瑞々しく美しい…『旅をする木』を読んで
旅をする木
星野道夫
あらすじ
広大な大地と海に囲まれ、正確に季節がめぐるアラスカ。1978年に初めて降り立った時から、その美しくも厳しい自然と動物たちの生き様を写真に撮る日々。生と死が隣り合わせの生活を静かでかつ味わい深い言葉で綴る33篇を収録。
感想
こんなに瑞々しく美しい文章を読んだのは初めて。
自然と人に愛情を持ち、優しさに満ち溢れた星野さんの生き様は、人生における大切なことについて気づきを与えてくれる。
シンプルに生きることの良さ、人との出会いの素晴らしさ、悲しみを抱えながら生きる人の美しさ。
厳しい人生を生き抜く助けとなってくれる本だと思う。読んで本当に良かった一冊。
心に触れた文章の抜粋
人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。
人と出会い、その人間を好きになればなるほど、風景は広がりと深さをもってきます。やはり世界は無限の広がりを内包していると思いたいものです。
ひとつの人生を降りてしまった者がもつ、ある優しさがあった。
何もないこの世界では、食べて、寝て、出来る限り暖かく自分のいのちを保ってゆくことが一番大切なのだ。
人生はからくりに満ちている。日々の暮らしの中で、無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている。
人は誰もがそれぞれの物語をもち、それぞれの一生を生きてゆくしかないのだから。
深く老いてゆくということは、どれだけ多くの人生の岐路に立ち、さまざまな悲しみをいかに大切に持ち続けてきたかのような気がしてくる。
世界が明日終わりになろうとも、私は今日リンゴの木を植える…ビルの存在は、人生を肯定してゆこうという意味をいつもぼくに問いかけてくる。
何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時間を、大切にしたい。あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。
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