノミーが実装された世界の象徴であること」、そして、「ミドル世代にとって新しい学び方や考え方を示している」ということ。そして、この思考や行動様式は、変化が激しいAI時代において、ますます重要になっていくのではないか、ということ。
この本は、ChatGPTの活用方法やプログラミング学習の教材ではない。むしろ、従来の学校教育的な「正解主義」や、「基礎の積み重ね型学習」から解放されるためのヒントが詰まった一冊だ。
ミドル世代にとっては、AI時代の「修正主義」的な学び方や「柔軟な思考」の重要性に気づかせ、立ち止まっている背中を後押ししてくれる本だと感じた。
成長過程が「共感」を生む
まず、この本の魅力のひとつは、「100日間、毎日アプリを作る」という挑戦のプロセスを開示しているところだろう。
結果そのものではなく、挑戦のプロセスのなかで彼女が試行錯誤し、失敗し、学び、成長していく過程が、わたしを含む読者を引きつけ、共感を呼んでいる。
この「成長や製作の過程で紡がれていく物語が価値になる」という概念が「プロセスエコノミー」と表現されることをはじめて知ったのは、『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(尾原和啓著)を読んだ2021年のことだった。
「これからの時代、完成品や成果よりも、その過程や物語そのものに価値を見出す社会になる」。
出版された2021年当時は、このプロセスエコノミーの中心は、「何者か」を名乗れるような企業や個人が中心であったように思う。過去に積み重ねてきた実績とそれによる信頼を元に、クラウドファンディングなどを通して信頼を価値に変えていた。
けれど今では、不特定多数の「まだ何者でもないが、何者かになりたい誰か」が、SNS上で目標や挑戦を掲げ、その成長物語を大量に発信している。
「わたしの物語」がこれほど供給過多な現代で、彼女の成長過程だけでは、この本の魅力は語りきれない。
そう感じたわたしは、『プロセスエコノミー』を久しぶりに再読しながら、この本の魅力についてもう少し想いを巡らすことにした。
遠いゴールよりも「目の前の一歩」
「プロセスエコノミー」を再読しながら気づいたのは、同著『#100日チャレンジ』には、変化が激しいAI時代を生き抜く学び方や考え方のヒントが詰まっているということだ。
特に印象的だったのは、彼女が同著やnoteで語っていた「未来はあえて7日先までしか考えない」という意識だ。
不確実な時代だからこそ、「未来は7日先までしか考えない」。視線を遠くではなく、あえて目の前に置くことで、「驚くほど気持ちがラクになり、思わぬチャンスを引き寄せる」と彼女は語っている。
この「あえて視線の先を足元に置く」意識は、『プロセスエコノミー』の中で語られている「ゴールから逆算してステップアップしていく生き方ではなく、日々歩いていること自体に喜びを感じ、瞬間瞬間のひらめきに従って柔軟に対応していく生き方」に通じている。
変化が激しい時代においては、たどり着く頃にはまだあるかもわからない遠いゴールを設定するよりも、「とにかく次の一歩」に集中することが大切だということを改めて感じた。
一歩一歩の積み重ねが、どこかはわからないけれど、とにかくどこかにはたどり着く。そう信じ、受け入れる「柔軟さ」や「軽やかさ」も見習いたいと思う。
正解主義より「修正主義」
さらに、彼女のAI活用によるプログラミングの学び方を見ていると、ミドル世代が囚われがちな「正解主義」や「基礎学習の積み重ね」といった従来の学び方から抜け出すヒントが見えてくる。
彼女は、ChatGPTにコードを書かせ、動作確認をし、エラーが出たらまたAIに尋ねる。こうして修正を繰り返しながら、少しずつ前に進んでいく。この方法は、「修正主義的な学び方」と言えるだろう。
一方で、わたしたちミドル世代は、学校教育で「基礎の積み重ね学習」を徹底的に叩き込まれてきた世代だ。基礎を固め、正解を導き出すための方法を順序立てて学ぶことが正しいとされてきた。この学び方は、「正解主義」に基づいている。学校教育では、間違えないことが重視され、慎重に進むことが求められてきた。
この「正解主義的な価値観や思考」は、学校を卒業した後も、仕事や日常生活の中で無意識にわたしたちの行動や思考様式に影響を与えている。「間違えたらどうしよう」「完璧に準備してから始めたい」といった思いが先立ち、新しい挑戦に足踏みしてしまうことも少なくない。
彼女が実践した「修正主義」による新しいプログラミングの学び方は、そんな「正解主義」から大きく離れている。正解を求めて立ち止まるのではなく、不完全でもその場その場で柔軟に対応しながら進んでいく。動き続けること、試行錯誤を重ねることで、新しい道を切り開いていくのだ
デジタルネイティブ世代が実践する「修正主義」
彼女の学び方を見て、わたし自身、「正解を求めて立ち止まる」学び方にとらわれていることを痛感した。一方で、わたしの子どものようなデジタルネイティブ世代は、日常生活の中で自然に「修正主義」のアプローチを身につけていることに気づいた。
例えば、小学1年生の息子とわたしでマインクラフトを始めたときのこと。息子ははじめから操作画面を何の躊躇もなくどんどん触って操作していった。わからないことがあってつまづいたり失敗したときは、その都度、音声検索(これもいつの間にか習得していた)を使ってYoutubeで調べて習得していった。これは「修正主義」の学び方そのものだ。
マインクラフトを初めて1年もしない頃あいだに、小1息子はマインクラフトで山や洞窟の冒険を楽しみ、トロッコを作り、サウナ付きのおうちを建てるようになった。試しながら感覚的に操作を理解し、YouTubeのゲーム実況で楽しみながらいつの間にか新しい情報を仕入れ、知識を増やし、わからないことがあればYouTubeで検索し、また試してみている。
一方のわたしは、最初から操作画面に触れるのが怖くて全く手を動かそうとしなかった。まず解説書を読んで準備を整えようとしたが、わからない用語にさらに戸惑った。マインクラフトの世界は、ドラクエや聖剣伝説のような共通目的がない。倒すべきラスボスも、目指すべきお城も、最初から設定されてない自由すぎるマインクラフトの世界で、わたしは一体何をすればいいのか、何ができるかもわからないまま、結局何もできずに終わった。
失敗を恐れるのではなく、失敗から学び、次に生かしていく。デジタルネイティブ世代のそのスピード感と柔軟性には、日々驚かされるばかりだ。
この違いは、従来の積み重ね型学習と、瞬時に挑戦しながら学んでいく「修正主義」の学習との違いを象徴しているように思える。
「正解主義」による「行動先延ばし癖」をやめる
わたしたちミドル世代は、学校教育で徹底的に叩き込まれた「基礎の積み重ね学習」や「正解主義的思考」に、いまだに縛られている部分がある。
それは「間違えないための準備」に時間をかけすぎ、実際の行動を先延ばしにしてしまう。
しかし、変化の激しいこれからの時代には、「まずやってみる」「失敗しながら修正していく」学び方がますます重要になっていくだろう。
昭和的な基礎の積み重ね学習に慣れたわたしたちも、この柔軟なアプローチを取り入れることで、新しい可能性を切り開けるのではないだろうか。
AIがサポートする「修正主義」の未来
AIの進化は、こうした「修正主義的な学び方」をさらに後押しするものであることを、100日チャレンジを通して彼女が示してくれた。わたしにとっての本著の価値は、そこにある。
彼女がChatGPTを使いながら学び続けたように、AIが学びのサポート役として存在することで、試行錯誤しながら柔軟に学ぶことがより簡単になる。
AIは、わたしたちが失敗するたびに修正案を提示し、試行錯誤を助けてくれる存在になる。それは学びや成長の速度を加速させるだけでなく、「まずやってみる」行動を後押ししてくれる。
人生100年時代は、学び直しが不可欠な時代だ。けれど、そもそも、この「学び直し」も、時代に合わせた新しい学び方、意識、行動様式に変えていく必要があることを気づかせてくれた。
正解主義の呪縛から抜け出し、「修正主義的な学び方」を取り入ること。不確実な時代を生き抜くため、ミドル世代のわたしはまず、そこからはじめてみようと思う。