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文披31題140字小説まとめ

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☆文披31題とは
綺想編纂館様の小説投稿企画。詳しくは下記をどうぞ!

【No.-225 リィンカーネーション】Day1.夕涼み
風鈴が咲く時期になると、私は亡き母の言葉を思い出す。「綺麗だけど摘み取ってはいけないよ。元は誰かの命だからね」母は縁側に座りながら、寂しそうに団扇で涼ませてくれた。親になった今、家の庭先で小さな風鈴を娘が揺らす。今年は多くの命が失われた。りりん。と、追悼の音が鳴り響く。

【No.-226 恋慕喫茶】Day2.喫茶店
大学の後輩に告白するため高級喫茶店に訪れる。この緊張は大正浪漫あふれる内装のせいだろう。「僕と付き合ってください」嫌いなコーヒーを飲む手が震えた。後輩がカップに角砂糖を落とす。「苦さも、パンケーキも、不安も半分こ」声が上擦る。「幸せも、お会計も半分こです」優しく笑った。

【No.-227 虹焦がす命】Day3.飛ぶ
人間は亡くなると傘に変化する。遺された者が涙で濡れないように、後悔で身を焦がさないように。あの日、豪雨による自然災害で多くの犠牲者が生まれた。夏になると故人の魂を弔うため、傘を一斉に飛ばす行事が行われる。色とりどりの傘がふわり浮かぶと、薄暗かった空に大きな虹が架かった。

【No.-228 人魚水葬】Day4.アクアリウム
人魚に恋した青年は海で暮らしたいと願います。美しい声も、鰭も、失うにはかけがえのないもの。ならば、代償を払うのは醜い自分の方。青年は魔女に祈り、感情を犠牲にして海に潜りました。人魚は悲しみます。同じ世界で生きられなくても、ありのままの青年と過ごせるだけで幸せだったのに。

【No.-229 少女琥珀】Day5.琥珀糖
少女琥珀展を鑑賞する。琥珀糖で模した少女は色鮮やかで、気味の悪いほど生々しかった。怒っている少女は赤、泣いている少女は青。幸せそうな少女は緑。感情が、命が、不透明な体に混ざっている気がした。会場を満たす甘い香りが饐えていく。そういえば、最近は行方不明者のニュースが多い。

【No.-230 息衝くような速さで】Day6.呼吸
誰もが当たり前にできることを『息するように』なんて例えるけど、私は昔から呼吸が下手だった。息を吸うのか、吐くのか、時々わからなくなって苦しくなる。生きる為の儀式を無自覚に行える人達が恨めしく、羨ましいと妬む。だから冬は嫌いだ。吐いた白い息が、濁った私の性根を染め上げる。

【No.-231 星天前路】Day7.ラブレター
婚姻届は夫婦になるためのラブレターかもしれない。彼とは短冊に願って付き合えたから、入籍は七夕の日と決めていた。窓口預かりで受理は次の日になるけど。他人や家族じゃない今に不安を覚える。それでも、目が覚めれば天の川を超えられるはず。灯りを消して、運命の赤い短冊を握りしめた。

【No.-232 ザザ降り、ザザ鳴り。】Day8.雷雨
運動会のリレーでバトンを落としてから、私の心には雷雨が降り続く。乾いた地面を歩けば水音がして、生きづらさを感じる度に雷鳴が落ちる。雨なんか降ってないよ、雨なんか降ってないよ。そう言い聞かせても、あの日の後悔は止まないのだ。傘を差す癖が抜けない。雨なんか降っていないのに。

【No.-233 喝采】Day9.ぱちぱち
大学時代、主役を務める演劇で浴びた拍手喝采が忘れられない。それから、呪いのようにぱちぱちと響く音を求め始めた。爆ぜる焚き火、弾ける綿菓子、部屋の家鳴り。人生を間違えなければ、僕は今でも主役でいられたのだろうか。パチンコを打つ音が拍手と重なって、未だ見せかけの輝きに縋る。

【No.-234 夢の粒】Day10.散った
散った夢の欠片はこんぺいとうになる。小説家、イラストレーター、美容師。粒は職業により色も、味も、大きさも千差万別だ。口に含むとパティシエになって洋菓子を作るイメージが膨らむ。私の諦めた夢も、誰かの救いになってほしい。もう一つ食べると懐かしい味がする。そうだ、私の夢は――

【No.-235 恋琴術】Day11.錬金術
高校の修学旅行で沖縄に訪れる。泳げないので砂浜で休んでいると、委員長が頬にペットボトルを当ててきた。「炭酸、苦手なんだけどな」「知ってるよ」いつもは暗い表情なのに、熱に浮かされてか意地悪く笑う。体が火照る。海がさざめく。嫌いだった夏から、彼女が恋とキラキラを生み出した。

【No.-236 しによん!】Day12.チョコミント
彼女のお団子頭がチョコミントアイスになっていた。どうやら食べたもので変わるらしい。エスカルゴなら紫陽花、おにぎりならサッカーボールといった具合に。疲れた顔で就活に向かう前、彼女がポンポンに変わった髪を揺らして応援してくれる。そういえば、昨日の夕ご飯はトンカツだったっけ。

【No.-237 青春を描く】Day13.定規
砂浜にイーゼルを置いて、キャンバス代わりの海を眺めた。修学旅行中の高校生のために『青春』を描く。水彩絵の具でさざ波を、雲形定規で入道雲を現実に生み出す。どこかで風鈴が鳴った。私自身が美しくなくても、私の描いた物語が誰かの光になれたら。そう信じて、今日もまた絵筆をふるう。

【No.-238 さやかな、ささやか。】Day14.さやかな
「『さやかな』と『ささやか』って、言葉は似てるのに意味は正反対なのね」彼女が夜空を見ながら話す。「『サイレン』と『サイレント』もか」そう思うと不思議な気分だ。「あ、流れ星」ささやかな時間に、さやかな光が降り注ぐ。僕達の日々だって似てるけど、退屈とは程遠いのかもしれない。

【No.-239 凪晴るる】Day15.岬
家も学校も辛いとき、私は岬に住む魔女の元を訪れる。「昔は人魚だったけど、人間のせいで汚れた海を捨てて魔女になったのよ」お姉さんはいつも色んな話をしてくれた。庭に咲く風鈴のこと、散った夢は金平糖になること。「逃げてもいいなんて綺麗事だけどね、苦しくなったらいつでもおいで」

【No.-240 ワープカーテン】Day16.窓越しの
毎朝、カーテンを開ける度に窓越しの景色は変わる。水族館、小宇宙、白亜紀。入院生活が長い僕にとって楽しみな瞬間だった。ある日、僕の通う小学校が映る。仲の良い友達、優しい先生。この部屋にいればどこでも冒険できるけど、僕が本当に行きたい場所は、やっぱりみんながいる教室なんだ。

【No.-241 想い編む】Day17.半年
半年に一度、人類は選んだ一つ以外の言葉を忘れてしまう。その度に僕は恋を、彼女は愛をお互いに教え合う。好きだから一緒にいるのが恋で、嫌いだけど一緒にいたいのが愛だそうだ。言葉足らずで傷付けてしまうかもしれない。でも、思い出せるならきっと僕達は大丈夫なはず。

【No.-242 在りし夏】Day18.蚊取り線香
匂いの記憶と言うけれど、人が最後まで覚えている五感は嗅覚らしい。蚊取り線香の煙、夕立の香り、手持ち花火の匂い。幾許の年月を一緒に過ごしただろうか。病室で眠る妻の走馬灯が、僕との在りし夏であってほしいと願う。人生最期の日に思い出す妻の記憶が例え、薬品の臭いしかしなくても。

【No.-243 トマトマト】Day19.トマト
カロリーを気にする僕のために、小学生の息子が料理を作ってくれた。ご飯をカリフラワーに、鶏肉ではなく大豆ミートを使ったオムライスは格別においしい。お皿まではみ出した『けんこうになりますように』という無邪気な願いが沁みる。まぁ、ケチャップの量が多いのは見なかったことにして。

【No.-244 摩天楼エレベーター】Day20.摩天楼
最近はビルの育つ速度が早い。至る場所で生えてくるため、解体士の数が足りずに放置されることが多かった。立地が良ければそのまま利用できるけど、日照権や航空法など問題の方が山積みである。ただ何十年も昔に生えたビルは、地球と宇宙を繋ぐ超高層建築物としてその成長を見守られていた。

【No.-245 サマーレコード】Day21.自由研究
小学校の自由研究で『夏を壊そう』をテーマに、僕はペットボトルロケットを作った。大人になった今でも、病院沿いの砂浜に行くと思い出す。空に飛ばして、太陽を割って。届くはずなんてないのに。子どもとはいえ本気だった。彼の余命である夏を壊せば、友達を助けられると思っていたんだよ。

【No.-246 青と夏】Day22.雨女
バス停で雨宿りしながら俯く。昔は泣き虫なので『雨女ちゃん』と馬鹿にされていた。そのせいか天気の悪い日は憂鬱になる。でも泣いたあとの笑顔はとびきり素敵だって、幼なじみの男の子が慰めてくれたっけ。「あ」バスから彼が降りてきた。「お」雨が止む。私の心と空に、大きな虹が架かる。

【No.-247 命浮かぶ】Day23.ストロー
私が落ち込んでいると祖母はシャボン玉を吹いてくれた。ストローから生まれた泡がぬいぐるみ達に弾けて、楽しそうに部屋を動き回る。今にして思えば、あれは祖母の命をおもちゃに込めていたのかもしれない。悲しむ母を余所に私は無邪気だった。歳以上に老いている、祖母の優しさも知らずに。

No.-248 熱を生むDay24.朝凪
呼吸がどれほど難しいことか、焦燥を堰くように海岸を走り出して気付く。私の幸せも、将来の夢も、喧嘩したあの子との関係も、今はまだ凪いでいるだけだ。陸風から海風へと変わる合間に佇む。息を吸って、澱を吐いて。水平線の向こうには必ず道があると願う。途切れても、風はまた吹くはず。

【No.-249 ふれる】Day25.カラカラ
カラカラ軋む音に俯いた顔を上げると、老夫婦の押すベビーカーには赤ちゃんの人形が座っていた。一瞬、気色悪いと思った自分を呪う。偽物の光だからこそ、救われる人はきっといるはず。「どうか、抱っこしてあげてください」人形の体にふれる。僕の左手も作り物だけど、この温もりは確かだ。

【No.-250 静かな寄る辺】Day26.深夜二時
深夜二時のファミレスはどこか寂しい。小説家になるのが夢で、時代に合わず筆と原稿用紙で物語を書いていた。有名になれば何者かになれると信じて。ふと、辺りを見回す。遅くまで働く店員さんも、長距離ドライバーも、誰かを救う何者かだ。昏い光かもしれない。だけど僕の小説も、きっと――

【No.-251 リスの恩返し】Day27.鉱物
ドングリの代わりに鉱物を溜めるリスが稀にいるという。頬袋パンパンに詰め込んだ鉱物は、リスの唾液や前歯で削る過程で色んな宝石に変わって、愛情を注いだ飼い主には一個プレゼントしてくれる。アクアマリン、スピネル、フォスフォフィライト。何が生まれるかはお楽しみのリスの恩返しだ。

【No.-252 おだんごころ】Day28.ヘッドファン
彼女のお団子頭がヘッドフォンに変わってたけど問題はないらしい。そんなものかと笑って、たまには縁側で寄り添い合う。『あなたの隣はドキドキするなぁ』「え?」彼女の心の声と心臓の音がお団子頭から鳴り響く。「わー!今のなしなし!」気付いた彼女が顔を真っ赤にしながら髪をほどいた。

【No.-253 想い焦がれる】Day29.焦がす
昔、息子が私に白紙をくれた。炙り出しをすると『肩たたき券』の文字が滲んでくる。どうやら素直に渡すのが恥ずかしかったらしい。あの時は意地悪く笑ったっけ。なんて、いつまでも過去に縋るわけにはいかない。亡き息子の未練と手紙を燃やして、焦がす。例え、想いが浮かび上がらなくても。

【No.-254 六等星の瞬き】Day30.色相
今年の夏も海辺に色とりどりの傘が浮かぶ。元は亡くなった人が変化したものだ。ふと、青い星形の傘が私の側までやってくる。すぐに彼だとわかるのは、きっと、魂で繋がっているからなのだろう。涙が落ちる瞬間に傘が開く。私を慈しむようにくるりと回って、空に舞いながら悲しみと連れ立つ。

【No.-255 シ春期パノラマ】Day31.またね
いくつもの世界がパノラマのように流れ込む、思春期にだけ罹る症状があった。風鈴や傘に変化する魂、宝石を食むリス、海をたゆたう人魚。もう何年、私は病室で過ごしたのだろう。「またね」誰かの声が響く。繋がった手が離れる。死の間際に夢を見ていた。長い夢を、見ていたのかもしれない。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652