走り続けていれば、きっと人生は好転する。〜第4回日光国立公園マウンテンランニング大会参加レポート〜
2019年11月10日、13時58分。
完勝だった。
これまで生きてきたなかで一番、自分のことが好きになった。とにかく、今回は自分に負けなかった。
「やった!やったぞ!!やればできるじゃないか!!!」
ゴールした瞬間の自分は、そんな気持ちだった。
ランニングを始めて丸6年、
トレイルランニング を始めて約2年。
今の自分のポテンシャルからして、「7時間台前半でフィニッシュできれば上出来」と思っていた。周りにもそのように宣言していたが、本当は「6時間台でフィニッシュしたい」と思っていた。
最初から最後まで、自分がイメージしていた通りのレース展開。今まで様々な大会に出てきたが、ここまでうまくいったのは、本当に初めてだった。
足を止めない
僕は毎回、レースでマイルールをひとつ作る。数字にはこだわらない最強のファンランナーだという自負はあるが、マイルールをひとつ作ると、ほど良い緊張感を持ってレースに臨めるからだ。
今回のレースのマイルールは「写真を撮る時とエイド以外では、絶対に足を止めないこと」。
僕は下りが好きで、登りが苦手だ。
第4回は、一言でいえば「グイグイ登って、ガンガン下る」というコース設定。
そこで、素人ながらに立てた作戦はこうだった。
・キツい登りは無理せずパワーウォーク
・他人のスピードに身を委ねない
・丸山を登り切ったらとにかく攻める
経験豊富なトレイルランナーからすれば何の変哲もない作戦かもしれない。しかし、結果的にこの作戦が大きな実を結んでくれた。
スタート〜外山へ
太鼓の音を聞いて、武者震いと共にやってくるレース特有の高揚感。
当日の装備はこんな感じ。
僕は普段の練習でもレースでも、[sn]super.natural のウェアをよく着ている。メリノウールを使ったウェアなので、汗冷えしないかつ臭わない。けっこう快適なのだ。
パンツはpatagoniaのストライダー・プロ・ショーツ。これは本当に優れものだ。ポケットが5つ付いていて、飴やジェル、それらを食べたあとに出るゴミは、全てそこに入れている。
ソックスはinjinjiを選択。インナーファクトと迷ったが、少しゆとりのあるALTRAのローンピーク4との相性はこちらの方が良さそうだと判断した。(結果として大正解)
ジェルは今回からMag-onに切り替えたが、とても飲みやすく、これも正解だった。
みんなで写真も撮って、いざ日光国立公園!
最初のピークハントは、二社一寺の東側にある外山。登りで渋滞はするものの、
・キツい登りは無理せずパワーウォーク
マイルールに則れば、焦りも何もなかった。焦りどころか、自分の土俵とすら思えた。「長いなー」とは感じたが、無事に外山の頂上へ到達。写真を撮りに来ていたおじちゃんが、快く写真を撮ってくれた。
外山から下りた先に渡渉がある。ここは密かに楽しみにしていところで、熱を持ち始めたカラダには、ほど良く冷たくて気持ちが良かった。
旧霧降牧場からの景色
トレイルランをしていると、心の中でこう呟くことが何度かある。
「この景色を見るために登っていたんだ…‼︎」
ここに着いた時の気持ちはまさにそれ。それ以外の何物でもなかった。大会実行委員会が出している映像を見た時、「旧霧降牧場は思いっきり駆け下りたい!」と思っていた。しかし、ここにたどり着いた瞬間、無意識にスピードを落として走っている自分がいた。
この先にも、前述の登り切った感動を味わえるポイントはあったのだけど、とにかくここからの景色は最高だった。
名物・鬼平の羊羹と天空回廊
初めて出る大会ではあるが、個人としてはここが最初にスパートをかけるポイントだろうと予想していた。
「ダラダラ登っても一気に登っても、40kmというレース中に1,445段もある階段を上がっていくというcrazyな行為が、辛いことに変わりはない!」
そう思っていたからだ(笑)
キツイことに変わりはないのだから、それならいっそのことスパートをかけてしまえ。
そんな心持ちである。しかも、僕が天空回廊に到着した頃は、手すりに寄り掛かりながら進むような人や途中で足を止めている人が大勢いた。
「この流れに身を任せてはいけない」
フォースの導きに従って、鬼平の水羊羹を2つ頬張り、この階段との決戦に挑んだ。(ここの水羊羹は世界一うまい)
「足を止めたら負けだ」
そう思いながら、リズムを意識して登り始める。キツくなったら後ろを少し振り返り、登ってきた達成感をガソリンにしてギアを戻す。
途中でon your markのトモヒコさんとすれ違い、テンションと共にギアを上げる。
そして、ついに登り切った。
1,445段の階段に勝った。
登りが苦手な自分に勝った。
「この先にもう一山あるから油断するな」とは聞いていたが、ここまで来れば勝ったも同然。丸山への登りは、あっという間に感じた。
丸山からの下りとヒャッホートレイル
丸山からの景色はちょっと残念だったが、それでも登り切った達成感に浸りながら、スリッピーな道を下り始めた。その先に待つのは、これまた名物の『ヒャッホートレイル』だ。
なんて贅沢な道なのだろう。
そう思って、スタッフさんに写真をお願いし、心の中で「ヒャッホーーー!!」と叫びながら下り始めた。
最後の最後にもうひとつピークがあるのはわかっていた。そんなことはわかっていたし、このままいけば内転筋が攣りそうなのもわかっていたが、スピードを落とすことができなかった!!!笑
僕のiPhoneのカメラロールには、このエリアの写真が1枚もない。それくらい、ヒャッホートレイルからの下りは気持ちよかった。
プッシュ!プッシュ!
第一エイドで、昨年の野沢温泉で出会った、今大会でマーシャルを務めていた佐藤さんとバッタリ遭遇。
一番キツかったのは、このエイドからしばらく続くゆるやか登りだった。
内転筋が攣り始め、着地の衝撃に耐えられない。スピードが極端に落ちてきて、普通なら走れるような登りが走れなくなってきた。
そこに後ろから現れたのが、佐藤さんと高木さんだった。
※高木さん(写真左)は、外山の先でRuntrip TRAIL 鎌倉でお世話になっている山田さんご夫妻(写真右)を拾って以降、前になったり後ろになったりしていた方だ。宮崎からボランティアとして参加していて、高木さんもマーシャルを務めていた。
そんなふたりに後ろにつかれたら、足を止めようにも止められない(笑)
「あのー、もうちょっとスピード上げてもらっていいですか〜?」
「ほら、プッシュプッシュー!」
「ここで頑張れば強くなれるよ!」
冗談めかして励ましてくれる、佐藤さんと高木さん。また、ここでも周りの景色に助けられ、足を止めずになんとか登り切った。
だんだんゴールが近づきつつあることに気づいて、左手のGARMINに目をやる。
なんと、あわよくばと思っていた、6時間台でのゴールが見えていた。
7時間を切れるかどうかの瀬戸際。
切れようが切れまいが、ここでチャレンジすることに意味がある。
塩熱サプリを口に放り込み、
ジェルを一息に吸い上げ、
フラスクの中のMEDALISTを飲んだ。
これでダメなら、それまでだ。
最終エイドからの猛チャージ
仲間が待つ最終エイドに向けて、また少しギアを上げた。序盤で出会ったボランティアスタッフの皆さんのもとへ飛び込んで、僕は元気の交換がしたいと思っていた。
「ナイスサングラスー!!」
日差しにきらめくgoodrを見て、声をかけてくれる人がいる。その先に、なんとRun boys! Run girls!の水越さんの姿が。予想外の展開に、笑みがこぼれた。
レースの途中で仲間に出会うと、どんな時でも笑顔になれる。
ボランティアとして参加していたクロちゃんは僕の姿を認めると、カメラを引っ張り出して写真を撮ってくれた。
「ミカさんがさっき出ていったよ!」
クロちゃんや水越さんと写真を撮るつもりでエイドに入ったのに、その言葉を聞いた瞬間、僕は走り出してしまった。銘菓『きぬの清流』を頬張りながら(笑)
滝尾神社からのラストスパート
最後の小さな登りの手前で、ミカさんを拾うことができた。ゴールまで一緒に行きたかったけど、ミカさんの後押しも受けたので、気合いを入れて登り切る。
そして、最後の下りに入った。ゆるやかに見えるロードだったが、さっきまで攣りかけていた内転筋にはさすがに堪える… しかしここでスピードを緩めたら、ミカさんを置いてきた意味がない。丹田にグッと力を入れ、接地をなるべく重心の下に持ってくることを意識し、長い下りを進んでいく。
そして、滝尾神社の入り口の脇に、石畳が見えてきた。二荒山神社へと続くこの石畳、とても良い気に満ちている。しかし、35km以上走ってきた脚にとっては、風情も何もあったもんじゃない(笑)
僕は東照宮の三猿を思い出し、猿になろうと決めた。平らな石、すなわち着地しやすい石をひたすら探しながら、猿のように駆け抜けた。
人生最幸のゴール
二荒山神社の前を過ぎると、そこには花道ができていた。沿道の人々からは拍手が送られてくる。手元のGARMINに目をやると、6時間台でのゴールは目の前だった。
長い直線を一気に駆け抜け、最後にもう一度GARMINに目をやる。僕は、確実に勝っていた。
手を三度たたきながら、東照宮の表参道へ。
今まで走ってきた中で、一番幸せな瞬間だった。
そして、ゴールした後の一礼。これも今までで一番、心を込めて出来た礼だった。(今大会の実行委員会・ボランティアの方々のパフォーマンスは、とても素晴らしいものだったと思います。本当にありがとうございました!)
大会を終えて
初マラソンはDNF、
「見た目はサブ3」と言われ続け、
2年前の大晦日の高尾山一周は走り切れず…
うまくいかなかったことは全てネタにしてきたけど、本当は、すごく悔しかった。
今回のゴールは、これまでに蓄積してきた全ての悔しさを、一気に晴らした瞬間だった。
これは現実なのかと思うくらい、全てを思い通りに運ぶことができ、自分に勝ち切ったと言える一日。そして、これまでの上手くいかなかったレースや、今も付き合っている脚の不調も、全て意味があると思えた。
「走り続けていれば、きっと人生は好転する」
これは嘘でもなんでもない。
ランニングに限ってしまえば、万人には当てはまらないとは思う。しかし、前を向き、足を止めず、己と向き合いながら進んでいけば、こうして必ず好転するのだ。
長い月日がかかったけど、ようやく証明できたこの一日。
僕はきっと忘れない。