コロナ禍にクラスの文字通りみんなとモンハンをした話
感染症なんて想像もしなかった。ある感染症はヨーロッパの人々を見るも無惨な姿にしたらしい。その病魔は人々の命を刈り取った。垂れる稲穂を刈り取るように、人間の首を取っていった。僕は恵まれている。そんな姿なんて全くもって知らないのだから。天然痘や狂犬病といった病気ちらほらあるけれど、大半、日本で見かけることはない。なったところで、病院に行けば問題ないのだ。先進国に生まれて、これほどまでに良かったと思ったことはない。
だが、最近、僕らの平穏は脅かされた。コロナウイルスである。幸いなことに、現代医療と皆のお陰で、犠牲は少なくすんだ。だけど、日常は戻ってこなかった。
僕は愛媛県宇和島市の小さな地域に産まれた。高校生になり、楽しい日々を送っていた際、僕らは西日本豪雨災害にあった。僕の日常は雨で消え、友人の新築の家は雨で流された。建って一週間のことだった。伯父のみかん畑も被害に遭った。
自然相手ではなにもできない。人間なんて地球に巣くう寄生虫と変わりない。そうおもった。
そして、人災のように、その一年後コロナ禍となった。ソーシャルディスタンシングを取ったら、安全は確保された。だけれど、心はそれぞれ離れていった。反ワクチンの人達と科学信奉者。その戦いをSNSでは頻繁に確認するようになった。そして、僕のように憂い、その状況から身を置く人も見受けられた。どうしようもなかった。
そんな中、進学校に通っていた人達の愚痴を聞くと、共通テストの対策に阿鼻叫喚しているようだった。しかも、人間が変わったかのように、鬱的になる人や他者を攻撃する人まで現れた。色は違えど、世代が変わっても絶望は、すぐ側に居るんだと、犇犇感じたものである。
新学期、社会科の先生が前に出てこう言った。
「今はこんな苦しいときです。ホントに辛いと思います。一回しかない、この青春を皆から取り上げることになる。それは本当に辛いことだと思います。ごめんなさい。でも、ここが君たちの正念場だろうと思います。『コロナだから』ではなく『コロナであっても』あの世代は、と言ってもらいたいな。そうおもいます」
でも、そんなことをいったところで、コロナのパンデミックは収束することはなかった。何時まで経っても止むことの無い罵詈雑言と烈火の如くの社会からの叫び。それらの影響で、学校は1ヶ月ほど休むことになった。まるで、停止した世界だった。
僕はその休みのときに何かしようと、画策していた。折角、休みをこれだけもらったと考えれば、希望になれるはずだ。そう思いながら先生の言葉を思い出した。
僕は彼の言葉を思いながらゲーム機をつけた。
そこには「モンスターハンターワールド:アイスボーン」と書いてあった。
16人が集会所という場所に集まれるゲームはこれぐらいしかない。しかも、皆で狩ることのできる「ムフェトジーヴァ」や「マムタロト」までいる。これしかない。これで和気藹々とゲームをして、雑談しつつ、皆で楽しめたら…
そんな淡い希望だった。
クラスの全員とフレンドではない。だから、最初の2時間は集まって5人。たぶん、それぐらいだった。だけど、朝から数時間やっていると、皆が集まった。16人。全部の枠が埋まったのだ。それぞれが好きなクエストに行き、誰が入ってきても、連携がとれた。格好いい武器と、カッコカワイイ、キャラクター達。クラス全員が男子だった。そのせいもあって、会話は下ネタばかり。なのにキャラは女の子がいっぱいだった。
乙ったときの定型文は、下ネタかカプコンの悪口。将又、有名な一文だった。
「今のはカプコンが悪い」
「はちみつください」
「やりますねぇ!」
これほど笑ったことはない。今思えば、高校生の戯言だ。
でも、皆笑顔で、楽しく、バカをしながらゲームをした。
咎める先生も居ない無法地帯は、カプコンが作り上げたゲームの中だった。
現実世界では”青春”を満喫できなかったけれど、仮想空間では最高の思い出ができた。よくよく考えたら、僕らにしか経験できない人生の一時に変わりない。
なんでも、やり方と使い方次第。
そう思えた。
僕らは地球に巣くう寄生虫には変わりない。けれど、自分でコントロールできる範囲を増やせることができる。そんな考え方が少し生まれた。困難な中でも、仕様もないやりかたでもいい。楽しみながら、気楽にできることを模索する。それを学べた。
クラスの大半が集まって、モンハンをした。これは永遠の思い出だ。最後には約3分の2ほどが集まった。繰り代わり、皆が空気を読んで出て行って、集会所に入っていった。
皆が苦心し、いじめが無く仲がいい。そんな掴んだ社会性を孕んだクラスで僕は最高の体験ができた。僕らはコロナでも、楽しめた。これからの長い人生だって、それなりに楽しめるはずだ。たとえ、絶望の雨に打たれようと、時代性の雨に流されようと。
それはそうと、西洋ではドラゴンは不吉のものとされたらしい。疫病などの象徴らしい。偶然か、何かの因果か。それを討伐していた。もっともゲームのなかだが。
いま彼らは何をしているだろう。電力会社に就職した奴らと、公務員になった奴らでいっぱいだろうが、元気で、楽しそうだったら、いいな。
彼らの幸せを願っている。