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小学校に進学して「楽しくない」と言った子たち

おはようございます。
今日のタイトルはちょっと不穏かな、と思いつつ、伝えたいこと重視でつけてみました。

私はこれまで、同じ系列の幼稚園、保育園に15年ほど勤務していました。
途中数回転勤しつつ、同じ園や同じ地域にいる年数が長いことで、小学校に進学した後の子どもの姿も見てきました。
中には、兄姉に続いて弟妹を見る機会もありましたし、中学校に進学した後の子どもに再会する機会もありました。その子たちの保護者とお話する機会もありました。
今日はそんな経験を踏まえて、小学校に進学後に「楽しくない」と言った子たちについて書いてみようと思います。

子ども扱いされる環境が「楽しくない」子

年長組の子どもたちは、幼稚園・保育園の中で一番大きな子。お兄さん、お姉さんとして扱われ、下の学年の子どもたちのお手本になったり、世話を焼いたりする立場です。
特に、私が当時働いていた系列園は運動会や音楽会に力を入れていたので、いろいろなことを経験する機会も多くありました。
また、体育、英語などの教室もあり、体育は大人気でほとんどの子どもが通っていました。

そんな環境で育ち、かつ、そんな環境で自分の能力を発揮することに喜びや楽しみを見いだしていたある男の子。
卒園後、たまたま会う機会があったので「小学校、どう?」と尋ねると、「楽しくない!」と即答されました。

小学校に入ると、これまで最上級生として扱われていたのに、一気に子ども扱いされる立場になります。
国語や算数、理科といった教科は別として、体育や音楽では、これまで当たり前にやってきた内容より易しい内容をやることになります。
これが「楽しくない」わけです。

同じクラスの子どもたち全員が全員同じ幼稚園・保育園にいたわけではありません。全員がついてこられる内容を、と考えれば、まず易しいところから始めるのは仕方がないことではあります。
できる子に合わせていたら、できない子たちにとって「楽しくない」環境になることは間違いありません。

とはいえ、その子が「楽しくない!」のもよく分かります。
自分の力に自信がある子にとって、それを発揮できない環境はもどかしく、消化不良を起こしているようでした。

新しいクラスの雰囲気が「楽しくない」子

私が当時働いていた系列園では、子ども同士が言葉で伝え合うことを大事にしていて、子ども同士が話し合う機会も作るようにしていました。
得意、不得意はあるので、必要があれば保育者が間に入りますが、基本的に伝え合うことが徹底されていました。
元気に騒ぐことも喧嘩をすることもありましたが、伝えれば伝わることが当たり前だったので、大声で当たり散らしたり、突然手が出たりする子はほとんどいない状態でした。

そんな環境で育ち、かつ、同じ家庭には環境で育った姉がいる女の子。
小学校に進学した後、お母さんに「楽しくない」と話したそうです。

その子にとって、小学校の新しいクラスは衝撃的なものでした。
大声で怒鳴る、気に入らないと手や足が出る、座って話を聞かない、などなど。もちろん全員がそうだったわけではないと思いますが、これまで穏やかな環境で過ごしてきた子にとって、荒々しく落ち着かない環境だったことは間違いないようです。
話を聞いてもらえない、「うるせぇ!」と怒鳴られる……と怖がっているとお母さんから聞き、確かにそういうタイプは未知の存在だろうなと気の毒に思いました。

これまで、どんなに元気でにぎやかでも、突然怒鳴ってくるような子は園にいませんでした。
話が伝わりにくいことはあっても、お互いに伝え合うことが当たり前だったので、話を聞いてもらえないということもありませんでした。
もちろん、最初からそうだったわけではありませんが、成長と共に落ち着いていったので、年長組になると全体的に穏やかなクラスになっていたのです。
その環境が当たり前の子に、新しい環境はかなり恐いだろうなと感じました。

毎日不安で「楽しくない」子

幼稚園・保育園は、小学校に比べると先生一人に対して子どもの人数が少なくなっています。
それだけ大人の目が届きやすい、ということです。
また、先生が近くにいる時間も長く、困ったり上手くいかなかったりすれば、すぐ助けてもらえるという環境になっています。
それに加え、何年も一緒に過ごした先生は気心が知れていますし、子どもの性格や特性を把握しているので、子どもにとってやりやすい相手です。不安を感じやすい子にとって、そうした相手がいるかいないかは大きな違いです。

元々不安を感じやすいある男の子は、小学校が「楽しくない」と登校を渋るようになりました。
新しい環境は分からないことが多く、ただでさえ不安です。
仲のいい友だちは別の小学校。一人っ子で、近所の友だちもいない状態でした。
困っていても自分から発信するのに抵抗があって、黙っていることが多い子でもあるので、困っていても気づいてもらえないことが多かったのでは、と思います。

小学校の先生も、限られた時間の中で少しでも早く一人ひとりを知ろう、助けになろうとしています。
とはいっても体は一つしかないので、当然限度があります。
ある程度時間がかかるのは仕方のないことです。

新しい環境に慣れる時間は個人差がある

環境が大きく変わって、それに慣れるまでにかかる時間はそれぞれです。
元々の性格もありますし、近くにどんな人がいるかでも変わってきます。
どの成長段階にいるかも関わってくると思います。

兄弟姉妹でも違いますし、同じ学年の他の子とも違います。
比べてもいいことはないです。

ご家族も心配なのは分かりますし、なんとか力になってあげたい、早く慣れてほしい……といろいろ感じるものだと思います。
だからつい「お兄ちゃんはそんなことなかったでしょ」「○○ちゃんは楽しそうにしてるでしょ」なんて思うのも、無理はないとは思うのですが。
他の子と比べてもいいことはない、ということだけは断言できます。
落ち込むだけです。

家族にできること、してほしいこと

その子が感じていること、体験していることを、他の誰かが代わることはできません。
どれだけ心配して、案じていても、それはできません。
できること、してほしいことは、とにかくその子の感情を否定せずに受け止めることです。

子ども扱いされることに消化不良を感じている子に対して、「そんなこと言ったって仕方ないでしょ」と言うのは簡単です。
大人の目線で見れば、確かにどうにもならないというか、致し方のないことだと思います。今まで身近にいなかったタイプの子に戸惑う子も、不安で仕方ない子も、大人目線で見れば「そういう子ってどこにでもいるのよ」とか、「自分から先生のところに行けばいいじゃない」とか、いろいろ出てくると思います。

でも、子どもはそんな『大人の当たり前』を求めていません。
大人がどう言おうと、自分は楽しくないし、困ってるし、不安なんです。
大人が理屈で子どもの感情を動かそうとしても、子どもは「分かってくれない!」と思うだけです。
「分かってくれない!」と思われたら、それだけ子どもの心と距離ができてしまいます。

大人にとって当たり前で、仕方のないことで、当然なことでも、経験が限られている子どもにはそうではありません。
感じていることをとにかく受け止めて、絶対的な味方がいると知ってもらうこと、ここは安心だと思ってもらうこと、それが大事なことだと思っています。
アドバイスをしたり、一緒に解決策を考えたりするのは、その後で十分です。
まず安心できる場所を確保すること。
子どもの揺れている心が、ほっとできる場所があること。
それが一番大事なことです。

子どもは新しいことをどんどん経験していきます。
ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情も感じる機会が増えていきます。
子どもが自分で受け止めて、対処できるようになるためには、まずしっかりと足場を作ることです。
自分は大丈夫。
自分ならやれる。
そんな自分への信頼感を作ることとも言えます。
それには、まず一番身近にいる家族が受け止めて信じてくれることではないでしょうか。

子どもが新しい環境を楽しめるように、子どもにとって安心できる存在であること。
大人の役割ってそういうことなんじゃないかなと思っています。

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