角野隼斗全国ツアー @ 大阪 (2022.1.15)
1月15日(土)昼前に到着した大阪梅田駅は、風こそ冷たいものの、青空が広がり好天気だった。大阪駅で野暮用を済ませた後、角野隼斗さん(以下敬称略)のソロコンサートが開催されるシンフォニーホールに歩いて向かった(ヘッダーは撮影可だった曲が終わった直後の舞台; 左側に微かに映るのは... ww)。
昨年9月にチケットが販売された際、発表された全国ツアーのタイトルは、"Chopin, Gershwin and ..."、プログラム内容(曲目)は事前に発表はなく、当日のお楽しみだった(知りたがりやの"おさるのジョージ"みたいな私は、岡山公演の情報を頑張って収集し、色々予習したw)。
以下は、1人のショパン・角野ファンが感動したことを記憶が鮮明なうちに残したくて書いた記録だが、角野さんがスゴすぎて、それを言語化するのが難しく、拙い文章であることを最初に断っておきたい。この先、ソロコンサート(and/or 東京公演の配信)を聴く予定があって、プログラムの内容(曲目)や1ファンの感想を事前に知りたくない方にはこの先を読むことをお勧めしない。この先の文章がすぐ読めてネタバレを防ぐため、2枚写真を挿入しておこう!
【ここからネタバレ不可避!】
プログラムの前半は19世紀前半に主にポーランドやフランス(パリ)で活躍したショパン(1810年3月1日 - 1849年10月17日)、後半は20世紀前半に一世を風靡したガーシュウィン(Gershwin)(1898年9月26日 - 1937年7月11日)の曲が並び、この中に21世紀の新進気鋭の作曲家、角野隼斗の本邦初公開の曲(YouTube等にまだUPされていない)も岡山公演に次いで披露された。
今回、カラヤンが世界一の響きと評した大阪シンフォニーホールに行くことも楽しみの一つだった。座席が舞台をぐるりと囲むアリーナシアターの形をしており、どの席からも1,700人余りの観客を見渡せ、他の観客と音楽を共に楽しめる空間になっている。周囲は木目調の壁で温かみが感じられ、天井の反響板はクラシック音楽に最適とされる残響2秒を実現しているとのこと(詳細はホール案内を参照)。
前半:ショパン and …
開演時間の午後2時になり、舞台の照明が少し暗くなると、ダークスーツに白シャツの角野が姿を見せ、会場からは大きな拍手が湧き起こった。昨年9月から待ちに待ったソロコンサートがいよいよ始まる!ドキドキしてきた!今回は角野のソロコンサートが初のFFさんと一緒に来た。席は真ん中ブロックの後方、センターより少し右寄りだったが、ピアノの置かれた位置や角度のお陰か、手元も表情も何とか見える席だった。オペラグラスも持参して、時々手元や表情を観た。
プログラムの幕開けは、ショパンのワルツ 第1番 変ホ長調 Op.18 「華麗なる大円舞曲」。これはショパコンの予選2次で角野が弾いた曲(リンクはこちら、17’07”から)である。ショパンがパリに移る前、ウィーンで作曲したワルツだ。最初の「シ」の同音連打が既に角野らしく、待ち侘びていた躍動感溢れる軽快なリズムのワルツの演奏に一瞬で引き込まれた。のびのびと楽し気に弾いていて、その姿を見られただけで、早くもHappyになった。弾き終えると、大きな拍手が起こり、角野は深くお辞儀し、マイクを両手で真っすぐ持って挨拶(以下は記憶にある範囲で思い出したトークの内容だが、一部曖昧な箇所は意訳している)。
椅子に座るや否やすぐに始まった大猫のワルツ(YouTubeの動画)。以前、角野はモデルの大猫(プリンちゃんというお名前)のことを「大きいけど、機敏に動き回る様子を表現してみた」と話していたが、今日の大猫のワルツ、久しぶりに生演奏を聴いたが、優雅で軽やかで和声も美しく、聴き惚れてしまった。
代官山の蔦屋書店2階のカフェからの配信で「僕、3拍子、ワルツが好きなんですよね、気が付くとワルツばっかり弾いてしまう」といったようなことを話していたかと思うが、この曲はワルツを弾くのが好きで得意な角野の真骨頂が発揮された代表的な作品に思え、聴くたびに「お洒落度」が増している気がする。
大猫のワルツの後、ホールの照明が暗くなり、ピアノの鍵盤付近だけに照明があてられ、何か新しいことが起こりそうな雰囲気になった。一呼吸おいて始まったのは、プログラムに記載があったオリジナル曲の1つ目、角野隼斗/ショパンの胎動(Movement)」。ワクワクしながら聴き始めた。右手は、耳馴染みのあるショパンのエチュード Op.10-1のアルペジオ(分散和音)をモチーフにしているようで、左手は、味わい深い旋律で、チェロを奏でているような雄弁な音色に思わず身を乗り出して聴き入ってしまった。そうした方が、より集中して音色に耳を傾けられそうな気がしたからだ。このハーモニー、ピアノ1台、ピアニスト1人で奏でていると思えず、まるでカルテットみたいで、色彩豊かで厚みのある演奏だった。
曲名の「胎動(Movement)」は、国語の辞書的には、新しいことが内部で動き始めることを意味する。私には、右手が天(にいるショパン)の声、左手が角野自身の内なる声(言葉にできない感情)のように聞こえた。角野が帰国後のインタビューで、ショパコンの予備予選(参考: 演奏動画、私の感想note)時に珍しく、とても緊張していたことを明かし、その時の状況をショパンに対して畏敬の念を感じた、ショパンと対峙していたような気持ちになっていた、といったような表現で話していたと記憶している。その時の感情を、ショパコン期間中に触れたポーランドの空気も合わせて、音色に乗せ、曲に仕上げた、そんな印象を持った。
【1/16, 20:30追記】ふと思い出したのだが、重厚な和声の響きは、倍音の効果もあったなと思った。倍音については、つい最近Cateenラボでレクチャーがあったところで、記憶に新しかった。
次はショパンの「マズルカ ハ長調 Op.24-2」。これはショパコン3次予選の演奏(リンクはこちら、3’09”より)をレビューしたGramophoneの記事で、Jet Distler氏(ピアニスト、作曲家、音楽ライター)が絶賛した曲だ(それについての詳述したnoteはこちら)。独特な和声の響きが、教会で聞く聖歌(讃美歌)っぽくもあって、オリジナル曲の胎動がすごくて興奮していた気持ちを静めてくれた。
マズルカOp.24は、ショパンが両親との(最後の)再会を楽しんだ頃に作曲され、ポーランドの3つの踊りが描かれているが、その幸せな家族との再会の情景(映像)が脳裏に浮かんでくるような演奏だった。2分くらいの短い曲を弾いても、なんか絵が見えてくる感じがするってすごい!
続いて、ショパンのエチュード イ短調 Op.25-11「木枯し」。YouTubeのCateenチャンネルで、初クラシックとしてUPされ、再生回数376万回以上の人気曲(2022年1月15日現在)。今日の「木枯し」も右手の細かいパッセージの音粒が美しく、左手の主題の和音もホールに良く響き、圧巻の演奏に息するのも瞬きするのも忘れてしまうほど。この曲は(も)、私ごときがごちゃごちゃ言わず、多くの方に生演奏の感動を味わって頂きたいと書くに留めたい。ここでいったん立ち上がってお辞儀(をした記憶があるが、舞台袖に行ったかは失念)。
再び舞台の照明が暗くなった。本邦初公開の「角野隼斗/ショパンの追憶(Recollection)」。冒頭、角野が静かに響かせるバラード2番のモチーフがかすかに聞こえてくる。角野が加えた旋律、和音も織り交ざって、ハーモニーが次第に厚みを増してきて、照明も少しずつ明るくなっていく。先程の「胎動」がショパンとの対話だとすると、この「追憶」は、ショパコンが開催されたワルシャワやその後訪れた場所でのさまざまな経験や色々な人との新たな出会いを振り返って、辛かったことも悔しかったことも、嬉しかったことも楽しかったこともひっくるめ、うごめく感情、心の叫びみたいなものを音にしてみた、音楽に込めたような気がした。7月の予備予選、10月の予選をずっと追いかけてきた1ファンとして感じたことが走馬灯のように駆け巡り、時々胸がギュッと締め付けられるようになったり、ふわっと解放されるようになったりしたが、曲を聴き終えた時には1つのショート・ムービーを見終えたような充足感があった。角野さん、近い将来、何かドラマや映画などに音楽をつけるお仕事が来そう!と思った(「物語から響く音楽」というお題で川村元気氏と対談(新潮社「波」2022年1月号)した際、角野は物語に音楽をつけることに関心があると話していた)。
「追憶」の次の選曲「ショパンの後期マズルカ 嬰ハ短調 Op.63-3」も心に沁みた。うら悲しい旋律と落ち着いた左手のリズムが、先程の「追憶」で(勝手に)揺れ動いた感情を沈静してくれるかのようだった。以下はポリーニの演奏。
前半最後の曲は、夜中の1時から固唾を飲んで見守った3次予選(リンクはこちら、25’35”から)で角野が弾いた「ショパンのピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35」。生演奏は昨年6月下旬の紀尾井ホール(この時の感想文)で聴いて以来だった。いつだったかのインスタライブかCateenラボで、ソナタ第2番は、金子先生の下で、中学生の頃から10年以上、弾き込んできた曲と話しており、角野自身、思い入れの深い曲と知った。今日はコンクールの時の演奏を思い出したりせず、新たな道で頑張り始めた角野が弾くソナタ2番を、新鮮な、いや、まるで初めて聴くかのような気持ちで聴くことができた。第1楽章の冒頭から、角野が紡ぐ葬送の世界に引き込まれ、自分が大阪のシンフォニーホールにいることを忘れて聴き入った。第3楽章が始まる前、鍵盤部分も見えないんじゃないかと思うほど、照明が暗くなった。葬送行進曲とそれに続く儚げな旋律の部分は特に心に沁みた。途中で照明は徐々に明るくなっていったが、第4楽章が終わった後も、暫く葬送の世界の余韻に浸っていた。が、周りの盛大な拍手の音で、現実世界に何とか戻って来られた。
後半:Gershwin and …
20分の休憩を経て、角野が白シャツを外側に出し、ラフなスタイルで舞台に再び登場した。前半のクラシックコンサートから雰囲気を変えたかったんだろう。マイクを両手で握り、再びトーク。だいたい、以下のような内容だったと思う。
マイクを置いて、椅子に座って直ぐに始まったのは、ガーシュウィンの「I Got Rhythm」(1930年にミュージカルのために作曲されたもの)。昨年12月頭、ショパコンが終わって初めてYouTubeに上げられた「I Got Rhythm」だが、冒頭「あれ?これ何?」と思ってしまう新しい前奏が、即興で付け加えられたようなバージョンで、随所に即興アレンジ(角野の即興については別noteで記述)が加わっていた。大阪公演スペシャルバージョンだな。他公演ではまた違うアレンジになるに違いない。そして、左足で大胆にリズムを刻み、シャツを出したラフなスタイルとともに、Cateenが降臨し、ブルーノートのライブを思い出した。ミュージカルのバックによく出てくるニューヨークの摩天楼みたいな背景が、Cateenさんのバッグに見えてきたような気がした。
【2022.1.22に追記】2021年12月6日のかてぃんラボでは、角野がYouTubeにUPしたI Got Rhythmの作編に際し、Art Tatumの演奏を参考にしたと話されていたことを思い出したので、YouTubeで見つけた音源を貼っておきたい。
この後、3つのプレリュード(1926作曲)。緩やかなテンポで始まり、疾走感のあるテンポに変わり、再びゆったりのテンポで終わる曲調。右手の旋律が自由で即興的なため、弾き手によって曲の雰囲気がガラッと変わる気がする。角野バージョンは、前半のワルツの軽快さをJazzyな雰囲気に少し崩し、左足と左手はダンスのステップを踏んでいるようでもあった。
こちらは公式サイトからのYouTube動画を見つけられなかったため、プレリュード第2番(Amazon musicより)だけを貼り付けておく。
角野隼斗のティーン・ファンタジアは、少年が冒険しているイメージと聞いたが、今までのオリジナル曲(HAYATOSMに収録されている曲)とは全然違った。以前の曲はショパンやリストっぽさを随所に感じたが、今回のはそうじゃない。20世紀に活躍した音楽家たち、ガーシュウィン、ラヴェル、カプースチンっぽいかな?と思うフレーズもあった気がするが、もっとジャズっぽい即興性があって、新たな境地を切り拓いた感じがした。次の公演で再び聴くのを楽しみにしたい。
弾き終えた後、大きな拍手に応え、全方向にお辞儀をして、舞台袖に消えた。スタッフの方がピアノの台に何やらセットしに来た(ピカニカを置く黒い布かな?)。しばらくして、赤いピアニカを小脇に抱えた角野が登場し、ピアノ脇のテーブルに置き、マイクを手にした。
大きな拍手に応え、笑みを浮かべ、首を立てに振りながら、椅子に着くや否や、ラプソディインブルー(1924年にガーシュウィンが3週間で作曲)を弾き始めた。彼のソロの生演奏は、昨年6月7日のブルーノート以来。
今日の即興アレンジもカッコ良かった!途中、ピアノに乗せたピアニカでも、重音の旋律を弾いていたり、ピアニカの演奏が凝っていて、新しいアレンジに聴こえた。彼のラプソディインブルーは、昨年UPされたYouTube動画だけでも3つ(サントリーのオケとの共演、"Main Stream" of Jazz Auditoria Online 2021、Globe TrotterのDisney 'This Bag Contains Magic' Exhibition)あるが、どれひとつ同じバージョンはなく、それぞれにかっこいい。カデンツァのところ、結構冒険していた印象。New Year Eveのハンブルクの小曽根さんの演奏(以下のリンクから聞ける)に刺激を受けたのかな。
【1/16, 20:30追記】Twitterで感想を書いていらしたFFさんのお話では、ラプソディは20分位だったらしい(笑)ソロとしては長めかな?ホールにいた時は夢中で、どのくらいの時間だったのか、分かっていなかった。
弾き終えて、椅子から立ったら、前方ではスタオベされる方が見え、後方もちらほら。360°の観客席に何度もお辞儀をして、舞台袖に引っ込んだり、出てきたり、繰り返したが、止まない拍手に応え、マイクを持ってコンサートの締めの挨拶を始めた。一部あやふやな箇所もある。
Encoreの1曲目は、パデレフスキのノクターンOp.16-4(弾き終えてから、曲名が紹介された)。ラプソディインブルーで高揚した気持ちをクールダウンするような、ゆったりしたテンポで、右手と左手で交互に旋律を歌っている、やさしい音色の曲だった。昨年、ショパコンの後に亡くなったネルソン・フレイレの演奏を貼り付けておく。
鳴り止まない拍手に応えて、舞台に再び現れた角野は、「これから弾く曲だけ、撮影可にします。皆さん、スマフォの電源をオンにしてください」というと、客席からどよめきが起こり、角野は隼くも弾くそぶりを見せ、私たちを焦らせる。まだ、まだ、待って待って、という声が会場から聞こえ(本当は声を出しちゃダメww)、ほんの少し、待つそぶりを見せた(笑)。始まったEncore2曲目は、岡山公演に行った友人達から聞いていた(笑)ショパンの子犬のワルツ(普通の!速さの動画)だった。かつてのブーニンもビックリな速さで弾き始める(笑)。このスピード、私は大好き!途中でJazzyなアレンジを加え、ゴージャスな子犬さまになった。皆さん、過去のコンサートやYouTubeで一度は聞かれたことがある、あの洒落たアレンジ!弾き終えて、何度もお辞儀をして、舞台袖に去ったが、まだまだ拍手が続いた。
再び現れ、もう1曲だけ弾くよと指でジェスチャーし、Encore3曲目として、英雄ポロネーズ(HAYATOSM収録版はこちら)を弾き始めた。今回の公演で是非とも聴きたかった曲の一つ。速めの子犬のワルツの勢いを引き継いで、若干速め(笑)。でも、カッコいい(私が言わなくても、みんな知ってるww)。左足でリズムとってる、左脚上がってる!弾き終わった時のポーズもカッコ良かった!終わると同時に、客席のほとんどがスタオベで大大絶賛!!
何度かカーテンコールが続いたが、最後は客席が明るくなり、角野も下手に姿を消す直前に客席に向かって両手を上げて大きくバイバイして、袖に消えた。4時少し回っていた気がする。興奮していて、時計を見ていなかったから、実際の終了時刻は分からない。
【1/16, 20:30追記】先程、ラプソディの時間を教えて下さったFFさんに聞いたところ、終了時間は16:20だったとのこと。休憩時間20分を引いたら、丸2時間のコンサートだったことになる。
20時半ごろ、角野さんからツイートがあった。私はまだ余韻に浸っていて、感動を140文字以内に表すキャパがなかった。。
最後に...
最初から最後まで、楽しかったり、しんみりしたり、、、私みたいに2021年の角野さんの活躍をずっと応援していたファンには感無量だったに違いない。
大きなホールに、ピアノ1台、ピアニスト1人で約2時間、全く飽きさせることなく、人を惹きつける音楽を届けられるって、改めてすごいと思った。素晴らしくて、言語化できなくて、小学生の日記みたいな文章しか書けなくなっている。以下は、本noteをUPした後のツイート(コンサート翌日1月16日、日付が変わる10分前💦)。
明日の夜、全体の感想を追記することにして、ひとまずこの状態でUPする。
はやとちり番組スタッフさんも角野ファンと確信(当然ですね!)
(終わり)