Datierung デート。おとこふたり。
肌寒い早朝。
ザルツブルグ行きの列車の発車を待つ。
日本で言えば初冬の肌寒さというような空気の冷えた朝だった。
目の前にはペーターがいる。
いよいよ男二人の旅が始まる。ザルツブルグで乗り換えてウィーンへ行く。
そしてウィーンのカナッペ屋で一杯やるというそんな日帰りコースなのだが、日帰りするには想像していた以上に時間がかかる為、朝一番の列車に揺られることとなったのだ。
・・・どうも昨夜からペーターの様子がおかしい。
久しぶりの遠出でテンションが上がっているのだろうか?
いや違う。
『タケ、列車のトイレはいつは入っても大丈夫なのか?』
『もちろん。いつでもだいじょうぶだよ』
あまり電車にも乗らないからトイレの不安があったのか。
いや違う。
『財布は腹に巻いて。小銭なんかも靴に忍ばせて。』
時に不思議に思ってしまうのは西洋人の華やかな外見からだろうか。
もちろん田舎っぽいとか都会っぽいとかあるのだが、バイエルンなんて基本的に田舎町だし大都市ミュンヘンと言えど、“都会的”とはいいがたい。それ故に、“都会”も“田舎”も大差がない。
ペーターのことを特に田舎者だ、などとも思っても居なかったのだが。
お金をどこに忍ばすか、そのくだりでようやく違和感に気付いた。
なるほどウィーンという都市名に緊張が隠せないのか。
別に外見だけで判断すればウィーンの人間も、ペーターも何も違わない。
走り出した列車の中で、そんなペーターの新しい一面を見れたことに嬉しさを感じつつ小一時間でザルツブルグに到着する。
乗り換えのホームでもペーターがあたふたしていた為、列車に乗り慣れた私がリードする。
親子ほど年齢の離れたドイツ人とアジア人という2人はホームでも異彩を放っていたに違いない。
並々ならぬ関係。
と感じた者も多かっただろう。
周囲から見ても、本人たちにしてみても“珍道中”の名に恥じない珍道中なのだ。
ウィーンからお目当てのカナッペ屋に着く間に、2人で城を散策。
カナッペ屋を後にした2人は、カフェデートでザッハトルテを頂く。
全ての女子がうらやむようなデートコースをおじさん2人が駆け抜けた。
『こういう日も良いもんだ。』
帰りの電車で夕日を見ながらペーターがつぶやく。
我が修行時代に、部屋を解放してくれ、心の支えになってくれたペーターにようやく少しは恩返し出来たような気がした。
『グリューナー・ヴェルトリーナー。ボトルで』
カナッペを食べるなら、これは外せない!的なデート必勝本に出てきそうなフレーズはプリーンの駅に着くまで心地よく頭の中をめぐっていた。